表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/408

5-43 かかった魚(2)

 その日の夜は、こちらに来たナディアが気を利かせて帝国風の食事を用意してくれ、ククも保留になっていたヴァレンティン風の白パンを焼いてくれたので、図らずも少しの癒しとなった。生憎と材料が異なるので全く同じとはいかず、特にバターの風味が随分と違っていたけれど、食感と味には全く問題もなく、ククのいい特技を知ることになった。


 その日はそのまま代官所に泊り、翌日は朝から会議室に詰め、ほどなく「赤い旗の馬車が見えます」という報告と共にバルティーニュ公と共に関門を見渡す砦の塔に登った。

 塔から見れば、すでに関所での不穏な噂を聞いたらしい商人達の列は全く見えず、代わりに、確かに赤い旗の立った馬車と荷馬車が近づいてきている。その傍らには騎馬で追従する騎士らしき者達も五人ほどいた。あの構えは“国の使者”などの往来で見受けられるものである。

 そんな馬車が到着するよりも早く、ピィと鳴いて飛んできた鳥がククの腕に下りたつ。


「どうやらラジェンナお嬢様が大層ご活躍なさったようで。城外の抜け道から内部へ入り、マイヤールの都市は一時間と掛からずに陥落。決起して城門を出たマイヤール候と国王軍とが激突し、侯爵を捕らえたそうです。即日、南東軍は降伏宣言いたしました」

「被害については?」

「町の損害は軽微、とだけありやすね」


 じゃあ人的損害については不明……いや、あえて知らされなかったということは軽微とは言えない被害だったのだろう。そう息を吐いていると、二枚目の鳥文を確認したククがすぐに「こっちはどうも急ぎの後報のようで」とリディアーヌに渡した。

 なるほど。マイヤール候との戦線を隠れ蓑に離脱した南東軍の一部がフォンクラーク方面に向かって逃走したと。そのため国王軍はそのままフォンクラーク側に進路を向けたようである。セザールからフォンクラークの諜報員宛てに、越境と侵略の意思はないことの知らせをして欲しいといった要望があったことが書かれていた。


「私宛てではないのね」

「念のため、姫様がどこにいるのかはアチラには隠してありますんで。例の、クロイツェンだなんだの諜報員もついてきていたようですから念入りに。リンテンの方にも引き続き偽の鳥を飛ばしてもらって誤魔化してありやすよ」


 そのおかげで、アルトゥールもリディアーヌの居場所をリンテンだと思い、だが本当に現状で滞在するには無意味なリンテンにいるのだろうかと探りを入れていたのである。言わずともククが情報操作をしてくれていたとは思わなかったが、重ね重ね優秀な鳥匠である。

 ククの情報はそのまま隣でこちらを窺っていたバルティーニュ公にも伝え、ベルテセーヌからの正式な要請として国外に逃亡を図ろうとする賊に対する捕縛への協力があったものとして対処してもらうよう頼んだ。正式な書類は後日としてもらい、ベルテセーヌの書式を良く存じているリディアーヌが仮の依頼書を作成した。本来リディアーヌ公女にベルテセーヌの正式書類を作成する権限はないのだが、バルティーニュ公はそういう融通が利く御仁である。偽物と分かっていながら快く受諾してくださった。こうなれば誰が逃げてきたとしてもこちらとあちらで挟み込みになり、逃げ道などないも同然である。


 だがそんな安堵を抱くには早すぎたらしい。ついにもう少しという所まで赤い旗の馬車が近づいてきた所で、王都からの急使とやらがこの代官所にやって来た。

 どうやらフォンクラーク王側はまだこの代官所がバルティーニュ公の手に落ちているなど思ってもいないらしく、したり顔で代官に面会を求めてやって来た使者はバルティーニュ公の御前に連れて行かれると、度肝を抜かれた様子で腰をついてしまった。

 その指示書を開けば、クロイツェンからの使節を丁重に迎え入れて王都までの護衛を命じる旨と、大切な使節なのでくれぐれも無礼がないようにという……つまり、誰が乗っているのかなど、余計な詮索をするな、といった類のことが書かれていた。

