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4-33 真の聖典(2)

『遅い』

『遅いではないか』

『待ちくたびれたわ』

『何をとろとろしておったのか』


「……」


『おい、聞いているのか?』

『ふんっ、我々の偉大さにびびっておるのか?』

『なんぞ、可愛らしいではないか』

『可愛らしいか?』

『可愛らしいぞ』

『よい。その調子でもっと我々を()()し、(あが)めよ』


「……」

「……」


 うん。神様達は、神様達だった。一気に気が抜けた。


「はぁ、なんてこと……まさか“鍵の使い方”を間違えていただけだなんて……」

「歴代の聖女様は皆、王女様ですもんね」

「ベルテセーヌ王室では今後、王家の子供にもきちんと鍵の使い方を教えるよう言い伝えさせないと駄目ね」

「むしろ王女様であっても鍵の管理くらい自分で出来るよう教育するべきなのでは?」

「アンジェリカ……今日は随分と強気ね」

「えっ」


 突如として謙虚さを思い出したように固まったアンジェリカに、ふっと苦笑を浮かべる。

 なんだかんだ言って、こんな状況に一人でいたら混乱してぶっ倒れていたかもしれない。やはりアンジェリカを連れてきて正解だった。


 はぁ……しかしこの状況は、どう捉えたらいいものか。

 聖典の原典というくらいだから、何かそういう本が出て来るのかと思っていたが、これは違う。壁を埋め尽くした白い光に手を触れると、そこに書かれている一文がぼんやりと浮かび上がる。この光全てがかつて神々がもたらした言葉のすべてであり、記録なのだ。

 そう、記録……ただの、記録。


 『長く待った』

  『何故開かぬ』

『何故伝えぬ』

   『何故知らぬ』

 『せめて我等が答え得ることを聞け』


 おぉぉぉぉ……過去のお叱りの数々がそのまま聖典に記録されているではないか……。


『何を遊んでおる』

『当代の聖女のなんと暢気なことか』

『聖女リディアーヌは悠長である』


「っっ、やめてくださいッ、不用意な言葉を残さないでッ。そこっ、個人名を出さないでくださいッ」


 未来に良からぬ言い伝えが残ってしまう!

 あぁ、いつしか聖女達が聖典を開く術を“忘れた”理由が(かい)()見えるぞ。


『して、愛し子よ。此度は何を問う』

『問え。さすれば答えん』


 こんな所だけはちゃんと神様っぽい。


「はぁ。こんな状況で冷静に聞かないで欲しいんですが……でも問いをしに参ったのはその通りです。前回は立ち切れになってしまいましたから、その続きをお伺いしに参りました。“落ち星”が何なのか。ヴィオレットが何を知り、何を知らないのか」


『落ち星の事ならそれ。そこらにある』

『探せ』

『探せばよい』

「……」


 なんだと? まさかこの部屋中にちりばめられた言葉の中から探せと?!


「……アンジェリカ、手分けするわよ。貴方にも神々の言葉は見えているわよね?」

「にじんでいて私には少し見辛いんですが……リディアーヌ様、まさかこの部屋中を埋め尽くしている文字の中から探すつもりなんですか?」


 ええ、私も無謀だと思うわよ。でも神様達に逆らえるほど、信心無くは無いのよ。

 そう仕方なしに一番近い辺りの壁に触れたら、どうしたことか、『星とは――』と始まるかつての神様の言葉であろうものが浮かび上がったものだから驚嘆した。

 神様方……面倒を掛けさせやがってとか思ってごめんなさい。ちゃんと、欲しい箇所がうかびあがる親切設計だっただなんて!


「見つかりましたね」

「……見つかったけれど。なんだか釈然としないわ」


 そう言いながらも、光った文言をすうっと虚空に抜き出してゆく。随分と長い文章だ。

 その長い文章はくるくるとリディアーヌとアンジェリカの周りを囲むように広がった。幻想的だが、少し読み辛い。くるくると回りながら読まねばならないので目が回りそうだ。手で回せないか……あぁ、回せる。やっぱりここも意外と親切設計だ。手で“スクロール”しながら読めば、ぐるぐる回らなくていい。


「えっと……大まかには、以前掻い摘んで聞いた通りね。相変わらず何がどうなっているのかはよく分からないけれど……」


 “星”とは、人の根源のような物のようだ。通常は次元を超えることはなく、めくるめく命として生まれ変わるが、時折次元を超えて流れてしまう星がある。しかしその大半は生まれ変わる場所を持たないため、根源を摩耗させてゆき、やがては消滅する。つまり、世界を越えて流れた星は、ただ落ちて消えてしまう存在なのだ。

