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2-18 オトメールの邂逅(1)

side アンジェリカ

 マグキリアン……『キリアンと呼べ』と言ったその人は、決して協力的ではなかったが、少なくともそれ以上の敵対はしなかった。

 中途半端に外されていた手錠と足枷も外してくれたし、どこからかちゃんとした肉や果物なども仕入れてくれた。山歩きは勿論、旅にも慣れている様子で、どんな街道を行けば盗賊や獣に遭いにくいのかまで熟知していた。

 きっと、名門侯爵家のお坊ちゃまでは知りようのなかった知識ばかりである。それだけでも、彼が苦労を重ねてきたことが分かった。


 道すがら、教区長様の巧みな誘導のおかげで、キリアンはいくつかの情報を漏らした。

 まず、キリアンの目的はあくまでも簒奪者である国王と王太子以下、現王室の失墜であり、また“偽物”である聖女を断罪することだったこと。教区長に対しては個人的な憎しみはあったが、こちらはむしろ国内の協力者であるアルナルディ正司教が標的とした相手であったこと。そしてそのアルナルディ正司教は、キリアンがあの小屋に飛び込んできた時点で、どうやら本山から司祭が連れてきた聖騎士が捕縛に向かっており、おそらく今頃は捉えられているであろうこと。


「本山の聖騎士様が……なんで」

「さぁな」


 キリアンはそう言ったが、それについては教区長が詳しかった。


「アンジェリカ様。聖別の儀では、恐れ多くもベルテセーヌの聖職者が儀式を汚す真似を致しました。それについてリンテンの大司教から、ラントーム助祭とテシエ司祭の二名に関する処分の通達を受けておりました」

「テシエ司祭様というのは、確か公女様に内通して助けてくれた方じゃ……」

「はい。なので事情聴取という名のもと本山に引き取られております。そのテシエ司祭の証言により、アルナルディ正司教は宰相夫人と謀って聖別の儀を混乱に貶めんとした罪に問われたのです。ただし情けないことに、私は先王クリストフ二世陛下の御崩御と共に、教区長と名ばかりに、権威を失墜させております。なので本山に対し、ベルテセーヌ教区内の“正司教派”の一掃に助力を嘆願しておりました」

「それで、本山から聖騎士が……えっと、つまり、アルナルディ正司教を捕縛するための聖騎士達だったのですね?」

「そうです」


 まさか裏でそんなことが起きていたとは知らなかった。

 いや……聖騎士というのは、教会に属する王国不可侵の武力だ。聖騎士がベルテセーヌで捕り物をするのに国王が知らなかったなどということは断じて有り得ないから、きっとアンジェリカが知らないだけで、国王もクロードも皆知っていたはずだ。

 いくらアンジェリカが政治に疎いからといっても、教会に関わることに聖女は無関係ではない。なのにそんなことすら知らせてもらえなかっただなんて、いくらなんでも失望せざるを得ない。

 たとえきな臭いことからアンジェリカを守るためだったとしても、とんだお節介だ。


「正司教はヴィオレット派とは関係が無いの?」

「さしずめ、協力関係といったところでしょう。クロード殿下と現王室、そして貴女様のご失脚……目的は合致しております」


 そうキリアンを伺った正司教に、キリアンははっきりとは答えなかった。だがその沈黙こそが、肯定であるようにも見受けられた。


  ***


 オトメールの手前までたどり着いたところで、正司教捕縛の報は人々の噂にのぼるほどになっていた。同時に、正司教が“聖女捕縛”と“教区長暗殺”を企んでいたなどという噂も耳に入った。それどころか、“さらわれた聖女”を救出するため、王都からは近衛騎士団一隊が派遣された。

 率いているのは、王太子殿下だという――。


「クロード様……」


 アンジェリカはそれに心の底からときめいたが、生憎と教区長はこのことにため息を吐き、キリアンは鼻で笑って「愚かな男だ」と暴言を吐いた。

 王子様が婚約者の危機に駆け付けようとしているのだ。何が愚かなんだ。まったく!


