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10-2 新年の鐘(2)

「クロエレイア・ド・クーレージュが大公閣下、並びに公女公子殿下に新年のお祝いとご挨拶を申し上げます。今年もこの先もまた、ヴァレンティンの繁栄と安寧が続きますように」


 女性のわりにすらりと高い身長と、|華《きゃ(しゃ)というよりも枯れ枝と言った方がいいようなほっそりとした体躯。しかし胸にはたわわな果実を携え、強くうねる重たげな赤茶色の髪をパラパラと結い上げたその下で、一度も日差しというものにあたったことのないような真っ白な肌に、猫のような鋭い目と鮮烈な印象を与える炎の色の瞳、真っ赤な口紅を引いたぽってりとした唇が映える。新年だというのに纏うドレスは黒を基調としていて、(たお)やかでスレンダーなラインと頭に(かず)いた黒のレースが、お伽噺に出て来る悪い魔女のようである。

 相変わらず、どんな場であろうが自分というものを偽ることのないその姿は印象的で、ツンとしてにこりともしない気だるそうな様子が羨ましいほどに奔放だ。

 ただ彼女は別に悪意や反抗心を抱いてそう振舞っているわけではなく、ただひたすら空気を読まないだけなのである。だからそのツンとした顔だって、機嫌が悪いわけじゃない。むしろ機嫌はよさそうで、慣例通りの挨拶をしたかと思うとすぐに顔を上げ、「そちらがお噂の」とマクシミリアンを見上げた。

 ニコリともしていないように見えるが、あれは内心、面白がっている顔である。


「エレン、お久しぶりね。貴女は本当に、ちっとも顔を見せてくれないのだから」

「だってお城は何かと作法が面倒くさいんですもの、姫様。ですが私としたことが、面倒臭がっている内に、激推ししている姫様が恋人を連れてきて大公様を発狂させるという最高の場面を見損なってしまいました。なんということでしょう」

「ごほんっっ!」


 もれなくお養父様が咳払いで窘めたが、周りの参列者達はしれっと顔を背けながら『あぁ、やっぱりそういうことか』と口を閉ざすばかりである。


「貴女なら選議卿にだってなれたでしょうに、それさえさぼるのですもの。ぬいぐるみを寄越して見向きもしなかった自業自得ね」

「少しは反省しておりますわ。ですが面白い物はまだまだこれからも見られそうですね。大公様、私、今年は今までよりもう少しお城に顔を出そうかと思います」

「あ、あぁ……まぁ、そうしてくれ。いや、そう……しないでくれ?」


 困っている養父に替わり、一つ呆れた顔をして見せたリディアーヌが「クロエ」と呼びかけてその視線を引き取った。


「嬉しいついでに貴女に引き受けて欲しい縁談がないでもないのだけれど。それでもお城に来てくれるのかしら?」

「縁談? 姫様が、私に? まぁ、姫様の本命はなんと、そちらの公子様ではなく私でしたか?! ぐふっ……ぐふふふっっ」

「……断じて違いますからね」


 今日は比較的会話がかみ合っているかと思いきや、油断するとすぐにこれである。


「違うのですか? 何の面白みもないスヴェンやフィリック卿でしたらお断りですわよ」

「言われるまでもなく、こっちから願い下げです」


 よほど腹に据えかねたのか、いつもなら粛々と黙っているはずのフィリックがすかさず口を挟んだ。


「心配しなくても、うちの可愛い側近達を貴女に売り飛ばしたりしないわよ」

「うふふっ。フィリック卿は姫様にあんあん言わされるのがお似合いの忠実な“犬”でございますものね。他人の物になるだなんて有り得ません。ただ姫様は今少しそちらのお犬様を痛めつけ高笑いなさるのが今時の流行に合っていましてよ」

「……」


 ちょっと意味が分からないが、まぁいつものことである。

 ちなみにフィリックさんは“犬”という評価についても即時否定してくれていいはずなのに、なぜそこは黙りこくっているんでしょうか。私、犬、もとい狼さんはマクシミリアンさんで手一杯なんですが。