 となればまず間違いなく、あの馬車には逃してはまずい人物が乗っているはずだ。


 赤い旗の馬車は驚いたことに、ベルテセーヌの関門でろくに審査を受けることもなく、それどころかろくに馬車を止めることすらされずに入門した。次いで両国の間の調整区域を通り抜けた馬車が、フォンクラーク側の関門に至る。

 調整区域は中立区域で有り、この空間で攻撃をすることは許されない。そんな場所へ馬車が入って行った所で、ベルテセーヌ側の領地にけたましい竜の足音と物々しい土埃が見えた。どうやらベルテセーヌの国王軍が、この赤い旗の馬車を追いかけてここまで追いついてきたらしい。

 馬車が門をくぐるところを目の当たりにして、先頭を走っていた騎士が大慌てで駆けつけてきて「その馬車、待った!」と声をかけたが、遅すぎた。

 どうやらベルテセーヌ側の関はヴィオレット派が抑えていたようで、彼らは馬車を無断で通したばかりか、騎士達を止めようとわっと飛び出していったのだ。そのため騎士達も門に到達する前に足踏みし、引き返して戦線を整える羽目になったようである。


 そんな様子に横目に、中立区域に入ってきた赤い旗の馬車の御者がほっと息を吐くのが見えた。だが安心なんてさせようものか。

 思わず高まった緊張感の中、バルティーニュ公に一応と言われて渡された厚めの布で髪と面を覆い関門に向かうと、ちょうどフォンクラーク側の関に到達した馬車から侍従が下りてきて、通行証と、正式な国の使節などが持つ証明書の提出をしていた。そのまま慣例通りに貴賓用の入国審査場へ誘導されてゆく。

 何てことないふりをしたバルティーニュ公旗下の兵が、関所の番兵を装いながら、指定の場所に入った赤い馬車に近づいて行くのをすぐ傍の番所の窓影に潜んで窺う。


「何やら追われておいででしたが、大丈夫ですか?」

「駆け込むような形となりましてすみません。提出した書類の通り、こちらはクロイツェン皇国の正式な使節の馬車でございます。ベルテセーヌ国王陛下に面会し帰国する途中ですが、お気に(さわ)る事でもあったのか、あのように追われてしまい困っておりました」


 そんなことを言いながら汗を拭って見せる御者に関守からの不審そうな視線が投げかけられると、すぐにもガチャリと後ろの扉が開いて見慣れた男が顔を出した。


「ッ……」


 その顔に思わず布の下で息をひっつめさせると、気が付いたらしいバルティーニュ公が振り返った。


「公女、見知った顔か?」

「ええ。先だってベルテセーヌ王に謁見した皇国皇太子側近のヴェラー卿ですわ。謁見の間から上手く追っている夫人が消えたので彼が手を貸したのではとは疑っていましたが」


 ベルテセーヌからクロイツェンに帰るのであれば、リディアーヌが通った道のように王都から東に向かい、エレムスを経由してリンテンかフォンクラークの北の港から船で出立するのが普通だ。なのにエレムスではなくそのままベルテセーヌ国内を南下してこのフォンクラークの南の関を利用したというのは実に怪しい。

 フォンクラークの北の関はベルテセーヌ側の守りが固く、エレムスであればリディアーヌがそちらに向かったという情報を得ていたはず。エレムスとの国境も審査が厳しいことを思えば、元々癒着のあるこの南の関所を選んだとしても不思議はない。

 だがまさか本当に、クロイツェンという他国の使者が堂々とベルテセーヌを横断するなど……下手をすれば国同士の懸念案件にもなる危険な行為だ。


「ご苦労様です。何やら関所の様子が少々物々しいですが、こちらでも何かありましたか?」

「ええ。何分、ベルテセーヌ側で内乱戦があったなどと聞こえておりますから、さすがに警戒を。皆様は巻き込まれなかったようで何よりです」


 受け取った書類を確認して部下に判を持ってくるようになどそれらしい指示を出しながら対処する兵に、「あぁ、そうらしいですね。我々は幸い巻き込まれず」なんて白々しいこと言っているヴェラー卿が、チラリと不審そうにあたりを見回した。