「アンジェリカ様……貴女様は協力者を募った後、御自ら、ヴィオレット派の黒幕をおびき出すための“囮”になるつもりだったと仰っておいででしたね」

「え? えぇ……」


 くしくもその予定は完全に崩れてしまったが、もれなく囮としてキリアンが釣れた。


「ですが元々のヴィオレット派の標的はどなたでしょう」

「それは当然……」


 私……いや。違う。アンジェリカが狙われたのは、聖女を失うことでクロードに打撃を与えるためだ。


「クロード様ッ……」

「そうです。なのにそのクロード殿下が、よもや最も堅固な守りの城をお出になるなど……襲ってくれと言っているも同然です。何のために、アンジェリカ様が危険を冒しておいでなのか」


 クロードが行く先々に、ヴィオレット派は詰めかけて来ることになるはず。まさかオトメールは、今まさにヴィオレット派の集結地点になりつつある、と?


「そんな……」

「アンジェリカ様。これは提案なのですが、オトメールではなく、エメローラ領にお戻りになる気はございませんか? 本当ならば王城にと言いたいところですが、ここからは遠すぎます。せめてエメローラ領にお戻りいただければ……」

「戻るなら、領主代理と一緒の方がいい」


 ずっと黙り込んでいたキリアンが口を開いたものだから、はっと視線が向いた。


「キリアン殿。その理由は?」

「伯爵夫人は令嬢を消す計らいに協力的だ。俺達は邸内の庭を散策していた令嬢を襲ったエメローラ家の騎士達から、何の苦労もなくアンジェリカ嬢を受け取った」

「……」


 分かり切っていたことなのでアンジェリカは沈黙を選んだけれど、教区長は流石に目を細め、深い嘆きの吐息をこぼした。


「偽聖女。お前も、自分を襲った連中に見覚えがあっただろう」

「襲った連中は知らなかったわよ。まぁ、そんなことだろうとは思っていたけれど。それに……私を運んだ連中なら、よく知っているわ。貴方が……貴方が斬った、連中よ」

「言い訳はしない。お前がベラベラと正司教の名を出したり土地の名を出したりしたせいだ」

「ッ……」

「あいつらは皆、正司教派の神父が連れてきた連中だ。その大半がエメローラ領内の、お前が生まれ育った村の人間だ」


 はっとした教区長が、困惑気にアンジェリカを見た。

 その通りだ。アンジェリカは、自分の故郷の古い見知った顔に裏切られた。


「あの領主代理は優秀だ。領内からの信頼も厚いし、評判もいい。少なくともあの領主が領地にいる間は、エメローラの従士達も手を出せなかった。領主がいる間に王子の婚約者が襲われなどしたら領主の責になるからだ。だがエメローラ領は“領主の妹”にとっては安全でも、“ヴィヨー村のアンジェリカ”にとってはそうではない。領主代理が領地を離れたのは愚策だった」

「……」


 言う通りだ。それについては身に染みて実感できているから、反論の言葉なんて微塵も出てこなかった。所詮自分は、その程度なのだ。


「その、うちの困ったお兄様は()()で何をしているのかしら……」


 アンジェリカのことは耳に入ったのだろうか? だとしても、もうとっくの昔にジュード殿下を探しに飛んで行っている気がしないでもない。しかしそんなアンジェリカの想像とは裏腹に、「王太子と合流しているだろうな」と言われたものだから、驚いた。


「あのお兄様が? まさか、私を助けるため?!」

「本人の意思は知らん。だが王太子が出張って来たとなれば、実の兄である領主代理が目通りしないわけにはいかねぇだろ。というか……そもそも領主は何でエメローラ領を出たんだ?」


 領主にいられたせいで今まで手が出せなかったのに、というキリアンに、アンジェリカも口ごもった。

 どうやら現国王とその王子達をことのほか恨んでいる上、先王の王子女に深い情を抱いているらしいキリアンに、その先王の王子を殺した犯人であるリュシアン殿下の弟に協力を求めに行くよう頼みました、なんて……まず間違いなく、死ぬ。即、死ぬ。


「兄に見捨てられたか?」

「……まぁお兄様ならやりかねないけれど。でもそうじゃなくて、ちょっと自分の身を守るためのお願い事をしたのよ。ちゃんと“対価”を払って、協力してもらっていたの」

「対価? どんなものだ」

「い、言わない」

「言え」

「言わないっ」


 お、お兄様の名誉にかけてッ!


