邂逅。
本来なら、俺は朝が大嫌いだ。
眠いしだるいし。
だが、夜空が綺麗だった次の日の朝だからなのか・・・いや関係ないだろうが、今朝はいつにもまして清々しい。
今までの俺の人生の中でトップクラスの朝じゃないだろうか。
そんなものにいちいち順位をつける必要はないけども。
まだひんやりとしていて、魔力の膜を解除すると肌寒いが空気は文句なしに澄んでいて、空も晴れ渡っている。
すぐに気温も上がると思う。
木々に囲まれているせいもありついついリラックスしてしまい、緊張感をうまく持てない。
前は注意を怠っていたから攻略組にばったり出くわしたというのに・・・
まあ一応周囲を調べる、が特に危険なモンスターなどはいなかった。
要するに端的にまとめて言うと。
「ふわぁ・・あ。・・・いい朝だなー・・・」
「なーにおっさんくさいこと言ってんの、サクヤ」
「うわ! ・・・ミナ、起きてたのか」
なんだ、起きてたなら俺が目を覚ましたところも見てただろうに。
おはようくらい言ってくれても・・・
「あはは、ごめんね。なんか君が寝惚けてる姿がすごい新鮮でさ」
「寝惚けてたかあ? 俺」
普通に起きて普通に欠伸して、少し独り言を言っただけだと思うが。
「うん。起きたと思ったら1分以上ぼけーっとなんか見えてはいけないものを見てるみたいだったし、そのあといきなり半眼できょろきょろし始めたんだよ? 十分寝惚けてない?」
それは、少し朝について考えた後に周りを調査してただけだっての。
「すっごく面白かったんだけどさ、君って覚醒するの早いんだね。ちょっと挙動不審になってたけどすぐ正気に戻ったっぽいし」
「最初から正気だったけどな? っていうかお前、俺の寝起き見て何が面白いんだ? 野宿なんかいままで何回もしてただろ。今更・・・・・・・・・ああ、そうか」
「すいませんね! いつも君より起きるの遅くて、君の寝顔も寝起きも見たのは今日が初めてで!!」
いちいち怒るな。怒鳴るな。
何が悲しくて、朝起きた途端にキレられなきゃならないんだ。
少しだけ煽ったのは認めるが流石に理不尽だろ。
・・・まあそれでも全く嫌な気分にならないのは、俺がミナに甘いからなのか?
むしろなんか微笑ましく感じるな・・・。
うーん、これはなんていう病気だ?
「はいはい。でもさ、これからもたまには早起きもしてみれば?」
「今日からは一応毎日するつもりだけど」
「へ? 何で?」
「うーん、なんとなく? 女の子にはいろいろあるのよー♪」
「・・・?」
なんか機嫌がいいな?
よく分からないけどいろいろあるらしい。
ところでかなり遅れたが・・・
「とりあえず、おはよ、ミナ」
「随分遅いね! うん、おはよサクヤ!」
・・・それにしても、さっきからミナは何を作ってるんだ?
「朝ごはんに決まってるでしょ?」
「・・・」
「分かりやすいんだよ、君は」
「・・・あっそ」
遠まわしに『単純』って言われてるのか、これは。
まあ別にどうでもいいが、朝飯なら喜んで頂くことにする。
「もう少しで出来るからちょっと待っててね」
「いくらでも待つさ」
うん? ということは、これからは毎日朝飯を作ってくれるのか?
