ミナ。おまけでサクヤ。
少し、内容を濃くしようと頑張ったんですがー
長くなっただけかもしれません・・・
俺達は、静かに風が流れる森のようなダンジョンを歩く。
雰囲気こそ良くはないが、周りの環境はすばらしくいいと俺は思う。
俺の魔法の痕もすでに通り過ぎ、一応歩みは次の街、[Denial]へと向かっている。
「サクヤ」
「なに?」
「もうすこし、ゆっくり歩こう? 別に急ぎの旅ってわけじゃないでしょ?」
「ん」
まったく気づかなかった。
無意識のうちに、いつのまにか早歩きになっていたらしい。
いや、無意識ではないだろう、多分。
ずっと、あいつらの顔が頭から離れない。
あの姿、表情。
そして最も正直に感情をあらわしていた、俺を見る目。
一刻もはやくあの人間達から離れたいと、本能が叫んでる。
まぁその本能とやらも、ただの醜い自己防衛本能だろう。
もういっそ、攻略組のことなんて気にせず黙ってずっとミナと二人きりでこの世界の奥深くに潜っていればいいのか。
だがそうする場合、俺の心情なんかよりも余程重大な問題がある。
端的に言うと、ミナのことだ。
女の子にそんな生活をさせるのはどうかと思う。
ミナはただレベルが高いということ以外は普通の女の子、だと思うし、二人で攻略するといっても、その過程でミナにとって精神的に辛いことなんかいくらでもあるから。
それでもミナのためにも万が一何かあったらいつでもすぐ日常に戻ることが出来るようにはしていたい。
まとめるとこうだ。
奥にずっといれば、攻略組の連中に会うことはほぼ確実になくなりミナの退路は確保出来るが、精神的問題がある。
逆に、当初の計画通り(といっても、ただ漠然と、そう旅を続けるものだとひとりで考えていただけ)攻略組の手が届かない『外側』と、統治範囲の中である『内側』の行ったり来たりを繰り返す場合、気持ち的には余裕が出来るだろうが、いつか攻略組に発見される可能性がある。
いくら警戒するとはいえ、これから先ずっと二人で旅を続けていく長い時間の中で、その可能性は決して馬鹿に出来ない。
一度見つかってしまえば、今回のようにはいかないだろう。
全世界で、俺達は『モンスター』として指名手配的扱いになる。
そういった扱いを受ける『天才』達は何人かいる。
そしてそうなってしまった場合、ミナと俺はもうずっと戦いの中で生きていくしかなくなる。
ミナの精神的ケアと、ミナがいつでも日常に戻れる状況の確保。
旅を始めてまだ何日も経ってないのに、かなり大きな決断を迫られているとみていいだろう。
でもこの問題は俺一人で解決出来るようなことじゃない。
なによりミナの意見が必要な訳だが、どう聞けばいいのだろう。
なぜか、話しづらい雰囲気になってるような気がする。
と思っていると、ミナから話しかけてきてくれた。
「サクヤのさ、さっきあのおじさんと戦ったときに使った魔法、あれは・・・っていうか、サクヤって魔法つかえたんだね」
「そりゃ使えるだろ。レベル上がれば魔力だって自動的に上がるからな、その関連を意識して高めようとしなくても。それに俺は、魔法関連のレベルは自分でも意識して上げてる。主に攻撃系統だけど」
「それにしたって、あれは強すぎたよ。しかも本気じゃなかったように見えた。なんかさ、うやむやになって聞けなかったけど、サクヤのレベルを私は知らない。君は確か、ターゲットのレベルを『見る』ことが出来るスキルを持ってるって昨日話してくれたよね。だからもうわかってるはず、私のレベルは。なら、君はどうなの?」
「・・・ミナと同じくらいだけど?」
