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10-5 友人

 ナディアへの接触はその翌日、想定とはまったく違う形で実現した。

 シュルトはただ日中は王国議会棟に顔を出しているようだとの情報だけを持ってきたため、どう非公式に接触しようかと考えながら、別件で選帝侯議会棟を出て書架棟へ資料を取りに向かっていたのだ。そこで思いがけず、目的の人物に“ばったり”あってしまった。しかもよりにもよって、議会棟の奥まった部屋から、ヘイツブルグ大公と共に出てくるところを見てしまった。

 思わずパッと廊下の影に隠れてしまったのは反射神経であり、『ほら見たことですか』とこちらを見下ろすフィリックの腕を引っ張って共に潜ませたのも、致し方のない事だった。


「では私はこれで。ないとは思いますが、ゆめゆめ、お約束をお忘れにならないでくださいよ、閣下」

「くどいぞ、セリヌエール。貴殿こそ、あの頭の沸いた皇太子妃をどうにかしておけ」

「まったく、そちらは私の仕事ではないというのに」

「目的のものさえ引き込めれば後は用無しだ。それまできちんと面倒を見ろ」

「ひどい言いぐさですこと。女性に嫌われましてよ、閣下」

「それがどうした。知ったことか」


 カンカンと固い石畳を打つ足音が遠ざかってゆくのを耳にしながら、おのずとバクバクと脈打った心臓が鳴り響かないよう、手のひらで抑え込む。

 あぁ、嫌だ。嫌だ、嫌だ。何か無性に焦りと苛立ちがつのる。

 だがそうじっとしている内にもコツコツと、先程とは違うヒールの音がこちらに近づいてきた。どうやら逆方向に向かったヘイツブルグ大公と違い、ナディアはこちらに向かっているらしい。

 今更逃げるにも都合が悪い。そう思っている内にも、フォールを連れたナディアが廊下の角を曲がってすぐにリディアーヌに遭遇したため、ピンと驚いた顔を跳ね上げた。


「奇遇ね、ナディア……」


 奇遇を装って見せたところで、意味があったのかどうか。だがナディアはすぐにいつも通りの顔でいつも通りにドレスを摘まんで腰を落とすと、「まぁ、リディアーヌ様。新年のお慶びを申し上げます」といつも通りの声色で挨拶をした。

 まるでつい先程の事なんて、何もなかったかのように。


「ええ、おめでとう……書架棟に顔を出そうと思っていたのだけれど、こんなところで会うだなんて。ナディもそちらに用だったのかしら?」

「ええ。といってもただのお使いですわ」


 そう言いながらわざとらしくフォールに本を開かせた様子に、ずんと心が重く押しつぶされるのを感じた。まるで息をするように嘘を吐くのだ。わざわざそんなものまで用意して。

 そんな様子はナディアにも伝わったのか、わずかに眉尻を垂らしながら、「これは困ったことになりましたね」と息を吐いた。立ち聞きされていたことを察したのだろう。


「そのようなお顔をされるのは心外でございますわ、リディアーヌ様。見られて困る事なら、このような人目のある議会棟を使ったりは致しません」

「では何故、私に隠す必要が?」

「そのような懸念を抱かれたくなかったからですわ」


 だったら堂々としていればいいものを。無駄に隠そうとされると、不審を覚えずにはいられないではないか。


「どうなさったのですか? いつもなら私が何をしていても、『また何やら暗躍しているようね』と笑ってくださるではありませんか」


 確かにその通りだ。ナディアのそういう所は嫌いではないから、比較的今までもずっとそうして、相変わらずだと諦めて苦笑して流してきた。だが今になって、妙に心が不安の方へと()いてしまうのだ。