 ヴェラー卿にとっては、こちらはクロイツェンと(よしみ)を通じている場所という認識なはずだ。なのに審査がもたもたとしていることが不審なのだろう。周囲の騎士達もやや警戒気味だ。


「私の主から、国王陛下にご連絡が入っているはずなのですが……」

「ええ、聞いております。丁重に迎え入れ、王都まで護衛をするようにと」


 そうにこやかに答えた兵にほっとヴェラー卿が安堵の顔を見せた。


「そうですか。陛下をお待たせするわけには参りませんから、是非すぐに……」


 そうヴェラー卿が促そうとした瞬間、バルティーニュ公がくいと動かした腕に合わせて潜んでいた兵が一気に物陰を飛び出し、馬車を取り囲んだ。

 途端、ビクリと驚いたヴェラー卿が目を見張り、騎士達が剣を抜いて警戒する。だがたったの五人そこらの警戒でどうにかできる数ではないのは一目瞭然である。


「っ、これは一体、何の真似でしょうか。このような真似は、帝国法に反して……」

「帝国法か。なるほど、詳しく聞きたいところだ」


 リディアーヌには後ろにいるようにと合図をしたバルティーニュ公が扉を出て姿を見せたところで、誰とは知らずともその赤いマントを見たヴェラー卿がぎゅっと眉をしかめ、恭しく腰を折ってみせた。


「ナイブス、書類は?」

「はっ、こちらに。皇国の許可証とベルテセーヌへの入国証が確かにございます」

「本物の使節か」

「お疑いになられては困ります。先程名乗りました通り、我々はクロイツェン皇国からの正式な使節です。このように囲まれる謂れは……」

「これは失礼した。だが生憎と、貴殿が用いたこちらの通行証に少々問題があってな」

「は……?」


 チラと見上げたヴェラー卿は、兵の渡したこの南の関所の特別通行許可証をひらひらと振るバルティーニュ公を窺ったが、公爵の険しい視線に何を思ったのか、すぐに顔を引き攣らせながら深く頭を下げなおした。


「それが、何かございましたでしょうか。以前、こちらの者の一人が関の代官殿よりいただいたもので、こちらが有れば審査なく通行できると伺っていたはずなのですが」

「その代官はつい先日、違法生物の密売と民のかどわかし、また貴人に害を成したことなどの罪で投獄された」

「……それはなんと。そのようなことがあったとは存じませんでした。ですが我々はその件とは何ら関係もなく」


 顔を上げてヘラリと笑って見せたヴェラー卿は、しかしバルティーニュ公の後ろで面を覆ってじぃっとこちらを見ているリディアーヌに気が付いたらしく、一度(いぶか)し気に眉をしかめると、ほどなく目を見開いて言葉を失った。

 目元しか見えていないはずだが、どうやら気が付いたらしい。さすがに、カレッジでよく見かけていた顔馴染みだ。


「一体……どうして……貴女が」

「ごきげんよう、ヴェラー卿。相変わらずおかしなところで会いますわね」

「公女、殿下……」


 本当に、良く気が付いたものだと思いつつ(めん)(しゃ)を下ろすと、どうやら護衛の騎士にもリディアーヌを見知っていた人がいたらしい。ぎょっと驚いて手にする剣の行方を躊躇っている様子がみえた。


「私より先に出立されたものと思っていましたわ。なのにこんなところで再会するとは。実に不思議ですこと」

「……ええ、不思議でございますね。とても」


 チラリと後ろの馬車を見やったヴェラー卿は、恐らくすぐに頭の中で今後の益と不益を計算したのだろう。だが満足いく答えが出せなかったのか、苦虫を噛み潰したような顔でたじたじと口ごもった。

