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8-57 聖職者達の思惑(2)

 祭壇を片付ける助祭達を残し、フィレンツィオだけが皆を先導して、どうやら最初から用意していたらしい小聖堂西棟の部屋へ案内した。分厚い絨毯と重厚なタペストリーが飾られたシンプルだが暖かい雰囲気の小さな応接間である。火鉢にはすでに火が入っていた。

 そこにエティエンヌ猊下とサンチェーリ司教、リディアーヌにアンジェリカ、そして当然のようにマクシミリアンが付いてきて、「温かい蜂蜜湯でもお持ちしますね」というフィレンツィオに、マーサとラジェンナがついていった。マクシミリアンは文官も侍従も誰も連れてきていないようだ。本当にお忍びで出てきたのだろうか。

 ほどなくフィレンツィオが戻ってきて皆に蜂蜜湯を配ると、「皆様はお控えの間にどうぞ」などと側近達を隣の部屋に誘導した。フィリックはチラリとこちらを窺ったけれど、問題ないと頷いて見せる。

 だがフィレンツィオだけはすぐにこちらの部屋に戻ってきた。


「さて、まずはこうしてお休みの日にご足労をいただき有難うございました」


 そう切り出したサンチェーリ司教に、「有難うございました」と同じくフィレンツィオが頭を下げる。


「少々予期せぬことはありましたが……」


 さらにそうサンチェーリ司教が続けたことで、どうやらエティエンヌ猊下の件は本当に想定外だったのだと察せられた。なのに当たり前にこの場にいるのだから、どうして猊下がやってきたのかの理由はすでに司教様もご存じなのだろう。


「エティエンヌ猊下をお呼びしたのは司教様ではないのですね」

「はぁ……恐れながら、うちの弟子が一存で」

「フィレンツ?」

「いえいえ、誤解ですよ。私はただ先んじて猊下から『こうこういうことがあれば知らせるように』と指示を受けておりましたので、その通りにお知らせしただけです。お師匠様にお知らせしなかったのは、離宮では常に大師匠様の目がありましたからやむを得ず」


 なるほど、サンチェーリ司教はドレンツィン大司教の右腕。日頃は聖職者達の過ごす聖堂や皇宮内にある宿舎ではなく、ドレンツィン大司教に与えられている選帝侯家としての離宮で過ごしていたのだろう。だがそこにはそこら中に大司教様の目があるからと、小聖堂に籠もっているこの三日間を利用し、友人が何やら暗躍したようである。


「もしかしてミリムを呼んだのも貴方なのかしら? フィレンツ」

「そちらは完全に想定外ですね。三日目だからきっと私達がリディアーヌ様を呼ぶだろうと思った、などと仰って、普通にご自分でいらっしゃいました」

「いやぁ、大当たりだったよ」

「……」


 さ、さすがマクシミリアンというべきなのか。


「フィレンツィオはこう言っていますが……公女殿下。公子殿下がご同席することに問題は……ないようですね」

「……ふぅ」


 何やら状況がよく分からないのだが、つまりリディアーヌをここに招いたのはサンチェーリ司教が周りの目が無い今のうちに話したいことがあるからとフィレンツィオに指示を出した結果で、それをフィレンツィオから密告されたエティエンヌ猊下がいらっしゃったのは司教様にとっては予想外のことであったと。そしてそんな状況を察していたマクシミリアンは特に情報があったわけでもないのに自らここにやってきたわけだ。

 いずれにしても、本来の目的はこの席を設ける事だったわけで、これは一応、期待していた以上の状況であると言わねばならないのだろう。

 なんだか……ちょっと、想定していた(めん)()と違う感じになってしまったが。


「まず聞きたいのだけれど、フィレンツ……フィレンツィオ助祭。貴方の立ち位置は一体どこなの? 私の記憶が正しければ、サンチェーリ司教様の弟子とはいえ事実上ドレンツィン大司教閣下の愛弟子などと呼ばれる立場であったと記憶していたのだけれど」