 こういうのを何というのか。そう、竜の知らせとでもいうのだろうか。何かひしひしと、嫌な感じがしてならない。


「……そのご様子ですと、昨日の私の行動までお耳に入っているのでしょうか。おかしいですわ。人目がないことはしっかりと確認して、道も選んだはずなのですが」

「そこに木が一本、鳥が一羽いるだけで、私の目と耳になるのよ」

「恐ろしいお話しですこと」


 たちまち声色をひんやりとさせたナディアが何を考えているのかが分からない。

 ただ友人に疑われていることに不満を抱いているのか、それともアチラも反応を探ろうとしているのか。とてもじゃないが、ひと月ぶりの友人との対面という状況ではないのは確かだろう。


「ナディ……私は別に、貴女に疑いを抱きたいわけではないわ」

「私もですわ、リディアーヌ様」

「でも貴女だって、自分の行動が私に懸念を抱かせるものであることの自覚くらいはあるのでしょう?」

「それは……例えば、大議会の夜の、別れしなの出来事が最初の原因でしょうか?」


 ナディアの視線がチラリとフィリックを向いたのは、あの日、リディアーヌが馬車で去ったと、そこに残ったフィリックがナディアとヴィオレットの接触に微塵の感心も見せぬまま立ち去ったことに引っ掛かりがあるからだろうか。

 たしかにあの状況だけだと、リディアーヌはナディアを信頼していて、何をしようが気になんてしませんよ、というアピールだったかのように見えるかもしれない。だが生憎と、あれはうちのフィリックの独断であって、どうせそのまま居残って何か聞いたところで碌な情報もないだろうからという先読みが過ぎる判断があっただけの話なのだ。実際にナディアはあの後ヴィオレットを馬車に乗せてフォンクラークの離宮に連れて行っており、二人が何を話したのかなどは知る由もない。


「あの時はそんなこと、ちっとも思っていなかったわ。それこそ『また何やら暗躍しようとしているようね』と思っていたわよ。でも今またこちらに来たことも知らせてもくれずに貴女がヴィオレット妃やヘイツブルグ大公とコソコソしているのを見て、懸念しないはずがないでしょう?」

「さも私にとってのすべての最優先が貴女でいらっしゃるようなご意見ですわね」

「……ナディ」


 そういうことじゃない。いつもならそうしていた貴女が急にそうしなかったのだから、気になって当たり前ではないかという意味だ。そんなことはナディアも分かっているだろうに、あえて挑発的な言葉を返してくるのは何故なのか。ますます胸の奥がゴロゴロとつっかえたような心地を抱かせる。


「そういうリディアーヌ様こそ、いつもなら見逃して下さることなのに、嫌に突っかかるではありませんか。何かあるのかと私の方が疑念を抱いてしまいます」

「突っかかる? 貴女にここであったのは本当に偶然だわ。その貴女と一緒にいた人とその会話が気になるのがそんなにおかしい? 私のことを、貴女にひたすらに甘く、何をしても『仕方がないわね』と見逃してくれるような都合のいい人間だと思っているの?」

「……そんな、こと。ただ私はいつも通りに信じていただけないことが悲しくて」


 でもそれってつまり、何をしても『仕方がない』と言って貰えるものと思っているように聞こえる。それと同時にリディアーヌの方こそ、こうして腹を立てて見せればナディアが折れてくれると思っているような自分の中の傲慢さに自覚があり、それもまた自分を(いら)つかせているのだろう。


「懸念の必要がないのなら、もっと早くそう言って貰いたかったものだわ」

「何故でしょう。おかげで私は年末年始の友人の頭の中を独占できたのですよ。マクシミリアン様あたりに高笑いをして自慢したいお話しです……が、残念ながら私のことよりもそちら様の方がリディアーヌ様の頭を一杯にしていたのではないでしょうか」


 なるほど。こっちに何も言わずにコソコソと計略を働いているのはそちらも同じですよね、という牽制か。ここで、その人がヴァレンティンにやって来たのは私の意思ではないのだけれど、と言い訳したところで、まったく意味のない事であろう。

 しかしナディアには到底分かり切っていたであろうリディアーヌとマクシミリアンの接触の話と、まったく意図の読めないナディアとヴィオレットやヘイツブルグ大公の接触とでは、隠し事の重みが違うのではなかろうか。