「言えば、誰にも見つからずにオトメールに入る方法を教えてやるし、お前の目的についても探らないでいてやる」


 何てことでしょうッ。

 だがっ。だがだがっ。せっかく勝ち取りかけているお兄様の信頼のためにッ……。


「……」

「……ッ、リディアーヌ様の使用済みハンカチを譲ることを条件に、ちょっと伝書鳩の代わりをしてもらったのよッ!」

「……ッ」

「……は?」


 思わず自分の怪我に巻かれたハンカチに目を落とした教区長様と、そこに目を引き付けられたキリアンと。

 その日はそれ以上誰も口を開くことなく、ただそっと皆が視線を背け合いながら夜を明かした。



  ◇◇◇



「おい、起きろ。ずぶと女」


 ベッド代わりにしていた木箱をゴンと蹴られて、最悪の気分で目を開く。

 くそぅ……今日という今日こそは淑女の扱い方についてお説教を……。


「良くない知らせだ。オトメール郊外で、ヴィオレット派と愚王子が衝突した」

「はっ?!」


 目が覚めた。一瞬で覚めた。

 大慌てで木箱を飛び降り町の方角を見たところで、しかしそんな喧噪は見えない。


「ちょっと、キリ……」

「見えるわけねぇだろ。もっと平野部の方だ。さすがに町中では暴れていない」

「クロード様はッ?!」

「お前、兄貴の心配はしないのか?」


 ええ、まったく。


「あ、あれ? 教区長様は?」

「オトメールの代官が領内での騒動を拒んで関門を固く閉ざした。それを見て、教区長は早朝から情報収集に出ている。正司教が捕縛された以上、見つかっても大司教である閣下が不当に扱われることは無いだろう」

「そうかもしれないけど……」


 でも大司教様は怪我をしている。なのに一人で行かせるなんて。


「ハァ……お前が図太く寝こけているせいだろう」

「疲れてるのよッ、色々と!」


 そう言いながらも大急ぎで汲み取ってあった水で顔を洗いローブを着込んだ。聖女とは呼べないボロボロな姿だが、致し方ない。


「それで、キリアン! オトメールに誰にも知られずに入る方法、あるのよね?!」

「……ハァ」


 深いため息を吐かれたが、しかし約束は約束である。兄の恥ずかしい秘密と引き換えに手に入れた、大事な約束である。

 キリアンは小さくなっていた焚火を足でもみ消すと、「ついてこい」と言って町の方へ歩き出した。

 まだ信じきるには少し怖いけれど、今はそんなことも言っていられない。とにかく情報を集めて、できることをしなければならない。


「オトメールは堅固な港湾都市だが、海岸沿いは広く、すべてが塀で囲まれているわけではない」

「えぇ……」

「特にあっちの平地側には漁村があって、そこは都市の“郊外”だ」

「つまり、壁の外?」

「あぁ。そして漁師らが町に出入りするための門が常時解放されている」

「入りたい放題じゃない」

「馬鹿か……監視くらいいる」


 馬鹿じゃないわよ。キリアンの言い方が悪いのよ!


「じゃあどうやって……」

「簡単だ。漁村から船で、町側に入ればいい」

「……」


 え、それのどこが簡単なのか、わかんないんだけど。


「いや、普通に怪しくない?」

「漁師達が日常的にやっている“ズル”なんだよ。もう慣習のようなものだから、兵士達も見逃している。問題は漁師町からどうやって船を出すかだが、何事にも抜け道ってのはある」


 嫌な予感しかしないんですが。


「詮索なし。金次第で中に運んでくれる連中も、いる」


 ほらやっぱり!

