2-30 マダム・フロレゾン
「ごきげんよう、公女様。私をお呼びしてくださるのは随分と久しぶりでございますね!」
高いテンションで沢山の部下に沢山のトランクケースを持たせてやってきたマダムに、勢いに圧倒されたアンジェリカがビクリとリディアーヌの後ろに隠れた。
そんなアンジェリカを安心しなさいとばかりに引っ張り出しながら、「貴女が来ると丸一日仕事にならないんだもの」と、彼女の部下達に仕度を始めさせる。
「あら、公女様。そちらは?」
「今うちで面倒を見ている私の客人よ。訳あって手持ちの物が全体的に足りていなくてね。取り合えず下着類から夜着、部屋着、昼のドレス、夜のドレス、それと正装用も一つ二つ、まとめて用立てて欲しいのだけれど」
「リディアーヌ様?! そんなにしていただくわけにはっ」
「でもおさがりばかりだと不便でしょう? 似合ってもいないし」
「似合っ……」
ずん、と沈んだアンジェリカに、カラカラと笑ったマダムが一人の部下を呼び寄せて筆記具を準備させた。
「一通りそろえさせていただくとなると、必要となるのはこの辺りでしょうか。ご予算はいかほどでしょう」
「気にする必要はないわ」
「リディアーヌ様っ」
うーん。流石にこの物言いだとアンジェリカが気にするだろうか。
「アンジェリカ、遠慮はいらないわ。あとでクロードに代金を請求しておくから」
「余計に駄目ですっ」
あら? そう? 噂では、クロードは随分とアンジェリカを甘やかしてあれこれ買い与えていたと聞いているのだけれど。
「ほほほっ。ではお嬢様、おさがりのドレスを仕立て直すのでは如何ですか?」
「仕立て直す、ですか?」
「一から仕立てる場合と違って布代が大幅に削減されますし、廃棄されるだけのものが活用されれば作った我々も嬉しゅうございます。今着ていらっしゃるドレスも確かにデザインは似合っていらっしゃいませんが、サイズは調整されているようですから、少しお嬢様に似合う形に布を足してリメイクさせていただいて……そうすればお安く仕上がりますし、何より圧倒的に早いですよ。すぐにご入用なら、なおさらリメイクをお勧めいたします」
「リディアーヌ様……」
ぱっと期待するようにこちらを見たアンジェリカに、リディアーヌも少し肩をすくめた。
ヴァレンティンではこういうドレスのリサイクル事業が活発だ。
王侯や高位貴族にはそれ相応にドレスを仕立てて経済と国内産業に貢献することも大切なことだが、貧しい下級貴族が毎度毎度立派なドレスを用立てられるわけもなく、あるいは平民であっても特別な日のためにちょっといいドレスを着てみたいということもあるわけだ。そのため大抵のブティックサロンでは再利用可能な状態の古着を回収して、それ相応に格を落としてリメイクしたものを安く転売する商売が一般的である。
商会だけでなく、例えばリディアーヌの側近にも多くの子爵家や男爵家の子女が仕えているから、彼女達に自分のドレスを下げ渡すことはよくある。公女のドレスをそのまま着るには家格が合わないので、服飾店や自分達で多少リメイクをして再利用するのだ。
公女のおさがりというだけで、むしろ新しく自分達で仕立てるよりも羨ましがられたりすると聞く。若い侍女やメイド長補佐なんかは自分達で仕立てるよりも下げ渡し品を喜ぶくらいだ。
「まぁ、アンジェリカがそれでいいなら、そうしましょう。でもいつ必要になるとも知れないから、ちゃんとした夜会用と晩餐会用の物は一つ仕立てなさい。それと靴は自分に合ったものの方がいいわ」
「下着や夜着もご自分の好みに合うものが宜しいですよね。ではこのような具合で」
書かれた目録にさっと目を通すと、アンジェリカが見る前に、「これでいいわ」と許可した。