「……よし、後は本人に任せましょう」

「リディ、投げたね」

「このまま会話を続けていたらお養父様が逃げ出しかねないわ。クロエ、あとで構って差し上げますから、逃げずに夜まで参会なさい。私の命令よ。きけるわね?」

「ご褒美でございます、姫様。何なら私がエスコート……はッ。いえ、ここはやはり弟君と大公様に奪い合われているところを公子様に強奪されるという熱々ラブロマンスを目撃したいという気持ちも捨てがたくっ」

「ご苦労、クーレージュ候。下がっていい!」


 ついにはお養父様に追い払われ、「アハ~ンッッッ!」と変な声を出しながらとろけているところを、騎士達によって連れ出されていった。

 あぁ……恥ずかしい。


「なるほど。確かに個性的ですね」

「……ライナルト卿……本当に、断ってくれていいわよ」

「いえ、大変好奇心が刺激されました」

「……」


 今更だが、さすがマクシミリアンの幼馴染である。この人も相当変だ。


 そうこうしている内に長い長い謁見が終わると、ようやく昼食にありつける。けれど次の時間も差し迫っているからと食事は軽く、慌ただしく済ませ、再び謁見の間に戻ると、集まった貴族達を両脇に、初めて登城する新成人達によるお披露目の儀となる。

 代表者が大公家を前に恭しく成人の喜びと貴族としての心構えを宣誓し、大公様から有難いお言葉……という名の、『まぁ気負わずにやれ』という内容のふにゃりとしたお言葉を授かると、全員で恒例の踊りを披露してデビュタントとなる。リディアーヌも見知った顔をいくつか追いかけながら、それを見届けた。


  ***


 新成人のお披露目が終われば、堅苦しい行事も終わりである。城内は広間という広間が解放され、貴族向けの祝い膳も提供される無礼講となる。人々は格式ばった装いを解き、思い思いの催しもが行われている広間で思い思いに過ごし、夜遅くまで賑やかに過ごすのだ。

 リディアーヌも新成人のお披露目が終わるとすぐに正装を解き、ちゃんとはしているけれど楽なドレスに毛皮の布をてろりと肩にひっかけて広間に出た。無礼講の間は会場に入る順番だなんだを気にすることも無く出たり入ったり気ままに過ごせるので、広間に入ったところでいつものように高らかに(にゅう)(ぎょ)を宣言するような野暮な人もいない。

 新年の無礼講は未婚の紳士淑女にとってはこれが大事な結婚相手探しの場にもなる。大広間では新成人をはじめとする若い子達の華やかな話声と共にダンスパーティーが催され、一方の年嵩の者達は思い思いに周りの休憩室でお酒のグラスを傾けたり、中にはカードゲームに興じている紳士達もいたりする。

 ところ変わって中広間では例年少し変わった趣向の会場が設けられている。今年は仮面舞踏会をコンセプトとしているようで、表立って誰と名乗ることが禁止されているのをいいことに、リディアーヌもマクシミリアンを連れてこちらの会場に引きこもるのを選んだ。


「厳粛であるはずの新年の宴で仮面舞踏会だなんて……さすがヴァレンティン」

「ヴァレンティン貴族は面倒ごとが嫌いでダラダラと過ごしたい人が多いから、仮面舞踏会率は高いのよ。お養父様のせいにも思えるけれど昔からそうらしいから、きっと歴代大公がそうなのね」

「実際にヴァレンティンを見るまで、ヴァレンティンはヘイツブルグなみにお堅い気質なのだと思っていたよ」

「質実さと冷静さを好む雪国らしい内向気質だから、それも間違っていないわ。一応、うちのお養父様も対外的にはそういう印象だと聞いているし……その、私からしてみると、ちょっと想像がつかないのだけれど」