 王太子の許嫁たるもの、そんな不法手段に手を染めるなんてもってのほかだ。だがそう言ったところで“じゃあ他に手段があるのかよ”と言われたら、無い。

 すぐ傍で暴動とその鎮圧が行われているのに、のこのこと“こんにちは、聖女なんだけど通してくれますか?”なんて真正面から関所も通過できない。

 つまり……。


「キリアン。ちょっと私のこと、一瞬だけ誘拐していいわよ……」

「他人に罪をかぶせるのかよ、偽聖女」


 アンジェリカは極力、これから起こることから目を瞑ることにした。


  ***


 結論から言って、町には驚くほどすんなりと入れた。

 違法舟渡し人も、まったく犯罪者面ではないごく普通の漁師で、どうやら村人達はちょっとしたお小遣い稼ぎくらいのつもりでやっているらしい。こんなの、ここの代官が知ったらどう思うことか。

 だが結果的に、ひそかに町に入ったのは正解だったようだ。

 暴動は郊外で起きていると聞いたが町の中はどうもざわざわと落ち着かない様子で、港町の賑わいとはかけ離れた気配に満ちていた。

 キリアンは出来る限り細い裏道などを駆使しながらアンジェリカを町外れの教会に連れて行った。教区長様とはここで落ち合う予定なのだという。

 しかしその教区長様は、聖職者服ではなく、その上から普通のローブを被いた姿で、しかも教会の中ではなく外の路地からこそこそとやって来た。その上、「急ぎここを離れましょう」と、二人を教会から離れた裏道の先へと誘った。


「何があった」

「教会は問題はありません。幸い、馴染みの司祭とも連絡が取れました。ただ町中の至る所にアンジェリカ様を弾劾する張り紙が。教区長誘拐の罪もかけられています」


 思わずキリアンに視線が向いてしまったのは、仕方がないことだと思う。


「私達はそんな張り紙、見なかったけど……」

「漁港側はそうなのでしょう。しかし教会や代官所などの上町付近には広まっております。教会もまたアンジェリカ様を弾劾する様子こそないものの、かつてヴィオレット嬢が行った孤児院での慈善事業や孤児院の子供達を利用して奴隷売買に手をかけていた伯爵の断罪についての話が大々的に広まっているようで、少なくとも教会内部にもヴィオレット派の手は伸びております」

「な、なによそれっ……奴隷売買の件は、すぐに国に報告するべきだったのにヴィオレット様が勝手に摘発して勝手に英雄みたいにまつられてっ、結局国に汚名を着せた事件じゃない! あの事件でどれほどクロード様達が非難にさらされ、後始末に追われたことか!」

「英雄譚は現場にいた人間こそを讃えますからな……」


 教区長も事の顛末は良く知っている。理解のある言葉が多少なりともアンジェリカの気持ちを宥めてくれたが、悔しさばかりはすぐにどうこうできるものではなかった。

 国民なんて嫌いだ。皆が皆、ヴィオレットの派手な所業を崇めて騒いで、そのヴィオレットに振り回されて苦慮していた国王様やクロード様を貶めて。

 あの人が弱いものにいい顔をする裏で、どれほどクロード様が貴族達から嫌みを言われ、罵られていたことか。


 孤児院に対する慈善事業は、余裕のある貴族ならば大抵が行っていることだ。ただヴィオレットはあまりにも巨額を次ぎ込んだ上、大々的に孤児院を建て直したり彼らの為の学校を作ろうとしたり、本来であれば国が考えるべきようなことを私財で行おうとした。