「ベレニー、私の衣裳部屋から小さくなっている物や使っていない物をすべて仕立て直しに出してちょうだい。その中からアンジェリカが気に入った物をアンジェリカに。残りもいい機会だから、マダムに引き取ってもらいましょう。ベレニーとアメリーには最近よく働いてもらっているから、二人もいくつか好きなものを選びなさい。私から下げ渡すわ」
「まぁっ。特別な日でもありませんのに、宜しいのですか? 姫様」
「新年が近いので、とても嬉しいです」
そうきゃっきゃっと素直に喜んだアメリーとベレニーの姉妹のおかげで、アンジェリカももごもごと口を噤んだようだった。
たしかにもうふた月もせず年越しだ。年が明けると城仕えの貴族達は皆、大公に年明けの慶事を申す謁見を行い、城でもつつがない一年を願う夜会が開かれる。これはどちらかというと無礼講の夜会で、貴族の男女にとっては良い相手を探す出会いの場ともなるため、男女ともに思い思いの個性的な格好をしてくる。
公女府に仕えている者達にとっても公女付きとしてチヤホヤされ注目される場所であるから、アメリーは勿論だが、まだ許嫁もいないベレニーにとっては気合が入るのだろう。こういう場では公女から下げ渡されたドレスなんかは特に効果が高い。
「ちょうどいいわ。必要な人がいれば皆、好きに持っていきなさい」
年若い侍女や女騎士達に声をかけると、皆がほこっと顔をほころばせた。とりわけ剣一辺倒なイザベラなんかは到底自分では新年のドレスなんて用意できていなかっただろうから、彼女の場合は嬉しいというよりはほっとする、といった様子だ。
「ではアンジェリカ様、参りましょう!」
「一緒に選びましょう。姫様の衣裳部屋は大変な広さですから、見ているだけで日が暮れますよ」
アメリーとベレニーが気を利かせて、アンジェリカが委縮しないように振舞ってくれるのでとても助かる。
頼れる侍女のマーサが若者たちの監督を担って一緒に行ってくれることになったので、部屋には日頃事務方に徹している侍女長のエステルだけが残った。エステルは三十代の伯爵息夫人だから、賑やかな彼女達を見る視線がすでに母の視線である。
「まったく、困ったこと。姫様を残して……」
「皆、アンジェリカを気遣ってくれているのよ。それにいい機会だったわ。最近、あまり皆にかまってあげていなかったものね」
「姫様がお気にかける必要はございませんよ」
そう言う傍ら、エステルはテキパキとマダムに指示してリディアーヌのための品々を並べさせてゆくものだから、一杯のお茶をいただいている間にもすっかりと広々としたサロンがマネキンと沢山の布で覆いつくされた。
「それで、公女様。公女様のご入用の品はご正装用の絹とお伺いいたしましたが、用途はどのようなものでございましょうか」
「必要なのは夜の正装二着よ。一つは紫紺の典礼用で。用途は皇国の皇太子殿下の婚儀への参列。大公代理としての出席になるから、型と素材は最も格式のあるものを。申し訳ないけれど初春の式だから、年明けまでにお願いするわ」
「まぁ。それはおめでたいご席ですこと。他国の皇族のご慶事でしたら、ヴァレンティンの名にかけて、素晴らしいものをご用意せねばなりませんね」
腕が鳴ります、と言いながら、トランクケース一杯に詰まっていた革の包みのうちのいくつかを取り上げたマダムは、包みの中をパラパラと大きな机の上へと広げて行く。どれも最も格式の高い場でのドレスのデザイン集で、元々リディアーヌの専属として、常日頃から書き蓄えてあるものだ。
「ところで、緑の刺繍糸、というご指示があったのですが」
間違いではないですか? なんて言いながら、後ろに並べさせた糸立てをチラリと伺ったマダムに、「ええ、間違いないわよ」とデザイン画をパラパラめくりながら答えた。
長年リディアーヌのドレスを用立ててきたマダムだから、言うまでもなくどれもリディアーヌの好みに合っていて、文句ない。
「格式ある場では指し色に御髪や瞳の色、あるいは今回の場合は選帝侯家のご禁色に合わせたものが相応しいのではないかと存じますが」