「嘘。私は完全に魔法関連だけを上げてる。だからあまり育ててない攻撃系統の魔法でも、同レベル級のバランス型の人に劣ったりはしない。いくら君が攻撃系統の魔法と、近距離戦闘のスキルだけを上げてるバランス型だとしてもここまでの差はつかないはず。魔法全体を底上げしてる私と同じくらい、それどころか劣っていたっておかしくないのに・・・」
「・・・」
いや別にいまさら隠すようなことじゃない、ましてや嘘をつく必要だって全くない訳だが。
やっぱり、自分のレベルを誰かに明かすのはちょっと、なんというか・・・嫌だ。
ミナには悪いが、教える必要がない限り正直に明かすつもりはなかった。
これをミナが知ったら激怒するだろうな。
仮にもこれからずっと命を預けあう仲間だというのに実力を明かさないなんてマナー違反、とかそういうこと以前に、場合によっては、そのせいでなにか取り返しのつかないことが起きるかもしれないというのに。
まぁそれでもここは自分のわがままを通すことにした。
「うん、言いたくないなら、それでも、いいけど。こんな話、結構どうでもいいし。だってサクヤがどんな魔法使おうとどれだけ強かろうと絶対いつかは教えてくれるはずだもんね!」
「まぁ。ずっと秘密、って訳にはいかないだろうな」
「先は長いもん。ずっと二人で生きてくんだよ? もしかしたら仲間増えたりもしてさ」
ずっと。 二人で。
それは、どうやって?
「今この話をしたのに深い意味はないよ。ただ、勢いが欲しかっただけ。多分、こればっかりは避けて通れないだろうから。・・・決めなきゃいけないことがあるんでしょう? サクヤは今、何を悩んでるの?」
「いや、何を、って」
「どうせなんか気をつかってるんでしょ。君の表情、分かりやすいと思うよ。少しなら君のことが分かるようになってきたかな。それで、何を悩んでるの、何を決めかねてるの」
「それは、その、これからのこと、とか」
「さっきのことが関係してるの?」
さっきのこと、とは多分俺とアイザの戦いのことだろう。
関係があるといえばある、がそれはただきっかけにすぎないと思う。
俺のことは置いといて、今ここで大事なのはミナのことだ。
「いや、さっきの戦闘は関係ない」
「帰り際に見たあの『視線』も?」
「・・・ああ」
「だったらやっぱり、私のことだよね? 自惚れてるわけじゃないけど、サクヤのことだから、そんなに真剣に悩んでるのはきっと私のことなんだろうなって思ってた」
「ずいぶん分かりやすいんだな、俺。一応こっそり考えてたつもりだったんだけど・・・。」
「あはは、気にしなくていいよ。君のことは、あの街にいた時からずっと見てたから。多少の違和感ぐらいになら気づける自信があります!」
「へぇ、・・・え?」
「それで! なんの話? くだらないことだったら怒るよ?」
「あ、うん、まぁ俺的にはかなり大事なことだから。・・・じゃあミナに聞くけどさ。これからのことなんだけど」
「うん」
「後のことを考えるとさ、これからの旅は、ずっと世界の端っこのほうを攻略し続けたほうがいいんだ。内側には二度と戻らないって程に、ずっと。それこそ、死ぬまでってことになるかもしれない」
「そうなんだ。ところで、そう考えた理由は何?」
「攻略組のやつらに見つかるリスクを減らすため、かな」
「そう。じゃあ、見つかってはいけない理由は何?」
「全世界を敵に回すのを防ぐ、ため」
「なら全世界を敵に回してはいけない理由は何? どうせずっと『外側』にいるんでしょ? ならいくら世界を敵に回そうと同じじゃない」
「・・・ミナ・・・」
「それで、全世界を敵に回してはいけない理由はなんなのよ」
「・・・」
「くだらないことだったら怒るよって言ったよね? 答えて。なぜ、敵に回してはいけないのか」