「ははっ、恐れ多いですね。まぁ、私は閣下とは血縁がありますからそう言われるのも仕方がないですが」

「え?」

「初耳だけど」


 思わずリディアーヌに続けてマクシミリアンも驚いた声を出した。

 聖職者は結婚をしないので、実家がどうのこうのくらいは話題になるが、あまり聖職者同士の血縁の話になることが無い。だから知らなかったし、誰も話題にしなかったのだろう。思わず、本当に? とサンチェーリ司教を窺ったところで、司教様が深く頷いた。


「ドレンツィン大司教閣下……もとはフィオリーニ司教と呼ばれていた方ですが、閣下は代々ドレンツィンで領政官を務めるロンヴィーノ家の出身です。ドレンツィンの大司教は世襲ではありませんが、何しろロンヴィーノ家の影響力が強い土地ですからロンヴィーノ系の大司教が就くことが多いのが実態です」

「ロンヴィーノは大司教領一の大商会よね? 一族内に地域施政を担う代官を多く出す名門として知られていると聞くけれど、それほどだったとは」

「フィレンツもそこの出身ということ?」

「ええ、そうです。直系出身の現大司教閣下と違い私は直系に養子に入った傍系の出身ですけれど、一応俗世の戸籍では閣下の甥ということになっていますね」

「とんでもない身内じゃない……」


 知らなかった。思わず頭を抱えてしまったところで、「まぁ出家した時点でどうせ戸籍から名は削られていますから」とフィレンツィオは苦笑した。

 いわく、元々傍系の中でも末端の出身だからか、大司教と顔見知りであったわけでもなければ顔立ちが似ているわけでもない。唯一瞳の色がよく似ているがそれはただの偶然で、出家してからこの方ロンヴィーノを名乗ったこともないという。


「ただ大司教閣下には当然、一族からこういう者を教会に入れましたので宜しく、という話は通っているわけで、私も教会に入って修練課程を終えてすぐ、ドレンツィンの大聖堂付きになりましたから……まぁ、上の口利きはあるだろうことは知っていました」

「ただその頃には今の閣下が大司教と選帝侯の位を継いでおりましたから、そのお立場で新たに弟子を取るわけにはいかず、元々閣下の弟子であった私が指導官となった次第です」


 そうサンチェーリが続けて、どうしてフィレンツィオが直接の師ではなくドレンツィン大司教の愛弟子扱いされるのかを理解した。確かに昔から、どういうことなんだろうとは思っていたのだ。

 聖職者であっても聖都のカレッジに通えるのはごく一部の見込みのある者達だけだ。実家の後ろ盾がある場合が多いが、フィレンツィオの場合はドレンツィン大司教の推薦だと聞いていた。それも影響しているだろう。ただフィレンツィオの場合は大司教というよりロンヴィーノ家というドレンツィンの名士である実家の後ろ盾もあったのかもしれない。


「けれどフィレンツ、貴方は今こうして、大司教閣下ではなくサンチェーリ司教のもとで動いているようだけれど」

「先程も言ったように、ロンヴィーノ家から出された聖職者とはいえ、私は()(せい)出身の養子です。本家の恩恵には預かってきましたがあまりそこが実家という感覚もないですし、大司教閣下にはよくよく取り立てて頂いてまいりましたが、叔父であるという感覚もありません。むしろ幼い頃から厳しく教えてくださったサンチェーリ司教様の方が私にとっては親にも等しい方ですから」

「ロンヴィーノの息子など私にしてみればいらぬ火種ですから、最初は邪険にしたものですが、中々めげないものですから」

「教会に入るまでの私は食うにも困る家の生まれで、物覚えがいいからという理由だけで親と引き離された挙句、本家では聖職者にするための勉強漬けに過度な罰則で痛めつけられていた可哀想な子供でしたからね。正直、お師匠様の指導は優しすぎたくらいです」