「ふふっ。私もこの数年でそれを実感している」


 さもありなん。


「でも一見して淡泊な外見の内側は情熱的よ。顔を隠すと大胆になれるのかしら? 仮面舞踏会だけはいつでも賑やかだわ」

「あぁ、確かに。大公閣下も。それにリディもね」

「……そう?」


 あまり自覚がないのでそう言われると何やら気恥ずかしい気がしないでもないのだが。

 ただヴァレンティンでも、『仮面なんてこっぱずかしいものは死んでも嫌です』という人もいるわけで……えぇ、まぁ、うちのフィリックさんみたいな人もいるわけで、必ずしもこればかりが盛況というわけではないのだが、今宵も会場に入ったところですでに随分な賑わいを見せていた。

 会場の中央でどこの名うての舞姫かというような華麗なダンスを披露している女性がいるが、あの身長、あの髪色とあのドレスはクーレージュ女侯クロエレイアではなかろうか。お相手は……ラヴォア侍府長? 大公様の内向きの事務一切を取り仕切る家政の長であるお爺様だ。なんという年に似合わぬキレッキレっぷり。二十代の女候にもまったく負けていない。あれは見ているだけで楽しい。


 仮面なんてものをしていてもこうしてばれる人はばれるのであって、リディアーヌも髪の色が珍しのですぐにばれる。それでも素性を聞かないことが仮面舞踏会のルールなので、さりげなく()(しゃく)してくれる紳士達に軽く手を挙げて制しながら、中央の賑わいを見つめつつ奥の重たい布がかかった間仕切りの奥へ引っ込んだ。

 半開きのカーテンからは会場の中の様子も良く見えるが、少し落ちつきたい人達のための空間である。すでに何人かが隅でゆるりとグラスを傾けて寛いでいたが、挨拶に立つ彼らを制して奥の二階への螺旋階段を上ると、ホールを見下ろせる二階のバルコニー席に腰かけた。二階は大公家の貴賓席なので、さすがにここまでやってくる人はいない。


 軽食と飲み物を用意させると、側近達にも「楽しんできていいわよ」と最低限だけ残して傍から外させる。するとほどなく下の会場にフランカの手を取るクラウス卿が現れて、丁寧な挨拶を交わして踊り始めた。

 白い雪兎のようにふわふわと柔らかい雰囲気のドレスのフランカに、侍従のお仕着せに似たピシリとした恰好のクラウス卿は並んで立つととてもしっくりと着て、中々良い雰囲気であった。放っておいても上手くやってくれそうである。

 それでもう一人は、と視線を巡らせた先で、ひと踊り終えて壁際でごっごっと男前にワインを煽っているクロエレイアに臆することも無く近づく()()を見つけた。日頃知人以外には遠巻きにされることの多い女侯なので、見知らぬ異性に声をかけられたことにびっくりとした様子だったが、何やら話し込んだかと思うと突然がちっと二人が手を握り合って深く頷き合った。かと思うと、女候に何やらペシペシペシと肩を叩かれ爆笑されている。あれは一体何だろう。


「貴方の文官、やっぱりちょっとおかしいのではなくて?」

「いやぁ、知らなかったなぁ……ライナーがあんな面白い人間だったなんて」


 そのままホールの真ん中に連れ立って踊ることにしたらしい二人に、リディアーヌは素直にライナルト卿への感心を覚えた。先程の激しい踊りっぷりを見てなおダンスに誘えるだなんて、相当である。

 ふと見ればその少し先で、仮面をしていても分かるヘラッヘラな顔でとろけながら踊っているケーリックと、それに付き合ってあげているハンナを見つけた。その隣は行儀見習いのクレーテと、可愛い婚約者に連れ出されたらしい困り顔のシュルトだ。シュルトが躍っているところなんてかなり珍しいのではないだろうか。皆、楽しそうで何よりである。


「ザクセオンの新年はどんな感じ?」

「うーん……うちは緩い方だと思っていたんだけど。これを見るとそうは言えないかなぁ。年末年始の神事や振る舞い膳、新年初日に謁見や新成人のお披露目があるのは同じかな。でも年明けは早めに寝て夜明け前に起きて、夜明けと同時に一般拝賀になったり、とにかく朝が早い。夜もデビュタントの後は普通の堅苦しい夜会だね。ドレスコードも春の色と春の装いになる」

