そして始まる閑話という名の過去
過去です。
もう一話続きます。
でも次に更新するのは本編です。
「ん・・・ちょっと血がついたな・・・。予想外、か。強かったな・・・」
たった今、Lv.970のボス級モンスター、[アクロ]が絶命した。
水属性の蛇のようなモンスターで、自在に水を生み出して常に自分に有利な状況をつくりながらも様々な特殊能力を駆使するため、かなり厄介な相手だった。
ダメージはほとんど受けなかったが、返り血がついた。
このこと自体、滅多にないことなんだよな、と思いつつ仕方ないので近くの街へ行くことにした。
服も身体も綺麗にするために。
「でも・・・流石に張り合いがない。レベルも結構上がったし、次はもっと奥に行くか」
俺は愛剣についた血を払い背中にまわし、とりあえず近くの街、[カーテン]に向かって歩き始める。
しばらく歩いた。
街の座標が正確に分からないから、歩いていくことにしたが・・・結構遠い。
まぁ急いでるわけじゃなし、ゆっくり行こう。
あくびをかみ殺し、無意識のうちに周囲へ索敵を行う。
・・・反応がある。人間? こんなところで?
このダンジョンはモンスターレベルは高いが、出現頻度が極端に低い。
あるとき何も知らず足を踏み入れてしまった街の人間がいて、その人間はこのダンジョンの素材をみつけ、まだ世に出回ってない貴重なものと知ると、たくさんの素材を収集し、街へ持って帰った。
初めて見つけた人間が利己的ではなかったために、このダンジョンのうわさは瞬く間に広がった。
もちろん、たくさんの人間がそのダンジョンへ行った。
しかし、1週間ほどで違和感にきづく。
『戻ってきていない人が何人もいる』
それはダンジョンに向かった人達の、全体の1%くらいだったが、人々は恐怖した。
そして、ダンジョンへ向かう人間が極端に減り、暗い雰囲気のこの街に、HPバーがかろうじて残っている状態の瀕死の人間が一人、帰ってきた。
その人間は言った。
『このダンジョンにはモンスターがいる。それも、すさまじい強さの個体が・・・』
それから、腕に覚えのある人間が何度も何度もダンジョンへむかった。
それらの人間は、2~3回目の突撃で、ぱったりと帰ってこなくなる。
それからは、そのダンジョンに向かう者はほぼいなくなった。
・・・かなり要約したが、まぁこんな感じだ。
それでも貴重な素材を求めここにくる者はいないわけじゃない。
いくら危険とはいえ、モンスターを避けさえすれば死ぬ可能性は高くない。
だが、そんな者はやはり超少数派。
にもかかわらずここにいる、ということは・・・
よっぽどの変人か、金、またはここの素材がどうしても必要だったか・・・
どちらにせよ、悪人じゃないなら保護するか。
という訳で、人間の反応があった場所へ行くことにした。
「ひ・・・・・・・・・・・・・!!」
こんな・・・こんなはずじゃなかった・・・
ただ、お母さんを助けたかっただけなのに・・・
「・・・・・・・・・・」
目の前には、銀色の毛をもつ狼のようなモンスターがいて、無言で私を見つめてくる。
・・・お金が、必要だった。
お母さんが病気にかかって、私の家は貧しいわけではなかったけど、この病気を治すためにはすごく高価な薬が必要で、その薬を買うためには、お金が、必要だった。
だから、素材を手に入れるためにここにきたのに・・・
モンスターなんかほとんどいないんじゃなかったの!?
どうして、私が・・・
絶望した。
そして、死も覚悟した。
その瞬間、
パァァァァァァァァァァァ!!
と、私と狼の間に一筋の銀色の光が奔った。
あまりに速すぎて、どちらから飛んできたのかさえ分からない。
しばらくして光は消えたけど、私は意識が追いつかず、光の残像をぼーっと見つめていると横から突然声が聞こえた。
「おい!! 大丈夫か!?」
助かるなんて保障はないけれどその声は自信に溢れてて、私はなぜか心の底から安堵し、目からは涙が流れていた。
そしてなんとか意識の糸を強く手繰り寄せて意識をはっきりさせると、いきなり現れたヒーローを見た。
・・・どういうことだ?
なにも感じなかった・・・。
俺がこんな近くにいたモンスターに気づけないなんて、ありえない。
その非常識さは、俺が一番理解している。
だが現にこいつはここにいる。
レベルを識別する。
ちっ・・・
「お前・・・・!」
レベルは1300。
明らかに過去最高レベル。
そして・・・今の俺と全く同じ・・・・!!
1レベルの差が天と地ほどの実力差を生むこの世界では、相手よりレベルが10高ければまず確実に安全だ。
人間同士の場合は一概には言えないが。
レベルが上がる度にある一部分だけを特化させ続ける人間がいるためだ。
もし俺と同じレベルの人間が魔法だけを特化させていれば、魔法に関しては俺は劣るだろう。
この世界じゃそういうシステムだ。
そして、同じレベルのモンスターと相対すれば、勝率は未知数。
しかもこの狼、確実にボス級・・・!
「やるしか、ねぇか・・・!」
サクヤは今まで生きてきて、おそらく初めてであろう、『本気』で狼へと向かった。