「はぁ……」


 苦笑を浮かべたサンチェーリ司教に、なるほど、この二人は案外いい師弟関係を築いてきたらしいと察せらた。

 こうなると世間の噂である、現ドレンツィン大司教は二人の弟子達ではなく愛弟子のフィレンツィオを跡継ぎにする気らしい、なんていう噂の真相も違って見えて来る。

 いくらなんでもフィレンツィオでは若過ぎではと思っていたが、大司教は事実そのつもりかもしれず、逆にフィレンツィオはサンチェーリとシリアートという二人の大司教の弟子の内、サンチェーリという師を跡継ぎに推している立場なのだろう。

 昨今大司教が一番弟子のサンチェーリよりも二番弟子のシリアートを優遇しているのではと囁く声も聞いていたが、その辺にもフィレンツィオの事が影響していたかもしれない。


「つまりフィレンツ……貴方は大司教閣下の意に反するために、私達をここに集めたのね」

「誤解ですよ、リディアーヌ様。私はただ師が公女殿下とお話する機会が欲しいと仰るので、その通りにしただけです」


 まぁ同じ意味だと思うけれど。


 ドレンツィン大司教は教会の中でも最も特殊な職の大司教で、枢機卿でありながら選帝侯として領地を治める政治家でもあるという立場だ。教会の中でもこのような特殊な地位は他になく、逆に言えば、枢機卿でありながら教皇庁本山の政務には関われない地位でもある。ドレンツィンの枢機卿は本山の枢機卿達が行う議会や裁判、法務会に参加する資格を持たない。あくまでも地位だけが枢機卿に並ぶという立場だ。だからドレンツィン大司教の地位から本山の重職、ましてや教皇などに至った者は過去一人もいない。

 しかし今のドレンツィン大司教は強固な“教皇派”といわれる立場で、教皇聖下に非常に近しい。今も選帝侯でありながらほとんど教皇聖下の意のままで、一部では(かい)(らい)選帝侯などと()()されるほどだ。それこそが、ドレンツィン大司教とサンチェーリ司教との間に生まれた溝なのではあるまいか。


「もし許されるのであれば猊下、司教様、この場ではしばらく、取り繕うということをなしにお話させていただけますでしょうか」

「ええ、そうしていただきたく、こうして秘密裏にお呼びしたのです」


 サンチェーリ司教の言葉に頷くと、一つ息をついて顔をあげる。


「では率直にお聞きします。サンチェーリ司教が“聖女”の称号を持つ私に伺いたかったこととは何でしょう」


 ようやくどういう意味か分かったらしいアンジェリカが、隣でごくりと息をのむ。それは自分のことでもあるから、先んじてどういう話なのかを察したのだろう。そしてその予感は当たりだった。


「注意深く見聞きしていれば、おかしな点はいくつもありました。そしてそれを公女殿下も隠そうとはされていない。私達にさりげなく、何かを()()していたのだと思っております。ゆえにお伺いします。公女……聖女殿下、“聖女”と“使徒”とは、何なのでしょうか」


 思わずきゅっと自分の胸元を掴んだアンジェリカに、安心しなさいとばかりに手を添えて落ち着かせる。

 何も問題はない。これは聖女が意図したことであって、そして教会において本物の聖女が持つ権力を、リディアーヌはすでに知っている。


「司教様は、アンジェリカやヴィオレット妃の聖痕を覚えていますか?」

「はい。ベルブラウの花を(かたど)った聖痕で、それは見間違うはずもなく、確かにそうでした」

「では私の聖痕をご存じですか?」

「それは……」


 知っているはずはない。それを知っているのはベルテセーヌや一部のヴァレンティンの者達と、そしてアンジェリカの聖別の際それを目にした者達くらいで、とりわけ東大陸の者達は知らないだろう。