「それは素敵だけれど、うちでは春の装いは流石にまだ寒すぎるわね」


 何しろまだ窓の外には雪が積もっている。随分と溶けてきてすでに雪人形を作れるほどの積雪ではないけれど、それは城の下仕え達がしっかりと毎日雪かきをしてくれているおかげであり、確かに雪は降らなくなったとはいえまだまだザクセオンの冬の盛りほどの寒さはあるだろう。

 ただこれほど雪深い山の麓に立地しながら、風にはすでに春の息吹を感じる。日照時間が長くなるせいでもあるだろう。そのことに心が浮ついて、つい無礼講としたくなる気持ちは分からなくはない。


「二日目は人事異動。これも同じだね」

「お祝いは三日まで?」

「そう。でも三日は特に行事もないから、大体町に下りて祭りを楽しむ」

「……」


 それはザクセオンの公式行事ではないのではなかろうか。


「うちは三日は雪払いの儀ね。まだ雪は残っているけれど、一斉に城も町も雪を払って、春物を日干しして、夕方からカーテンや絨毯を春物へと敷きかえるの。町の方ではなんでも名残雪を堪能するための(そり)大会や雪かきの速さを競う大会なんかが催されるらしいわ」

「何それ、見たい」


 この人ならそう言うと思った。思わず苦笑が零れてしまう。


「でも今年は駄目よ、ミリム。私達はすぐにでも皇宮へ移動の準備をしないといけないから、呑気に町を歩いている時間なんて無いわ。貴方にも手伝ってもらいますからね」

「はぁ……残念だ。でも来年に楽しみを残しておくというのも悪くないよね。まだこれから、いくらでも見に行く機会はあるのだから」


 スリッとテーブルの上の手を取られ、指輪を指先で撫でられる。

 なんだかいい雰囲気を(かも)し出して有耶無耶にしようとしているようだけれど……来年以降も、大公家の人間が新年三日から早々と町にお忍びに出かける機会はあってはならないのではなかろうか。突っ込みどころに困る。


「貴方の騎士にはよほどの()()れを用意しないといけなさそうだわ」

「おっと。そこはほら、ほどほどでいいよ。ほどほどで」


 そんな話をしているうちに階下で曲が終わり、パラパラと人がばらけて行く。クロエレイアはすっかりとザクセオンの文官殿が気に入ったようで、一礼して下がろうとしたライナルト卿を取っ捕まえ、二曲目に突入したようだった。それに感化されたように、皆もまた中央に出て来る。

 ただそれをクスクスと笑って見送ったフランカとクラウス卿は、すぐにも「お(いとま)を有難うございました」と言いながら二階に戻って来た。さすが、仕事が生き甲斐で結婚する気が起きませんと豪語する二人である。

 ただし仕事が生き甲斐なのは二人だけではなかったらしく、もう一曲が終わる頃にはハンナもケーリックもクレーテもシュルトも、ついでに元々ついていたイザベラに加えてエリオットとマーサの夫妻までやってきてしまった。さらにライナルト卿がクロエレイアから解放されて戻ってくると、何故かその女侯様も一緒についてきてしまった。

 一体ライナルト卿は何をしたのか、(なつ)きすぎじゃないだろうか。怖いんだが。


「えーっと……エレン。貴女がこんなにきちんと夜会の留まってくれるのは珍しいわね」

「姫様、こんなにも素晴らしい殿方をどこに隠していらしたのですか? 私はすでに仕入れたネタを竜車の如く猛烈に紙に書き起こしたい情熱と、突けば突くほどにもっと大量の最強のネタが出て来るのではという好奇心とに人生始まって以来の揺さぶりをかけられております」