 それを危うんで、ヴィオレットの慈善事業を取り上げアンジェリカに移譲しようとしたクロードのやり方は……まぁ、当時まだアンジェリカが聖女として周知されていなかったことと併せて考えても紛うこと無い“失策”だったのだが、しかしあの時も結果として、平民達はことごとくヴィオレットを庇い、“名声を奪って愛人に渡そうとしたクロード殿下”などという言葉でクロードを(なじ)った。

 王家には、貴族に対する管理と監督、抑圧の義務がある。だが民達は、貴族の義務の領域を超えた動きを見せたヴィオレットに対する王家の危惧など、微塵も知りえないのだ。

 クロードに対する中傷はあくまでも町の噂に留まっていたが、それが貴族の耳に入らないはずがなく、アンジェリカがヴィオレットにどうかこんな真似は止めて欲しいと頼んだところで、彼女はただ、自分がやるべきことをしただけだとか、国がやらないからやったのだとか……あぁ、この人はクロードという人をまったく見ていない。最初から、“駄目な人だ”と決めつけ貶めるつもりなのだと知った。

 くしくもあの事件が、“青い板”に戸惑っていたアンジェリカが、その指示の通りにクロードに接近する大きなきっかけとなった。

 それが神々の意思。ヴィオレットを野放しにしておくことは神の意に反するのだと。そう思ったのだ。


「くそっ……町中に入ったのは失策だったか……?」

「ひとまずお二人は身を隠せる場所に……」


 クロードは大丈夫なのだろうか。郊外の暴動というのは一体どんな様子なのだろうか。どうやって、自分は無事だ、ここにいる、と知らせればいいのだろうか。それからどうやって南西に向かって、どうやって、どうやって……。


「速報! 速報! 暴動の速報だよ! 王太子殿下負傷! 近衛軍が陣を引いたよ!」


 途端、耳に飛び込んできた言葉に、はっと振り返る。


「おいおい。軍がこっちに引き上げたりして来ないだろうな」

「近衛軍は反乱軍に追われて王都方面に逃亡。こっちには来ないから安心していいってさ!」


 速報、速報! と走ってゆく男に、「待って!」と飛び出しかけたところで、「おい、偽聖女!」とキリアンが手を伸ばした。

 その手に捕まれた瞬間……速報を叫んで巡っていた男と、目が合った。


「へ……? にせ、せいじょ、って……」

「あ? なんだって? 偽聖女?」


 速報を聞こうと注目していた人々の視線が、じろじろとそのままアンジェリカ達に向く。


「まさか……アンジェリカ様?」

「何? アンジェリカ様だって?」

「ッ、誰か、早くリベルテの連中に知らせてやれ!」


 たちまちワッと広まったざわめきに、「チッ」と舌打ちしたキリアンがアンジェリカの腕を引っ掴んで裏道に飛び込んだ。


「ッ、待って、キリアンッ」

「馬鹿聖女ッ! 逃げるぞ!」

「二人とも、右に! ここは私が止めます!」


 教区長がそう道に立ちふさがる。あっとアンジェリカはそれを振り返ったが、押しかけて来る民とローブをばさりと脱ぐ教区長の背を最後に、キリアンに引っ張られて横の小道に連れ込まれた。


「ッ、キリアンッ! 教区長様がっ」

「あのおっさんなら大丈夫だ! 仮にもベルテセーヌの教会のトップだぞ! それよりもお前だ、この馬鹿! あの速報、聞いただろっ。この町は“ヴィオレット派”だ!」

「ッ……」


 そうだ。そうだった……。

 平然と王太子が負傷したよと吹聴し、王太子の怪我よりも暴徒が町に来ないかどうかの情報を優先していた。ヴィオレット派……とまではいわずとも、クロードを擁護してくれるような町でない事だけは確かだ。

 なんてことだ。なんて酷い……。


「くそっ、面倒くせぇ。泣いてどうにかなるなら苦労しねぇんだよ!」


 分かってる。そんなこと分かってる。

 でも仕方がないじゃないか。


 クロード様の胸の内を思ったら……涙が、止まらないんだから……。






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