「祝宴の典礼用はいつも通り、それでいいわ。でも前夜の夜会に紫紺の縛りはないわ。かわりに指し色に金と緑を用いて欲しいの。“パートナー”の色だから」
「まっ。これは失礼を致しました」
なるほど、と首肯したマダムは納得したように口に手を添えた。
とはいえ、日頃大公家で見かける殿方の中に、“グリーン”と言われて思いつくパートナーになり得そうな男性に心当たりがないのだろう。すぐに首を傾げた。
「同じ選帝侯家の公子がエスコートを申し出てくれているのよ。日の光のような明るい金髪と、このヴァレンティンの夏の森よりも鮮やかな萌葱色の瞳をしているわ。彼の色を知っているのは私だけでしょう? だから取り合えずすべて持ってきてもらったの」
説明をしつつ、選んだデザイン画をいくつかハラハラハラ、と机の一角に積み上げた。
「まぁ、そうでございましたか。ほほ。そうでございますか。公女様にも、そのようなお相手が……」
「ちょっとマダム、誤解しないでちょうだい。相手はただの友人よ。公女と一国の公子との噂を吹聴するような方ではないと思っているけれど、くれぐれも口は謹んでくださいな」
「はい、勿論でございます。しかしいつもとは違う色合いでございますから、どのように仕上げるか、楽しみでございます」
拝見します、と、受け取ったデザイン画をマダムが確認している間に、並んだ刺繍糸の中から一番既視感のある色をピックアップする。
刺繍糸を管理しているマダムの部下が、「公女殿下にはこの辺りのお色がお似合いになりますよ」と近い色合いの中から似合う色も見繕ってくれたので、その助言も聞き入れた。
「公女様、どれもとても落ち着いたデザインをお選びになっておりますが、慶事のような華やかな場ではお気に召さずとも多少華やかさを加えた方が宜しいのではないでしょうか」
「好きではないのよ……」
「ほほっ。存じておりますが」
「大公代理なのだから、華やかさより格式を優先して欲しいのだけれど」
「重厚感のある紫紺の綬とマントを用いられることになりますし、尚更、それに負けないだけの装飾を凝らした方が宜しいでしょう。形はお選びになられたもので良いとして、お胸元や裾、トレーンなどに動きや質感の工夫を凝らしてゆくのは如何でしょう」
「お任せするわ」
そう放り出したら、もれなく侍女長のエステルに窘める様な吐息を吐かれてしまった。
別に着飾るのが嫌いなわけではないのだ。ただこの手のデザインだなんだを考えるのはとんと苦手なのだから仕方がない。
「仕方がありませんね……マダム、布を見せてくださいませ。それから刺繍とレースのサンプルを」
リディアーヌが頼りにならないのを見て取ったエステルの指示に、いつものことながら、「はいはい、そう致しましょう」とマダムも笑いながら言われた通りの物を揃えていった。
後はほとんどエステル任せだったけれど、一応リディアーヌなりに手触りや光が当たった時の質感が独特な布が気に入ったので、そのくらいは口にしておいた。その布に入れる刺繍も、色に合わせたレースも、選んだ刺繍糸でどんな柄を入れるのかも、後はほとんどエステルの判断だ。だが問題ない。エステルの美的センスは折り紙付きである。
「柄に関して、姫様のご意見はございませんか? ただお色を合わせるだけでなく、関わりのある意匠を織り込むこともパートナーとのお色合わせには必要な要素でございますよ」
「そうねぇ……」
マクシミリアンっぽい図案ということだろうか? ふむ。日頃はこのヴァレンティンを象徴するような木々や花々をモチーフにすることが多いが、確かに、ヴァレンティンの森とも違うこの色合いの刺繍糸で刺繍させるなら、少し違う図案がいい。
マクシミリアンのイメージ……ミリムのイメージ……イメージ……。
「茶の木や茶の花、なんかかしら。あぁ見えて意外と伝統を重んじるから、古風なベザリクス文様も似合いそうね」