「アンジェリカ、襟をお願いしてもいいかしら? 今日はボタンが多いから面倒だけれど」

「あ、はい。お任せください」


 慣れないボタン外しを最初からアンジェリカに任せて、首元までびっしりと閉じてあるくるみボタンを一つ一つ外してもらう。


「ちょっ、ちょっ、リディっ?!」

「何情けない声を出しているのよ、ミリム。ちょっと襟元を緩めるだけよ」

「ちょっとってっ」


 何故か一人ハラハラしているマクシミリアンに、フィレンツィオが「まぁお気持ちは分かりますよ」と笑っている。そんな過激な恰好をするわけじゃないんだから、まったく。

 その内アンジェリカがぎりぎりの所までボタンを取って、淫らには見えないよう綺麗に襟を織って整えてくれたので、そのまま再び司教様方を向き直る。

 服のせいで見辛くはなっているが、アンジェリカ達とは少しずれた左胸の上にくっきりと浮かぶ聖痕には、サンチェーリ司教だけでなくエティエンヌ猊下も「ほぅ」と声を上げた。


「なんと……これは初代ブラウ妃の肖像画とまったく同じではありませんか」


 そう言われて、リディアーヌもこくりと頷いた。


「正直に申し上げて、アンジェリカやヴィオレット妃の聖痕はそうと知る者が見ればすぐに、“違う”と分かるものです。私の聖痕はブラウ妃とは少し角度と花びらの向きが違うんですが、それでもほとんど同じもので、ベルブラウの花と葉だけです。でもアンジェリカの聖痕は花と茎が円を描く形をしています。これを私達は“使徒紋”と呼んでいます」

「使徒……聖痕であることは確かなのですね?」

「ええ。神々が下され身に宿された(まこと)の聖痕です。しかし聖女の聖痕……つまり、“ベルベットの聖女”の証ではありません」

「ベルベットの?」


 マクシミリアンが首を傾げたので、リディアーヌは端的に、ベルベット・ブラウ妃の名の由来の話を説明した。帝国ではベルベット・ブラウ妃はベルベットが名前だと思われているけれど、本当はベルベットが家名でブラウが名であること。そして聖痕は、“ベルベット家”に遺伝すること。

 どうやらその辺は教会関係者の一部には知られている話だったようで、一つ頷いたフィレンツィオは「ですが実際にはベルテセーヌ王室にお生まれになるのですよね?」と問うた。

 さて……一体どこまで話すべきなのかと悩むが。だがここにはマクシミリアンもいる。リディアーヌの未来にも関わるであろう人なのだから、今の内にもその事実は話しておくべきなのかもしれない。


「ブラウ妃は、ベザの子孫にこそ神の恩寵が受け継がれることを望んだんです。だから聖痕はベルベット家の直系の、しかしベザの血を引く女子に引き継がれます」

「ベザの血……あぁ。だから最もベザの血が濃い直系であるベルテセーヌ王室なのか」


 すぐに理解したマクシミリアンは、すぐに、「待って。ベルベットって確か……」と、わずかに眉をしかめた。


「ベルベット・ブラウ妃の出身は西大陸の北西の果て。今はヴァレンティンと呼ばれている地でございますね」


 言葉を引き継いだエティエンヌ猊下に、リディアーヌは深く頷く。それだけで察せられたように、司教様は「なんと、それでは」とこぼしてしばらく思案の面差しで口を噤んだ。


「つまり聖女の因子って……ベルテセーヌじゃなくて、ヴァレンティン家が継いでるの?」


 その答えをはっきりと述べずにただ薄く笑みを浮かべたら、マクシミリアンもふぅと息を吐いた。これがヴァレンティン家が長く秘めてきた秘密であることを察したのだろう。


「あぁ、そうだった……そういえばリディが言ってたね。ヴァレンティン家だけは帝国初期時代、長く近親婚ばかりを繰り返していたって」

「ええ。そして今もベルテセーヌ王室との婚姻がやたらに多い」

「聖女の因子はベルテセーヌじゃなくてヴァレンティンに受け継がれて、でも最も濃いベザの血筋に現れる。あぁ、道理で。ヴァレンティン家はそうやってずっとベルテセーヌに聖女を与えてきた存在なのか」

