『天才』
すいません、テストでした・・・
時間が・・・
しかも短い・・・
「・・・は?」
いきなり現れて何訳の分からんことを言っているんだ?
黒髪に黒い瞳、そして全身黒い服と、黒色で統一されているが、わざとらしさ?がなく、なぜかこの少年にしっくりきていた。
といっても今の俺も真っ黒とは言わないが似たり寄ったりの格好だ。
「そんなこと、なんでお前に言う必要がある?」
「ああ、君らに選択権はないよ。あるとしたら、それは生きるか死ぬか、それだけだ。生きたいならさっさと話せばいい。こっちも無駄な時間は過ごしたくないし、こんなこともやりたくてやってるわけじゃないしね。もし死にたいなら・・・まあ、好きにすればいいさ。逃げるなりなんなりご自由に。そうしたら、俺は君らを殺すことに躊躇はしない。後ろからでも確実に殺す。戦うっていうなら、受けて立つし、」
「待て待て、ちょっと待て。なんなんだ、いったい。いきなり殺すだのなんだの・・・意味の分からないことを勝手にまくし立てるんじゃない。・・・名乗れよ。なにもかも、まずはそれからだぞ」
ものすごい理不尽だ。
ていうか理不尽にも程があると思う。
出会った瞬間、お前らは何者だーみたいなこと言ってさらに答えなきゃ殺す?
・・・やばい、さっきはちょっといきなり過ぎてあまり深く考えられなかったけど、よく考えると理不尽どころの話じゃない。
だんだん腹が立ってきた。
「悪いとは思ってるさ、でも出来るだけ関わらずそのまま用を終わらせたかったんだよ。とっとと質問に答えてくれればそれで済んだのに・・・まあいいか、俺にだって一応常識はあるつもりだし。俺はシオン。レベルは・・・言わなくていいよな」
「ったく、常識あるやつがこんなことするか普通。俺はサクヤだ。で、こいつがミナ。肩に乗ってるちっこいのは確か、ティナ。特に何かするわけでもない、大人しいやつだ。・・・で? 説明してくれないか。シオン、君はここで何してる? なんでいきなり攻撃してきたんだ?」
「それはそっくりそのままサクヤに返す・・・というか俺が返されたのか。でも先に質問したのはこっちなんだから、まずはこっちの質問に答えてくれないかな?」
さっきまでの、殺意とまではいかないが『敵意』のようなものはなくなっている。
おそらく、やっと俺達が探している奴らなんかじゃないってことに気づいたのか、それともまだ疑ってはいるがとりあえず警戒を解いたのか・・・。
どっちでもいいが、戦闘は避けられるのか・・・?
「まあ仕方ないか。さっきシオンが言ってた、あの事件関連だ。最強の『天才』が殺された理由、原因の調査の為に俺達はここにきたんだ」
「新しく最高責任者になったあのおじさんに頼まれて来たの。あの人は自分の仕事があるらしいしね」
本当は自分で真実を明らかにしたいんだろうが、最高責任者ともなればそこまでの自由はない。
他の『天才』達のため、[Denial]のためにやらなければならないことを全うしている。
だからこそ、俺達はあの人に協力することにしたんだ。
・・・まあそれは置いといて。
「ふうん。トーレンスさんだよな、今の最高責任者。あの人が・・・ね」
「・・・なにか問題でも?」
「う~ん、問題というか・・・あの人は見かけによらず思いやりがある人だ。どんなに切羽詰っていようが、誰かにこんな危険なことを頼むとは思えない、ってだけだよ」
「要するに、信じられない、と」
「そういう訳じゃないんだけどさ。俺だって頼まれた訳じゃないけどその事件のことで動いてるから、人が増えることはあまり歓迎できないんだ。まさかあの人がこんな手段に出るなんて信じられなかったけど、君らは嘘をついてるようには見えない。だから、あの人には俺から言っておくから、君らはこの事件から手を引いてくれ。このダンジョンもそうだが、敵も強い。普通の『天才』程度じゃ到底お話にもならないんだ」
「じゃああなたは何者なの? 自分はただの『天才』ではない、だから一人でもこの事件を解決出来るとでもいうつもり?」
「まあ普通ではないんだ・・・残念ながらね」
「『天才』なんて皆普通じゃないだろ」
「君らには分からないと思うよ、こればっかりは。とにかく、街に戻ろう。すぐそこだし、送るから。トーレンスさんに話さないと・・・」
シオンの中で勝手に話が進んでいる。
すでに俺達は調査に参加してはいけないことになったらしい。
まあそんなもの素直に聞くわけもないが、こいつは勘違いしている。
いやそれも色々あるが、一つ、決定的なものがある。
「分かるよ、君の気持ち。その圧倒的な才能のせいで、周りに壁を造って生きてきたんだね」
ミナが言った。
そう、俺達は分かる。
でも、決して同情なんかしない。
むしろ、
「勝手に決めてるなって。勘違いするなよ、シオン。・・・お前は」
少し圧力をかけて俺は言った。
「間違っても最強なんかじゃない。絶対に」
「ちょ、サクヤ・・・」
ミナが焦っているが、これだけは言っておかなくてはならない。
シオンは自分が何より強いと思っている。
今まではそうだったのかもしれないが、いつまでもそんな勘違いをしていたらいつか足元をすくわれる。
俺は無闇に人のレベルを調べたりはしないことにしてるから、大雑把だがシオンの魔力等を調べてみたけど、確かに強い。
俺達のような紛れもない真の『天才』級だ。
でもこれから先、俺達のような人間がこいつの前に現れる可能性も無くはない。
『天才』は互いに引き付け合う。
そんな時の為にも、シオンの明らかに過剰な自信を俺が砕いておいた方がいい。
・・・まあ一番の理由は、ここまで言われっ放しで黙ってられるか! って話なんだけど、それは仕方ないだろ。
俺だってまだガキなんだから。
「・・・へえ? ならサクヤ、お前は俺に勝てると思ってる? 本当に? さっきのは全然本気じゃないけど」
「安心しろ、俺もだ」
「ああ、そう。なら、どっちが強いか・・・試すか?」
もう丁寧な言葉遣いが少し崩れていた。
こっちが素だったんだろうか。
もう完全に戦闘モードに入っていた。
雰囲気でわかる、本当に強い。
まるで空気が物理的な力でもあるかのように俺を締め付ける。
でもまあとにかく、勝負を申し込まれて断るわけがない。
いつのまにか、自分が笑っていることに気づき、罵倒しておく。
ったく、俺がある程度本気を出せる程の人間との戦闘は初めてだからか。
ミナとは戦えないし、もし戦ったとしても瞬殺出来る自信があるから。
「いいぜ。どうせやるんなら、殺す気で来いよ。じゃないと万が一にも俺は倒せない」
「・・・はは、いいね、お前。じゃお言葉に甘えて・・・後悔するなよっ!!!」
「キャラ、キャラ。崩れてんぞ」
シオンが地面を蹴り、いつのまにか手に持っていた黒剣を正面に構え、俺に突進してきた。
俺も白銀の愛剣を召喚し、しっかりと握る。
刹那、文字通り一秒にさえ遥か届かない程の一瞬後、俺達の剣、白銀の剣と漆黒の剣が衝突した。
・・・その時、確かに全世界が震えた。