「ベザリクス様は姫様にもよくご使用いただいておりますから、様々な図案がございますよ。それに茶の木とは、面白いご発想ですね。刺繍糸の色にもよく合います。白い花は光沢のある白で浮き出るように刺して、花芯の金は一際大きく美しく。可愛くなりすぎないよう、裾にだけ大柄で上品に。葉の色はくすんだ緑で、気品を邪魔しないようあしらいましょう」
多少口を挟んだだけで、あとはあれよあれよと決まっていった。うむ、やはりこういうことはプロに任せるのが一番だ。わざわざ自分で商会を起こして新しい流行を生み出すような労力、リディアーヌにはない。
「それから、一つ。実は私、前々から是非やってみたい試みがあったのですが……」
新しい服飾の風潮というのは伝染するものなのだろうか。珍しくそんなことを言いだしたマダムに、「奇をてらって格式を損なうようなものは嫌いよ」と言ってみたが、マダムはコロコロと笑いながら、「そんなものを気高さを美徳となさる公女様におすすめしたり致しませんわ」と理解のあることを言った。
ちょっと警戒しすぎていたかもしれない。
「実は先日、アルテンから貴きお方がいらっしゃた際、姫様に希少なアルテンレースを沢山お贈りになられたとの風の噂を聞いているのです」
「あぁ。忙しくて忘れていたけれど、そういえば布やレースを沢山いただいたんだったわ。マダムに何か仕立ててもらいたいと思っていたのよ」
チラリと扉の前に控えていたメイドに視線を遣ると、察したように、「こちらにお持ちするよう、マーサ様にお声をかけてまいります」と出て行った。
「アルテンレースは薄くて柔らかく、張りが少ないから、袖や襟の装飾には使いにくいと聞いているわ。普通は極彩色の刺繍をびっしりと入れて使うというけれど、それはそれでごわつきそうね」
「はい。帝国で使われるような使い方をするレースではございませんわね。それに希少なものですから、普通は髪飾りやコサージュなどに添えて使います。しかしアルテンの方々は刺繍や飾り物を付けたものを何枚も重ね、上着や羽織物のように使うと聞いております。私はそれを是非ドレスの全面に重ねて、これまでとは違った質感と立体感を作れない物かと常々考えておりました。ただそれだけの大きさのアルテンレースとなると、手に入れたいと思って入れられるものではございません」
「あぁ、なるほど。それで私のもとに贈られたというものに期待をしていたのね」
そう突っ込むと、流石に少し恥ずかし気にマダムも口元を緩めた。
「今回は同じ使い方ができるような大きさのものばかりいただいたはずだから、ドレスにあしらうのに十分だと思うわ」
「まぁっ、ではやはりドレスには是非アルテンラーナとアルテンレースを用いませんか? 肌触りが良くやわらかなアルテンラーナはとても心地よい仕立てになりますよ。あるいはアルテンレースを何重にも重ねて、敢えて刺繍は控えめに、布の形に変化を付けながら下地が透けるように重ねると美しいのではないかと。それから腰回りと髪飾りにも同じようにあしらって……全体的なシルエットとしては決して格式を逸しておりません。ですがただ見慣れた絹に刺繍を施すのとは違う幽玄さが良くお似合いになるはずです」
さらさらとその場で描かれた図案には、もれなく後ろからエステルが「まぁ、何て素敵でしょう」と声を漏らした。うむ。エステルのお墨付きが出たなら、それで問題ない。
図案を突き詰めている内にも、マーサがドレスを選び終えたらしいハンナとアメリーを連れて戻ってきて、衣裳部屋から持ち出してきた沢山のアルテンラーナとアルテンレースを並べてくれた。
アルテン特産の布とレースを総称してアルテンラーナだのアルテンレースだの言っているが、この二つは基本的には同じものだ。古くは“紗”などと言う呼び方で東方から入って来ていたこともあったと聞く。サラサラとした肌触りが実に心地よく、だが薄すぎてこれだけでは服にはできない……というのが、寒い国のきっちりかっちりと詰まったようなドレスが主流の帝国人としての意見である。