今までは俺が作ってたし。
ミナは結構家庭的だからこういうことも簡単にこなすし、一応『喫茶店』でも料理を作ったりしていたらしい。
でも俺はミナの手料理を食べたことがないから、この初めてのミナの手料理が相当楽しみだったりする。
「ミナー。いつの間に食材確保してたんだ? [Denial]でもそんなの買う余裕なかっただろ。」
「それがあったんだなー。あのおじさんに会う前にちょろっと。ご飯作ることはずっと考えてたんだけど、材料が無くて困ってて、サクヤに貰うのはちょっとアレだし・・・だからあの街でたくさん買っといたの。隠す必要はなかったんだけど、まあなんとなく」
「お前のなんとなくって結構意味不明だな。別にいいけどな」
「出来たー!」
すると突然、温かくて食欲をそそるいい匂いが噴出すような勢いで俺に向かってきた。
魔法でずっと香りを閉じ込めていたらしい。
「うわ・・・すっげいい匂い」
「でしょー。味も保障するよ! マスターが絶賛してくれたんだから!」
「へえ、すごいじゃん。・・・じゃ、いただきまーす」
「はぁい」
詳しくは分からないが、簡単にいうとシチュー的な物。
もう絶品だった。
これからは土下座してでも料理はミナに作ってもらおう。
綺麗に全て食べ終え、しばらくミナと他愛のない話をしていたが、そろそろダンジョンに入ることにした。
いくらレベル的に安全だとはいえ、今回は予想外の『何か』、要するに、本来ならこんなところで死ぬようなへまを犯すようなことはしない世界最強だった二人が死んだ『原因』を見つけることが目的のため、いつも以上に気を引き締めた。
死ぬことは絶対に無い自信はあるが、ミナに少しでも怪我などをさせないように。
・・・少し過保護だろうか、でも気にしない!
「行くか! 油断はするなよ。まあ神経質になる必要もないけどな」
「分かってるよ。ていうか私はサクヤの一歩後ろをついて行くから全然大丈夫」
「だな。まあ後ろからの不意打ちに警戒してて」
「はーい」
そして俺達はダンジョンに足を踏み入れ・・・ようと思ったが、いきなり出鼻を挫かれた。
「な!?」
いきなり虚空に柄も刀身も黒い剣が現れ、俺に向かって音速以上の速さで飛んできた。
片手直剣か。
さほど大きくは無いが、見ただけでは性能まで分からない。
俺のスキルも、武器には効果を成さない。
「ち!!」
紙一重でかわした。
だが俺にはこの程度ピンチにはならない。
あくまで最小限の動きでかわしたというだけ。
狙われているのは俺みたいだから、とりあえずミナとは距離をとった。
そのすきにミナを狙われたとしても助けられるギリギリの距離。
「サクヤ!」
ミナが俺の名前を呼ぶ。
多分、俺の周りに黒い魔力球が無数に漂っているからだろう。
「俺は大丈夫だ! ミナは敵の捕捉に集中してくれ!!」
だが声も途中でかき消された。
魔力球が殺到し、俺を押し潰さんとする。
俺は両の掌から銀色の炎を生み出す。
これは魔法でもなんでもなく、俺自身の力だ。
炎を帯状に展開し、全ての魔力球を叩きつけて爆散させた。
その時に生じた衝撃波も全て炎で受け止める。
そして間髪入れず、地面を軽く足で踏んだ。
トン、と軽い音がしたが、瞬間、俺の真下で爆発が起こり、地面を大きく抉りながら俺は高速で飛び上がった。
ミナは下、俺は上空から襲撃者を探す。
俺からは特に何も見えない、どころか索敵にも何も反応がない。
だが、
「・・・いた。・・・サクヤ、降りて来て」
とミナが言った瞬間に、俺の索敵にも反応があった。
今、突然現れたということは、瞬間移動でここまでやって来て、さっきのはトラップかなんかだったってことか?
ミナは妙に落ち着いている。
俺は地面に降り立つと、こちらに歩いてくる襲撃者を見据えた。
襲撃者が話し出す。
「今、このダンジョンにくる『天才』はいないはずなんだけどな。あんな事件があって捜査も停滞してしまった今は。なのに君達はここにいる。・・・だから俺の質問に正確に答えて欲しい。俺は今、人もしくは集団を探してる。そこで、君達は白か黒か、俺が探してる奴らなのかどうかを調べたいんだ。勝手に進めて悪いけど・・・じゃ、いくよ。・・・君達は、なぜこんなところにいるんだ? 答えによっては・・・今ここで死ぬことになる」