「ええ。私の母のように」


 そういえばそれもそうだった、とマクシミリアンは頭を抱える。


「ちょっと待って、リディ。自分で言うのも何なんだけど、うちって案外、真っ当にベザの血を継承してきたんだけど」

「ええ、知っているわ」


 マクシミリアンのじっとリディアーヌを見る視線がどういう意味なのかは分かっている。リディアーヌもそれについては散々考えた。だから肩をすくめて見せたら、「あぁそういうことか」と再びマクシミリアンが息を吐いた。


「君が軽々しくどこそこへ嫁げないと(かたく)なだった理由はそれか」

「私も昔から知っていたわけではないから、他の理由の方が大きいけれど。でも今はベルベット家の血をあちらこちらのベザの子孫に広めるわけにはいかないというのが一番だわ」

「そんなことになれば聖女はより政略的に、帝国の道具になってしまう」

「聖女の魂って、輪廻で転生し続けるものだそうなの。私に前世の記憶はないけれど、次の聖女もその次の聖女も、それはすべて私なのだそうよ」

「……え」

「そう思うと、自分の死後の話であってもそう看過できないでしょう?」

「今なんか、とんでもない事暴露しなかった?」


 まぁこれはただのサービスである。ちょっと肩をすくめて誤魔化しておいた。聖職者達も、そうした秘事については敢えて突っ込まずに流してくれた。


「つまり聖女殿下。歴代に聖女はたったの一人。それは不文律なんですな?」

「ええ、そうです猊下。たとえ私が王女としての自分を殺し、聖女の名を返上したとしても、私が死に新たな聖女が生まれるその日まで、永劫変わることなく私だけなのです。そして聖女の鍵……神々に与えられた“聖章”を持つ者も、私一人だけです」


 ですが、とサンチェーリ司教の視線がアンジェリカを見た。サンチェーリは先だって、アンジェリカが聖痕から鍵を出すところを見ているのだ。

 だからリディアーヌは自ら聖痕に触れて鍵を抜き出して見せると、「これが聖女の鍵です」と置く。あまりにもさらっと出したものだから、初めて見たエティエンヌ猊下は目を白黒させている。


「あの時はこう、無理やり、アンジェリカの聖痕に押し付けていたんです。アンジェリカは、気を張っていないと今にも(こぼ)れ落ちてしまいそうだと言っていましたから、本来この鍵は聖女本人しか身に宿せない物です」

「ではヴィオレット妃は(いか)()なのですか?」

「彼女が持っている鍵は、確かに聖女の鍵です。ただし、地上に自分の鍵を閉じ込め未来へ残した、帝国時代四代目聖女フロリアナ様の鍵です」

「四代目……」


 ぎょっと驚くのも無理はない。先日アンジェリカと二人でそれを調べたリディアーヌも驚いたのだから。


「ミリム、秋のユリウス一世の即位式で、ロージェから聖女の髪飾りと王女の印章が盗まれた事件を覚えているでしょう?」

「あぁ、勿論だ。その犯人と目されている人物のことも」

「その犯人の持ち去った髪飾りの中に四代目の鍵があり、それを取り出すのに必要なのが王女の印章だったようだわ。あれは、聖女の鍵よ」

「……それを……ヴィオレットが盗み出したのか?!」


 はっきりと口にしたマクシミリアンに、三度聖職者達が驚いた様子で慌てふためいた。

 こうやって改めて聞くと、なんという大事件であろうか。


「でも手段はどうあれ、それによってヴィレットは使徒の資格を得た」

「その使徒というのは結局、何なのでしょう?」

「私の記憶では、聖女が政治的に不都合だった時期に使徒紋を宿して聖女を偽った王女が昔いたというその程度だったのだけれど、このアンジェリカの場合は事情が違っていて」


 自分から説明する? とアンジェリカを窺うと、アンジェリカも緊張した面差しでゆっくりと頷いた。






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