 だがごくごく稀に、消えずに留まる事が有る。それは地上ではなく、神々の住まう次元に落ちてしまった星であり、神々はそんな類稀な運命をたどった者に“恩寵”という名の容れ物を与えて、地上に導くのだそうだ。


「それが、星の子――ベザ」


 さっと周囲を覆っていた文字を散らすと、次の文字を引き抜く。

 星の子ベザは、この世界の主神が最後に恩寵を与えた子であった。

 これより前、人は神々と人の子である愛し子を介して神々の意を伝えたが、次第に人は神の声を聞かず争いを繰り返すようになったため、神々は人から愛し子を取り上げた。それにより地は荒れ世界は暗闇に閉ざされたが、それを憐れんだ主神は神々の世界に流れてきた流れ星ベザに愛し子を与え、地上にもたらした。それが、今のグラン・ベザ帝国の創始であると。


「……神々と人の子である……愛し子。ベルベット・ブラウ妃かしら」

「初代皇后陛下ですか?」

「私達人の歴史書でも、ブラウ妃ははるか昔に栄えた神聖帝国の末裔として描かれているわ」


 神々と人の子、という言葉の具体的な意味は分からないが、少なくとも神聖帝国時代には、今の聖女に該当する者がもっと公的な存在として有ったのだ。神々はそれを一度取り上げたが、ベザに託し、聖女は再び地上に現れた。


「ブラウ妃は再び人の世が神々の声を聞き届ける国となることを誓い、代わりに歴代の王に神々の恩寵を戴くことを誓約したというわ。ベルテセーヌの王位を告げる風習は、こうして生まれたのね」

「グラン・ベザの皇帝を、ではなく、どうしてベルテセーヌの王なんでしょう」


 それは帝国の歴史上、そもそもはベルテセーヌ王がベザの皇帝と同義だったからではと思う。だが、帝国制が確立してからも変わらず皇帝ではなくベルテセーヌ王を告げ続けたのは何故なのだろうか? 何故、聖女はベルテセーヌにしか現れないのだろうか?

 頭の片隅でぼんやりと違うことを考えながら、手元の聖典をスクロールしてゆく。長い文章だから、読むのが大変だ。しかしやがて見つけた一文に、ふっと顔を上げて目を瞬かせた。


「もしかして、ベルテセーヌだけなのかしら」

「え?」

「聖女の生まれる家系が、ベルテセーヌしか存在しないのではなくて?」

「えーっと……七王家はすべてその直系なのですよね?」

「ええ。でもその血は薄れて、濃いままに直系血脈を受け継いでいるのはベルテセーヌ、フォンクラーク、セトーナの三国だけ。でもこの三国は……ヴァレンティンの血を受け継いでいない」

「へっ?!」


 アンジェリカの驚嘆も無理はない。我ながら、いくら考えながら喋っているとはいえ、言い方が不味かったことについてはすぐに反省した。

 突然出てきたヴァレンティンの名に、リディアーヌがヴァレンティン贔屓をして、『うちと親戚じゃないんだから当然じゃない』だなんて頭の悪いことを言っているとは思われたくないので、すぐに「身贔屓な話ではなくて」と付け加えた。


「アンジェリカ、この部分は読める?」


 目の前の聖典の小さな文字を指さしたところで、ぎゅっと目を細めたアンジェリカが必死に文字を読む。リディアーヌの目にはくっきりと見えるのだが、どうやらアンジェリカには別のように見えているらしい。


「えっと……聖女、ベルベット……ブ……いや。ヴァ、ロア? ん? ベルベット・ヴァロア? え、えーっと……? 聖女は、ベルベット・“ブラウ”妃ですよね?」


 その通りだ。それについては間違いない。

 だがどうしたことか。くるりと回って見やった聖典の中には、“ベルベット・ブラウ”と“ベルベット・ヴァロア”の二つの名がある。そしてベルベット・ヴァロア……“ヴァロア”と呼ばれる人物のことを、リディアーヌは知っている。


「聖女の聖痕は、遺伝する」

「はい」

「ただ必ず直系で遺伝するわけではなくて、ベルテセーヌ王室の近親の間で遺伝するわ。私の先代は母方の曾祖母。つまりクリストフ一世正妃レティシーヌ王妃の母で、五代前の国王シャルル二世の娘よ。シャルル二世にはこの聖女一人しか子がいなかったから、弟のクリスティアン一世が跡を継いだ。今の王統はこのクリスティアンの王統ね」