 ヴェラー卿が紛れもないアルトゥールの忠実な臣下であったならば、迷いなくあそこにいるであろうブランディーヌを差し出し、自分達は何事もなかったかのように帰国しただろう。だがそうではないのはヴェラー卿がアルトゥールとヴィオレットとを天秤にかけたせいだ。

 思った通り、ヴェラー卿はかなりヴィオレットに傾倒しているのではあるまいか。


「とてもがっかりしたわ、ヴェラー卿。貴方はトゥーリをよく補佐してくれる、優秀な侍従だと思っていたのだけれど」

「……いかに公女殿下とはいえ、そのような誹謗は聞き捨てなりません」

「違うと言えるのかしら?」


 ぐっと言葉につまったヴェラー卿が身動き取れずにいるのを見ると、さっとバルティーニュ公が兵達を促し馬車に向かわせた。咄嗟に周りの騎士達がそれに剣を向け阻もうとしたけれど、「邪魔しないでいただける?」というリディアーヌの言葉にビクリと(すく)んだ。


「……公女殿下。この馬車は、赤い旗を立てた正式な国の使者の馬車でございます。帝国法のもと、このような脅しを受けるのは……」

「帝国法において、国の使節は務め以外の()()に関与されずに国境を行き来することが認められているわ。でも些事に関与されない代わりに、些事に関与してはならないのもまた、使節の規定だったはず。国が“手配”している人間をその使節が(かくま)って連れ出そうなんてことがあれば、処分の対象になるのではなくて?」

「公女殿下っ、この件は公女殿下とはご関係がないはずですッ。私はただ我が主の命を受けてっ」

「つまりそこに乗っていらっしゃる方を逃がすよう、アルトゥール殿下が命じたと?」

「っっ……」


 自分の失言に気が付いたのだろう。そこでクロイツェンの皇太子が加担したなど口にできるはずがない。どうやらその程度の忠誠心は残っていてくれたらしい。それを察したところで、剣を持つ騎士達を()(やす)く腕で退けたこちらの兵達がバンッと馬車の扉を開いた。

 中を見て、振り返った一人がこくりと頷く。


「隠れていないで、どうぞ下りてくださいませ。ブランディーヌ夫人」


 呼びかけた声に馬車の外の兵が一歩下がったので、どうやら大人しく動いてくださったのだろう。ほどなく、逃亡中とは思えないきちんとしたドレスを纏った貴婦人がバサリと扇を広げながら降りてきた。

 こんな場所で追い詰められていてなお余裕の顔をして見せるのだから、さすがと言うべきか。

 だが残念ながら、すでに退路はない。


「まったく……どこまでも忌まわしいこと。あの日アグレッサが貴女を仕損じたことを、心の底から恨みますわ」

「私も、いらぬ悪友の横槍のせいでこんなところまで貴女を追いかけてこなければならなくなってしまったことを心から恨んでいますわよ。もっとも、そのおかげでこの関所にとっては良いことになったようですけれど」


 ブランディーヌの視線がチラリとリディアーヌの隣を見て、ぎゅっと歪められた。


「殿方を(たぶら)かすのがお得意なのは誰譲りかしら?」

「夫人、精々お言葉にお気を付けになって。こちらは(おう)(しゅく)バルティーニュ公爵殿下です」


 その言葉にびくりと大げさに反応したのはヴェラー卿の方だった。

 仮にもアルトゥールの側近だ。フォンクラークの王位をめぐる暗雲を知らないはずはなく、いわゆる反国王派の第一王位継承者を前に、現国王の後ろ盾という言葉がなんら役に立たないことを察したのだろう。


「公女、彼女がオリオール侯爵夫人で間違いないだろうか?」

「ええ、間違いございません」

「では夫人。ベルテセーヌからの正式な要請に基づき、貴殿の入国は断らせていただく。それからヴェラー卿と言ったか。貴殿には、ここの代官が不当に発行していた通行証の譲渡先に数多のクロイツェン人の名が挙がっている点について少々お伺いしたいことがある。危害を加えるつもりはないので、大人しく聴取に応じていただければ幸いだ」