「それ、は、・・・ミナが、戻れなくなるから。日常に。ずっと戦い続ける日々を過ごしていたら、精神が崩壊することだってあり得るんだ。もしそうなったとき、戻る場所がなかったらどうなる。そのままモンスターに殺されるしかないんだぞ? そんなのは俺が耐えられない。だから、」
「ああ、もういいわ。それで一応聞くけど、他の方法も考えてた訳?」
「おま・・・まぁ、一応」
いきなり睨まれたので、仕方なく話を変える。
「『内側』にくるたびに、攻略組の気配を毎回警戒する。絶対に鉢合わせないようにして、『外側』と『内側』を往復しながら攻略を進める」
「なるほどね。そうすれば、攻略スピードが落ちる代わりに、気分も閉鎖的にならなくて済む、と。はぁ、くっだらない。やっぱりくだらないよ、サクヤ」
「おま、えなぁ、人が必死に考えてたことを一瞬で全否定とか、遠慮ってもんがないのな」
「だってくだらないもん。ほんと馬鹿なんだね、君は。・・・それで? 君は私の答えを待ってるの?」
「こんなぼろくそに言われたら答えなんて分かりきってるけどな」
本当に容赦なく俺の考えを切り捨ててくれた。
こんな真剣に考えてたのが馬鹿らしくなるほどに、清清しく。
なんだかな。
「ならいい。一応言っとくけど、私が選ぶのは前者。要するに、ずっと、それこそ死ぬまで、だっけ? どうでもよかったからなんかうろ覚えだわ。とにかく、私は戦い続けるよ。たとえ、全世界を敵に回しても」
「・・・一応聞くけど、なんで?」
「そんなのも分からないの? 本格的に、君、馬鹿なの?」
こうも真顔で馬鹿だといわれた男はそうそういないと思う。
「もういいよ! 馬鹿で! それで、なんでなんだよ!?」
完全にキャラが崩壊し始めている。
もう修正不可能なんじゃないだろうか。
「・・・君がいるから、に決まってるでしょ」
「・・・え?」
「君がいるから! っていうか、サクヤこそなんなのよ! なんで君は私を攻略パートナーに選んだの!?」
なんで?
なんでなんだろう。
たまたまミナと出会って、たまたまミナが強くて?
それだけで俺はミナを誘ったんだろうか。
「なんで、だろうな。分からないけど、レベルが高くないと仲間にはなれないし、ミナのレベルが桁外れに高かったから、ってのも理由の一つだとは思う」
「うー、聞き方が悪かったのかな・・・。じゃぁ、レベルが私と同じくらい高い人とだったら誰とでもこういう仲間になってたの!?」
「ああそういうことか。うん、なんでだろな、不思議とそうは思わない。んー、なんていえばいいんだろ」
「私もうまく言えないけど、多分そういうことなの!」
「んー? そうなのか?」
「そうなの! ってかもういい! それよりさ、私になんか言うことないの!?」
「言うこと?・・・ああ、そうか。・・・えっと、そのー、・・・くだらないことでだらだら悩んでミナを怒らせちゃって、ごめん」
「ん。よくできました。えと、サクヤはさ、もし私が世界を敵に回しても、味方でいてくれるのかな?」
それこそくだらない質問じゃないか?
「さぁな。とか冷たく言っとこうかと思ったけど、今日は俺が悪かったみたいだからそういうわけにもいかないか。・・・もちろん。当たり前だろ? そのための『仲間』なんだからさ」
なぜかミナは満面の笑みを浮かべる。
別に当たり前のことじゃないのか?
なんでそこまで喜ぶんだ。
・・・まぁこいつの笑った顔、すさまじく可愛いしな。
思う存分見ておこう。
「じゃ、早く行こう! 歩いて行くにはそんな近くないんだからさ。っていうか、もう走っちゃうよ!」
「うわっ!!」
ミナは俺の手を引いて走る。
森の雰囲気は、この上なく楽しげだ。
テンションが上がってきた俺達は、全力で森を駆け抜けた。
なぜかどのモンスターも、追っては来なかった。