「リディアーヌ様。私は貴女が私にそのような目を向けることが、悲しくてたまりません」

「……ええ、私もよ」

「そうですね。ですから猶更、下手な弁明はできません。私が今ここでヴィオレット妃に同情をしています、ヘイツブルグ大公閣下を利用せんとしていますなどと答えたところで、あらそうなのと()(やす)く理解を示し、歓迎してはくださらないでしょう?」

「同情……あ、なた、今、同情していると言った?」


 思わず素で突っ込んだところで、これにはナディアも素の様子で口をとがらせ「そのお言葉はとっても心外ですよ、リディアーヌ様」と突っ込み返した。


「私は貴女の行動が、私を害するものではないと信じているわ。勿論、貴女が友人だからだなんて甘優しい話ではなく、貴女が私を友人だというのが、貴女の明確な利害と私に対する評価の結果だという自負の上でよ」

「まぁ、相変わらずなんと穿(うが)った評価なのでしょう。でもそれでこそリディアーヌ様ですわね。ええ、認めましょう。仰る通り、私は貴女を友人という言葉で情を買うことで、貴女を敵に回すことを避けたいと願い、振舞っております」


 互いに互いの言葉がどこまで本気なのかを曖昧にしたまま、けれどこんな測り合うような言葉で互いを友人だと称するのが私達の関係だ。

 ナディアは大切な友人で、認め得る人材で、特別な相手ではあるけれど、結局私達の間にはすべてを打ちとけることはできない国と国とのしがらみというやつを挟んでいる。それはどうしようもないことで、そしてそれはちょっとしたことで、こうした疑心となって私達の間を揺らすのだ。


「敵に回すことを避けたいといいながら、私には何も言わず、私が最も複雑な関係を抱く者達と接触して、それを『何でもありません』などといって、本当に信じられると?」

「……」

「貴女がヴィオレット妃にどんな感情を抱くのかは、私には関係のないことだわ。同情するのだとしても、それは貴女の性格の一端だとして受け入れられるでしょう。でもナディア……私にだって、どうしたって受け入られれない人と事情はあるわ」

「……はい」

「そう。ちゃんと分かっているのね」


 その上で、同情心を抱いたというのなら、それ以上言えることはない。それがナディアの、国人としての選択であるのだとしたらなおさら。


「ですがヘイツブルグ大公閣下のことは、そのように疑われるいわれなんて……」

「何故? 私がこの皇帝戦の中で最も警戒し、最も何かを企んでいる人物として危険視しているのはヘイツブルグ大公だというのに」

「……教皇聖下や、クロイツェン。あるいは我が国の王でもなく、ですか?」

「貴女は、そう思っていたの?」


 シンと二人の間で言葉が途絶えたところで、「何とも穏やかならざる空気ですね」というこの場にふさわしくない(とう)(とう)と心を洗うような声色が降ってわき、思わず揃ってはっと顔を跳ね上げた。

 道端で話していたのだ。誰かが通りがかる可能性なんて十分に有り得たのだろうが、それを配慮できるほどに気が回っていなかった。

 良く響く声は、穏やかというにはキリリとしていて、しかし(えい)()というには(かん)()がすぎる、一度聞けば忘れないような心地の良い聖職者の声だった。


「ッ、アルセール先生!」


 思わずナディアが声を弾ませてしまったのは仕方がない。その人の顔を見ると、思う存分に心を打ちとけ議論しあいふざけ合っていた学生時代を思い起こさせる。

 ただその人の装いは以前と違い、首に掛けるストラの色が一層色濃くなっており、その刺繍も随分と複雑なものへ変わっている。そういえいばエティエンヌ猊下が、先生は昨冬、司教試験に臨んでいると言っておられたか。どうやらそれにより昇進したらしい。