「う、うーん……習ったような、習わなかったような……」

「そのもうひとつ前の聖女は、先代聖女の母の姉、つまり伯母にあたるわ。シャルル二世にとっては父親の従妹であり、妻の姉よ。そしてこの先々代聖女と先代聖女の母という姉妹は、母親がヴァレンティン家の出身なのよ。どうりで。だから、私だったのね」

「はぁ……つまり?」

「アンジェリカは、セザールに同母の妹がいたことを、知っている?」

「えっ? いえ、初耳です!」

「生まれてすぐに亡くなったのだけれど。私より二歳年上で、前年に先代の聖女が亡くなっていたから、先々代聖女の血を引くメディナ妃の生んだ王家の娘ということで聖女であることが期待されていたそうよ。でも聖痕は無く、二年遅れて生まれた私に聖痕が現れた。私も曾祖母が聖女だから家系として有り得なくはないし、現職の国王の娘だから当然だ、などと言われていたようだけれど……」


 でももしかしたらそれは、違うのかもしれない。


「でもそれは多分、私の母がヴァレンティンの公女だったからなのだわ。つまり、私は父方のクリスティアン一世の系譜から聖女の遺伝を引き継いだわけじゃない。母方のヴァレンティン家の血から受け継いだ」

「んんッ? 待ってください。でも聖女はベルテセーヌの王女に遺伝するんですよね?」

「そうなのだけれど。その前に、アンジェリカ、ご存じ? 七王家は初代皇帝陛下の子供達。五選帝侯家は、兄弟達から生まれた家系だって」

「勿論です。学校でもそれは学びました。ベルテセーヌの初代の王様は皇帝陛下の嫡男であり跡継ぎで、ベルテセーヌの国王こそが初代皇帝陛下の正統な直系だと」


 さすがはベルテセーヌらしい、ベルテセーヌ至上主義ともいうべき教育内容である。だが大きくは間違っていない。ベザの嫡男の家系であるベルテセーヌにとってみれば、他の王家は傍系といえる。だがその傍系との親族間で王位争いが激化していったために、選挙により王の中から皇帝を選出する今の体制へと移行していったのだ。そしてその時、皇帝を選ぶための公平な手段として生まれたのが五選帝侯家だ。


「五選帝侯家の内、教会世襲のドレンツィンを除いて、ダグナブリクとザクセオンは初代皇帝陛下の兄と弟の家系から。ヘイツブルグはブラウ妃の兄、ヴァレンティンはブラウ妃の弟の家系から派生した家柄よ」

「そうなんですか? えっと……でもだったらベルテセーヌはともかく、ヴァレンティンは別に皇帝ベザやブラウ妃の血を引く直系というわけではないですよね?」

「まぁ、厳密に言えば七王家五選帝侯家はどれも婚姻で両陛下の血縁が入っているのだけれど。ヴァレンティン家の初代は、ブラウ妃の弟とブラウ妃の娘との間に生まれた娘に当たるわ」

「あ、血、引いてますね。しっかりと。というか……え? 叔父と、姪?」

「帝国初期時代までは近親婚は珍しくなかったのよ。今は禁止されているけど。それよりも気になるのは、この“ブラウ妃の娘と弟の間に生まれた娘”よ」


 ピンとこないのか、アンジェリカは首を傾げている。そうだろう。リディアーヌとて、大してそれを意識したことはなかった。だがもしかするとこれは重要なことかもしれない。


「私達ヴァレンティン家の言い伝えでは、ヴァレンティン家の祖である初代大公の名は、“ヴァロア・ド・ヴァレンティン”と言い伝わっているわ。七王家五選帝侯家で唯一、女性を初代当主とする家門よ」

「ヴァロア……って。え? ヴァロア?」


 再びぱっと聖典を見やったアンジェリカに、リディアーヌも頷いた。


「ベルベット・ブラウのベルベットは、名前なのだと思っていたわ。でも違うのね。“ベルベット家”のブラウ……そしてヴァレンティンの祖となったブラウ妃の孫娘であり姪である大公が、ベルベット・ヴァロア。この聖典に、“聖女”として書かれているこの人だわ」


 思わず、この教会の聖堂に掲げられた聖女のステンドグラスを思い出した。

 穏やかな面差しで天に祈る、どこかベルベット・ブラウ妃とは面差しの違った聖女の肖像。あぁ……なるほど。あれはブラウ妃じゃない。このヴァレンティンの祖であり二代目の聖女であったベルベット・ヴァロア――その人なのだ。ヴァレンティンの教会はそれをちゃんと伝えていたのに、どうして忘れてしまっていたのか。