「人生始まって以来って……」


 いくら何でも大げさなのではと思うのだが、そんなクロエレイアの耳元にライナルト卿が何かをポソポソと呟くと、たちまち「はうぁっ!」と奇声を上げあげながらその場に崩れ落ちた。

 クロエレイアはこれさえなければただの美しい女侯様なのだが。


「ライナー……手玉に取るの、早すぎじゃないか?」

「このように面白……関心を引かれる貴婦人には初めてお会いいたしました。私も少々、言が乗ってしまったようです」

「……」


 何故だろう。混ぜてはいけないものを混ぜてしまった心地がする。

 そうしている内に、仮面舞踏会場でありながら仮面もつけていないフィリックがこそこそと人目を避けるようにしてやってきて、すっかりと集まっている人だかりに一度目を瞬かせ、呆れたように「何故わざわざこんな場所に固まる必要が?」と突っ込んだ。

 確かに、その通りである。だがそういうフィリックものこのことやって来たのだから、他人のことは言えないと思う。


「それにクロエレイア女候まで……」

「まぁまぁ、萌える展開でしてよッ。そういうフィリック卿こそ本当に、昔から姫様にべったりまとわりついて、まったく、なんて素敵な気持ち悪さなのでしょうッ! いっそこのまま公子様から主を強奪してどこぞの小部屋に連れ込む展開もアリでしてよ! ハァッ、ハァァッ!」

「……」


 イラッとフィリックの眉がしかめられるや否や、「すみませんが大事な話がありますので」と、上司の機嫌を気にしたらしいシュルトとエリオットが恭しく女侯を階下へと促した。できる事なら、もっと早く止めてもらいたかったものである。


「リディ?」


 ほら。なんかもう、ニコニコしながら妙に声の低い人が一人いらっしゃる。


「アレは気にしないでちょうだい。言ったでしょう? 彼女、変わり者なのよ。ひたすら目についた男女を……たまに同性を結び付けて、あぁいうとんでもない発言を繰り返し、しかも()()が悪いことにそれを小説なんてものにして世に広めやがるのよ。何しろ本人が八大侯爵家の一角の当主なものだから周りもネタにされたところで文句が言えなくて、結果ヴァレンティン社交界では『クーレージュ女侯に目をつけられたら覚悟しろ。たちまち醜聞を作られ腐り果てるまで絞りつくされるから』と言われているわ。しかも一部界隈ではなぜかそれが中毒になるほど流行ってるらしく、それでついたあだ名が“毒染め姫”よ」

「そ、それは……」


 さすがにマクシミリアンも予想とは少々違う方向性になったことに言葉を無くしたようだった。言いたくないが、心配せずとももう一年も待たずに(ちまた)にはリディアーヌとマクシミリアンを題材にした恥ずかしくて目を閉ざしたくなるようないかがわしい小説が発刊されることだろう。

 だが突っ込んではいけない。突っ込んだら負けなのである。一度突っ込んでしまえば最後、『どこがどのように違うのか、修正させいていただきます!』と興味を持たれ、第二冊、第三冊と続編が飛び出しまくる。その後遺症は恐ろしいものである。

 なお、今までで一番売れた代表作は、公女殿下が高貴な側近筆頭文官を犬にしてひぃひぃ鳴かせる女王様物だと聞いている。大変不名誉かつ誤解を与える話なので、これに関してはどうかライナルト卿にも知られないことを切に願っている。


「姫様、ご命令くださればいつでも女侯と関係のある出版各社を捻りつぶし全巻回収の上焼き討ちに処す準備がございます。どうかご一考ください」

「気持ちは分かるけれど……不用意に出版統制して民の不満を煽るわけにはいかないわ」


 本当に、心の底から、その気持ちは分かるけれど。


「そんなことより……折角集まったのだから、春からの対処について話しましょう」


 こほんこほんと咳払いをして話を切り替えたところで、そっちの方が話題的にもマシに思えたらしいフィリックも、「そうですね」と頷いた。

 元々そのつもりで嫌いな仮面舞踏会場なんかに来たのであろう。






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