「アルセール先生……このたびは新年のお慶びと、そして司教就任のことをお慶び申し上げます」

「司教……まぁ、先生。あれほどごねていらした昇任試験をお受けになったのですね。おめでとうございます」

「ごきげんよう、公女殿下、公爵夫人。まずは慶びの言葉を感謝いたします。が、まさか私が少し不在にしている間に、仲の良かったお二人がこれほどにギスギスしていようとは」

「それは……」


 ナディアが少し恥ずかし気に肩をすくめるのを見て、リディアーヌも一つ息を吐いた。

 相変わらず、先生には敵わない。昔も良く議論が白熱して喧嘩腰になってしまった私達に、『頭が冷えるまでちょっとそこら辺でも仲良く散歩していらっしゃい』などと放り出して下さったものである。


「ですが先生、この皇宮で、いつまでもどこまでも仲良くニコニコとはいかないものです」

「それでも仲良くニコニコして見せるのが為政者というものですとお教えしたはずですが」


 うっ……。


「一体何をしていたんです、フィリック卿。貴方の指導不行き届きですよ」

「……」


 あのフィリックまでもが顔色を濁して口を(つぐ)んでしまうのだから、やはりアルセール先生は偉大である。

 フィリックにとっても、アルセールはハトコ同士という親戚であると同時にカレッジの元教師なのだ。アルセール先生は童顔でフィリックは老け顔なので一見同世代のように見えるのだが、一応六つかそこら年は離れていたはずで、先生は元教え子のフィリックに対しても滅多にひるむことを知らない貴重な人材なのだ。


「そもそも他の誰それであればまだしもよりにもよって貴女方が険悪だなんて、一体何の間違いでしょう。公女殿下、貴女にとって公爵夫人は気の合う無二の御友人では?」

「それは……そうですが」

「公爵夫人も。いつものあのうっとりと周囲にどん引かれるような公女殿下への敬愛の眼差しはどこに隠してていらっしゃるのですか?」

「きゃっっ」


 もれなく頬を真っ赤に染めて飛び上がったナディアを見て、何やらリディアーヌも毒気を抜かれてしまった。

 なんてことだ……他のどんな言葉よりも雄弁な、慣れ親しんだ友の顔ではないか。


「お二人とも、互いに立場というものがあります。時に()さぬ方向性に対立することもあるでしょう。けれど私は貴女達に何と教えましたかね?」

「……だからこそ真正面から議論なさい、と」

「ええ、公女殿下、正解です。それで、今は何をなさっていたのですか?」


 あぁもうっ、恥ずかしい。もう止めてもらいたいっ。


「わ、分かりましたっ、分かりましたわ、アルセール先生っ。認めますっ。ナディアが何やらコソコソと黙って何かしているのが気に入らなかったのです。ついでに心配が理性を突き抜けて苛立ちになってしまいました。なのにいつまでたっても弁明しに来ない上に、こちらに着いたらすぐに連絡をくれると思っていた友人が年始の挨拶の一つすら寄越してくれず、よその子達にばかり構っているのですもの! 腹が立つのは仕方がないではありませんか! いいこと、ナディア! 立場柄、目上に当たる私から先に貴女に新年の挨拶を寄越すことは出来ないんですからね! 一体私がどれだけ貴女からの手紙を待ちわびていたと?!」

「ま、まぁ……リディアーヌ様」


 キョトンと目を瞬かせたナディアは、すぐにかっと頬を染めると、そわそわと俯いた。


「申し訳ありません……私こそ、リディアーヌ様にご挨拶をする前に面倒な……疑いを抱かれそうなことを全部片付けてしまいたくて。なのにそれがこんな形でバレてしまったことに焦って、しかもちっとも害する気なんてないのに疑われているのかと思うと腹が立ってしまってっ。いえ、自業自得なのですけれど。でもそれで、つい思わせぶりな態度を……」