光に透かすと向こうが透けるようなアルテンラーナの質感も珍しいが、暗がりでも完全に向こうが透けるほど繊細に編まれたアルテンレースの美しさはまさに職人芸だ。小さな輪が幾重にも連なり、レースの柄としては単調だが刺繍や飾りも施しやすく、柔らかいのでどんな形にでも変化を付けられる。
白くシンプルな物から色の有るもの、中には網目を工夫して予め柄が浮き出るように加工されているものもあり、並べてみるとすぐにマダムが「これが宜しいです!」と柄のある真っ白なものと、深い紫紺に染め抜かれたものを選び取った。確かに、ひと際目を引く品だ。
マダムは嬉々としてそれらを抱えると、他にも装飾用にといくつか手に取り、上機嫌で帰っていった。
いつもなら四半日以上拘束されるドレス選びだったけれど、今回はたったの数時間でほとんど最後までドレスの形が決まった。おかげでその後の宝飾品選びも早かった。マダムも疲れた様子のリディアーヌに少し気を使ってくれたのかもしれない。
ただその代わりアンジェリカの方は、どう仕立て直すのかの相談に、その後も日が暮れるまでマダムの部下達に捕まっていたらしいけれど。
◇◇◇
『親愛なる心の友、マクシミリアン。
ヴァレンティンでは連日雪が絶えず、きっとこの手紙を出す頃には町も真っ白に染まっている事でしょう。でも心配はいらないわ。雪と共に暮らしてきたヴァレンティンでは、その程度のことで歩みが滞ることは無いのよ。冬の最も深まる季節にしか雪が降らないというザクセオンにも、きっと変わりなくこの手紙が届くことでしょう。
ヴァレンティンの春は貴方が期待してくれている通りに素敵だけれど、ザクセオンでは森が一面黄金色に染まる秋が最も美しい季節だと聞いているわ。残念ね、春にクロイツェン旅行をするとなると、秋にザクセオン旅行とはいかないでしょう? いっそトゥーリには、結婚するなら秋にしてちょうだい、って、言っておくんだったわ。最近は貴方が送ってくれた濃い紅色の紅茶に、蜂蜜とミルクを注いでいただくのにはまっているの。紅茶を見るたびにザクセオンを、クローバーの蜂蜜を見るたびに貴方の甘そうな飴色の髪を思い出してしまうわ。これも、貴方の術中なのかしら? まったく、油断も隙もない人ね。でも嫌いじゃなくってよ。
気の利く贈り物のお礼に、私からも少しばかり、贈り物をしようと思うの。いつものようにミリムに相談する暇が無かったけれど、今回は我ながらいいものを選んだと自負しているのよ。一つは選帝侯家にふさわしい紫紺、一つは金の刺繍を入れたアルテンレースなのだけれど、クラバットに添えると素敵じゃないかしら? 生憎と春に私が沢山使うから、そろいのお裾分けは少しだけね。他にもアルテンからいただいた布やレースが沢山あるから、いくつか添えるわ。貴方のお姉様方や妹達も気に入るといいのだけれど。
妹といえば、先だってトゥーリに楯突いて可愛い協力をしてくれたベニー皇女への贈り物を持っていこうと思っているのだけれど、何がいいかしら? 花茶の季節でもないし、長旅になるから日持ちするもので、でもできればかさばらない物がいいと思うのだけれど。いい案があれば、是非助言をちょうだい。
欲しい情報と、貴方から来ていた質問の返答は二枚目以降に箇条書きにしているわ。まとめる時間が足りなくて、ちょっと手を抜いたの。でも貴方のために、服飾店のマダムに冷やかされながら着せ替え人形を頑張ったせいだから、許してちょうだいね。
それではまた。次に手紙が来る頃は、きっともう年の瀬ね。過ぎ去る年の憂えが雪と共に溶け、明くる年がベザと共に光り輝きますように。
――貴方のおかげで年明けが少しだけ待ち遠しくなったリディアーヌより』
第二章 完
※明日は連載お休み。次は24日に。