起承転結的にいうと、『起』・・・でもまだ一応プロローグ。
俺は全力で走る
と言うより飛んでいる。
加速、加速、加速、加速!
魔力を身体中にめぐらせ、『速度』を限界まで加速する。
一瞬の加速なら超音速を出せるが、持続的な加速はそうはいかない。
それでも常識を遥かに逸した速さでダンジョンを駆ける。
道といった道がなく、草木が鬱蒼と茂り、もはや熱帯雨林。
そんなものにかまうことなく、俺は木を吹き飛ばしつつモンスターの反応を追った。
5、6キロ走っただろうか。
ミナがこんなに早く移動できたとは思えないが、ミナの魔力の反応もないから、とにかくモンスターへ向かい走り続けていた。
そして、ターゲットをついに肉眼で捕捉する
「う~ん・・・ナニこれ?」
デカっっっっっっ!!!
一人で『アース』の超奥地、Lv.800前後のモンスターがうじゃうじゃいるダンジョンに毎日のように篭っていたあの頃から久しいが、ここまでデカいのはそんな俺でさえ滅多に見ない。
でも、必ずしもデカい=強いわけではもちろんない。
現に俺が今までに出会ったモンスターの中で最も強かった個体はLv.1300相当だったが、大きさは1.5メートル程。
それでもあの迫力はすごかったけどな。
が、とりあえずデカいとある程度以上は強い場合がほとんどだ。
そしてこいつはとにかくデカい。
遠近感、距離がつかめない・・・ほどでもないけど。
俺が見上げてもそのてっぺんが見えない程に高い木がこのダンジョンにある。 なのに、その木もせいぜいあのモンスターの半分に達するかというところ。
ここから見た感じ、全長4、500メートルはある。
とりあえず、ターゲットのレベルを調べる『識別スキル』を発動し、敵を見据える。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・はぁ!!!!!!!!!!?」
俺の視界に識別結果が表示される。
[Lv.730]
確かにそう表示されている。
「て、てめ、どっから現れた!!」
こんなレベル、現時点の『アース』攻略最前線にだって出てこない。
アースに現れたモンスターの最高レベルは『Lv.167』ということに『なっている』。
実際には、何人いるかも知れないが俺のように、才能がありすぎたために社会に不適合の烙印を押され精神的かつ社会的に世界から敵視されるのを避けるため、レベルを隠し、金儲けもほどほどにひっそりとくらしているやつらがいくらかいて、そいつらはもっと高いレベルのモンスターを相手にしているが、一般には知られていない。
だいたい、自分の実力を誇示したがる人間ほど才能にはめぐまれないもの。いままでにも何度かそういった事件があったが、数える程しかない。
能ある鷹は爪を隠す、ってやつだ。
・・・また話がそれたが、こんな低レベルダンジョンにここまでの大物が現れることは絶対にありえない、はず。
なぜかこのダンジョンには、ここのレベルに合わないモンスターが度々現れる。
そのためこの街の住民は異常事態に慣れてる訳だが、やっぱり『警報レベル9』なだけはあったってことか。
まぁ今はミナの安全確保が最優先。
こいつを倒せばとりあえずは大丈夫だ。
違和感があるとはいえ、ミナはこのダンジョンのモンスターに遅れをとるほど魔力は弱くない。
他に強力なモンスターがいる様子もない。
だから・・・
「なんでこんなとこにいるのかは知らない。でもお前よりかはあいつの方が大事だからなぁ。ここで死んでもらう!! ・・・って俺めっちゃ悪役!?」
なんて一人言いながら、そして俺は止まっていた足を再び動かす。
「やっばい! 急がなきゃ!!」
ミナは自宅にいた。
まさかいくらトラブルメーカーなこの街でも、警報レベル9クラスの危機がせまるなんて考えてもいなかった。
ミナは苦笑し、慌しい動きの中で、ある記憶の一端を自分でも無意識のうちに垣間見る。
たった1年と数ヶ月前までのことなのに、その記憶は遥か昔のことのように色褪せていた。
それに伴い、ミナの危機察知能力も知らないうちに低下していたらしい。
まったくといっていいほどに非常事態に対策を施していなかった。
そのため、一度家に戻り必要な準備を整える。
「えーっと、んーと・・・これくらいでいいかな!」
回復用ポーション、それも現在『アース』のどこにも出回っていない、遥か奥のダンジョンで採取できる素材を使った特別製のものを数本と回復用結晶を2個ほど、その他いろいろを持つ。ずっとアイテムボックスに眠っていた、あの戦いの日々の産物。
「・・・モンスターのレベルは最低でも最前線以上。そんな化け物に対抗できる人なんてここにはいない・・・やっぱり私が行くしかない、よね。この街、気に入ってたんだけどな・・・。マスターとか、いろんないい人達に会えたし、サクヤとも・・・。・・・でもそんな弱気なこと言ってられない。行こう、ティナ!」
ずっとずっと一緒に戦ってきた、唯一心を完全に許せる友。
それはレアという陳腐な言葉では説明出来ないほどに珍しく、そして強い、モンスター。
それは使い魔とかそういう関係ではなく、ヒトなんかよりも賢くて人間よりも人間らしい、感情を持つ『友達』。
青く、高純度の宝石よりも美しく輝く身体を持つ竜のような外見の、ティナと呼ばれたその生き物は一声高く鳴いて友に答え、肩にちょこんと乗った。
大きさを自由に変えられるこの生き物にはまだ種としての名はないが、自分につけられた名は気に入っているらしい。
この生き物もまた、ミナをかけがえのない『友達』と思っている(おそらく)。
ミナはティナが肩に乗ったのを見、自宅の木で出来た綺麗なドアを、来たときからは想像もつかないほど落ち着いた動作で開ける。
「久しぶりだけど・・・うん、頑張ろう。私しか、みんなを守れないなら・・・!!」
そしてミナの姿は掻き消えた。