「やれやれ。大人になったと思っていたのに、まだまだお二人とも子供ですね」


 もう勘弁してくださいと恥じたところで、ポンポンと二人そろって先生に肩を叩かれた。


「他国の為政者同士、それも簡単には拭えない悪縁がありながらも私さえ驚くほどに親しくなった貴女方です。少なくとも私は三年間、貴女達が偽りなく友であった日々を見ておりました。その関係は、とても尊いものです」

「……ええ」

「その通りですわ、先生」

「お二人にも互いに立場というものがあることは理解します。時に言葉を選び、本心を隠し、反さねばならない時もあるでしょう。けれど決して心は偽ってはいけませんよ。こうして、本当に大切なものを見失ってしまいますから」


 なんだかとっても聖職者で、先生みたいだ。まぁ、聖職者であり先生なのだけれど。はぁ。そんな先生の前で、これ以上子供じみた挑発なんて、情けないだけである。


「ナディ……挑発的な言葉で貴女を探ろうとしたわ。ごめんなさい。でもそれは、貴女が私にとっての特別だからだわ」

「はい……私も分かっているはずなのに、挑発に乗りました。私が何をしようとも、私は貴女との友情を裏切る気なんて有りません。でも悲しくなってしまったのですもの」

「ええ。私が悪かったわ」

「私こそ、ごめんなさい。私のやり方が誠実ではなかったのです」


 なぜ子供みたいな仲直りをしているのだろう。思わず互いに互いが恥ずかしくなって、きゅっと肩をすくめあってしまった。


「ナディア。すべてが終わったら仲直りのお茶会をして、何を考えていたのかを話しましょう。私が誘うわ。貴女の好きな花茶を用意して」

「では私はお詫びに一番甘いマドレーヌを持って行きますわ」

「……何ですって」

「全部食べてくださるまで、開放して差し上げませんから」

「さてはナディ、貴女まだ()ねているわね?」


 そう呆れた顔をしたところで、くすりとナディアの顔にも笑みが浮かんだ。

 まだすべての疑念が無くなったわけではないし、ナディアのすべてを信頼しているわけでもない。でもそういう()()は、私達の間では仕方のないものだ。その上で、その行動が互いを害するつもりのものではないのだということの理解を得られた。

 たったそれだけのことなのに、どうして私達は下手な睨み合いをしてしまったのか、今となっては不思議である。


「さすがはアルセール先生ですね。とっても先生らしかったです」

「ええ。私達皆、先生には適いません」

「それは結構ですが、いつまでもその調子では困ります。教え子たちがギスギスするたびにあちらこちらから引きずり出されたのでは身が持ちませんからね」


 そうアルセールが振り返った先で、こそこそ柱の陰に隠れた人影を見てびっくっりした。いかにも偶然ですだなんて装って見せているその人はフィレンツィオだ。

 確かに、アルセール先生がいつの間にか試験を終えて皇宮にいたことはいいとしても、聖職者である先生がこんな内皇庁という政庁のど真ん中にいることは不自然だ。それがどうしてかと思いきや、なるほど、ドレンツィン大司教と共に選帝侯議会棟に顔を出していたフィレンツィオがこの状況を見かけて、どこからか先生を連れ出してきたようである。

 そういえば昔も、ナディアとアルトゥールの議論が激化するたびに隣で面白がって突きまわすリディアーヌとマクシミリアンと違い、この苦労性の聖職者がアルセール先生を呼びに走っていた気がする。


「もう……そんなところまで昔のままでなくてもいいじゃない」

「フィレンツィオ様、たまには自分で止めてくれてもいいんですのよ?」

「いやぁ……女の争いは怖いですからね。触らぬ神とレディーに何とやらというやつです」

「「何ですって?」」


 思わず二人がかりで睨んだところで、ジロリという先生の睨みにもれなく黙らされた。

 確かに先生はおっかないけれど。でもなぜだろう。皇帝戦前半期と比べて、今から深い深い安心感を感じている。

 そんなささやかな行き違いと少しの和解が、この皇帝戦後半の始まりとなった。






※年末年始休業。3日から再開します。良いお年を。

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