「……」


 ヴェラー卿は一度チラリとブランディーヌ夫人を窺ったが、しかしほどなく仕方なさそうに息を吐いて、「かしこまりました」と頷いた。


「ですがバルティーニュ公爵殿下、ご忠告をいたします。こちらはクロイツェン皇国皇太子妃ヴィオレット殿下のご生母に有らせられます。危害を加えられるようなこと、ましてや(いわ)れもなく夫人を目の敵と追っておられる者に不当に引き渡すような愚行を、聡明と聞こえる殿下がお選びにならないよう、憂慮をお伝えさせていただきます」


 リディアーヌではなく、アルトゥールを選べ、と。そう言っているのだろう。

 正直リディアーヌがバルティーニュ公なら、遠い選帝侯家の公女や元々不仲となっているベルテセーヌよりも、交易が盛んで皇帝の覚えもめでたいクロイツェン側の心証を良くする道を選ぶかもしれない。なのでヴェラー卿の言葉は中々に懸念すべき言葉だったのだが、そんな懸念に不安になるよりも早く、「はっ!」と鼻で笑ったバルティーニュ公の様子に救われた。


「なるほど、それが皇国の皇太子殿下のやり方か。相分かった。覚えておこう」

「っ……」

「皇帝陛下のかけた規制により経済的な打撃を受ける我が国に新たな商会との取引をもたらし、その上国王派の腐敗を(きゅう)(だん)する手土産まで用意しておいでになった公女殿下とは大違いだな。公女殿下の友人と聞いたが、本当に?」

「ええ、優秀な方ですわよ。ただ今回の件は、国王派と(よしみ)を通ずるブランディーヌ夫人を庇おうなど、愚かなことを致しましたわね。さしずめ、主よりも妃に心酔する側近を(うと)んじ遠くにやろうとたら、そのまま飼い犬に手を噛まれてしまったといったところでしょう」

「今後の皇太子殿下の出方をどう見る?」

「そもそも夫人を庇うのは妃殿下のご要望でしょう? 皇太子殿下としてはさして重要な相手でもなし。どうぞヴェラー卿を使者に、清算してしまわれれば宜しいかと。おそらくトゥーリは迷いもせず、二つ返事で了承すると思いますわよ。ついでに私が殿下に付いたと知れば、国王派とはすぐにも手を切ってくださいますわ」


 ヴェラー卿が何かを言いたそうに一瞬身じろいだが、すぐにぐっと口を引き結んで黙り込んだ。彼にも、淡々とそう決断する主の姿が見えたのだろう。


「なるほど。随分と皇太子の信頼を得ているようだ」

「お互いに、お互いを敵とするのがどれほど厄介なのかを存じているだけです」

「私も心得ておこう」


 これから玉座を取る者として告げたバルティーニュ公に一つ微笑んで見せたところで、自分の護衛騎士を呼び、ヴァレンティンの騎士達にブランディーヌを拘束させる。

 ブランディーヌは「無礼なっ。お放しなさい!」と掴まれた腕をほどこうとしたようだが、この状況で逃げ切れないことは分かっているのだろう。忌々し気に苛烈な炎をはらんだ視線でリディアーヌを睨みつけてきたけれど、すでにそれは負け犬が唸っているにも等しい程度のものだった。


「覚えていなさいッ。この辱めはきっとっ……」

「残念だけれど、きっと私はすぐに忘れてしまうわ。貴女にはもう仕返しをする機会なんてないのだから」

「っ……」


 冷ややかに「獄へ」と促したリディアーヌの言葉に、それ以上ブランディーヌが恨みの言葉も呪いの言葉も吐くことはなかった。ただ一言だけ。「呪ってあげるわ」と呟いた言葉には、クスクスとその無意味な負け台詞を笑い捨ててあげた。

 言われずとも。私はもうはるか昔から、貴女に呪われている。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