 帝国初期時代は、まだ安寧と言い難かった時代だからなのか、散逸した史料が多い。実は“二代目聖女”もその一つで、ベルテセーヌの聖女書庫にも、初代聖女の“孫”という記録があるだけで、具体的にどういう系譜の聖女であったのかは書き残されていなかった。

 だがそれが史料の散逸ではなく、後世、そうであっては困ると思った誰かの意図的な行為だったとしたらどうだろうか。

 そう……当時では不思議ではなく、しかし後世の聖女達からしてみれば不思議な、正統性に関する真実。二代目の聖女が、“ヴァレンティン家の初代当主であった”という、事実があったのだとしたら――。

 ヴァレンティン家は基本的にどの時代の歴史でもベルテセーヌと近しい関係だが、時代によってはベルテセーヌ以外の王室から皇帝を推挙し後見していた時代もある。歴代の聖女達の中に、それでは“困る”人がいたのかもしれない。


「聖痕は女子にしか受け継がれないのだから、聖女の血も女子の方が色濃く受け継いでいる可能性は高いわよね? ブラウ妃の子は王子が三人と王女が一人。ブラウ妃の聖女としての血が兄達ではなく末の姫に最も濃く受け継がれていたとしても不思議ではないわ。それに、元々この“ベルベット家”というのが聖女の家系なのでしょう? 聖女の弟というベルベット家の血を受け継いでいた人物と、聖女ブラウの血を引いた女子との間の娘……それが聖女であっても、何ら不思議ではないわ」

「そういえば神様達、一度も“聖女ブラウ”と言った事が有りません。神様たちにとっては、ベルベット家というのが聖女の家系なんでしょうか」


 いい所に気が付いた。その通りだ。神々はいつも、“聖女ベルベット”、“愛し子ベルベット”と言っていた。ブラウのことも、ヴァロアのことも、等しく“聖女ベルベット”なのだ。


「実際、ヴァレンティンは女子の家督継承も多いのよね」

「女子に、聖女の血が濃く受け継がれるから……?」

「完全に女系というわけではないけれど。でも帝国初期時代、ベルテセーヌ王がベザの他の傍系達と血脈を強めたのに対して、ヴァレンティンが親族間での婚姻を多くしてきたのも確かだわ」


 ブラウ妃が息子達をベザの親族と婚姻させたのに、娘だけは自分の弟に嫁がせたというのも不思議なことだ。きっとブラウ妃は、聖女の血筋をベルベット家に受け継がせるために、そんなことをしたのだろう。

 ヴァレンティンが他の国に比べてブラウ妃に対する崇敬が篤いのは、象徴花でもあったベルブラウの花が名産だからかと思っていたが、もしかしたらもっと深い理由もあったのかもしれない。それこそ、ヴァレンティンこそが“ベルベット”であるとでもいうような。


「でも、だったら今はどうして聖女がベルテセーヌに現れるのでしょう? そのお話だと、聖女はヴァレンティン家に現れるはずですよね?」

「ベルテセーヌとヴァレンティンがはっきり分かたれていなかった帝国初期時代はそうだったでしょうね。でもこの聖典の言葉を見ていて思ったの。ブラウ妃はベザに聖女の恩寵を与えたから、聖女は聖女の家系ではなく、“ベザの子孫”に現れる。そういえばはじめにリンテンで神問を行った時も、ベザの子であることが強調されていた気がするのよね」

「つまり聖女は、皇帝ベザの流れを汲むベルテセーヌ王の血筋で、かつベルベット家の流れを汲むヴァレンティンの血筋、両方を持っている人が選ばれる?」

「ブラウ妃がそう神々と誓約したからね。ベザの子孫の中で、最もベルベット家の血筋が濃い女子が選ばれる」


 確証はない。でも、有り得るかもしれない。マクシミリアンも言っていた。ベルテセーヌとヴァレンティンの関係は、彼らが驚くほどに“濃い”のだと。言われてみればその通りだ。

 それは皇帝戦のせいだと思っていたが、もしかすると、ベルテセーヌ王室は前例的に、ヴァレンティン家の血を交えた子に聖女が生まれやすいことを知っていたのではなかろうか。

 もしもそうなら、同じクリストフ一世の孫なのに、ヴィオレットが神々から“遠い”と言われた理由が分かる。アンジェリカも同じ“遠い”存在なのに使徒となった点は気にかかるが、そこは神々の言う、相性などもあるのだろうか。


「アンジェリカ、貴女の母方に北方の生まれの方はいない?」

「いますよ。というか、曾祖母がヴァレンティンの生まれです」


 なんですって。


「貴女……はぁぁ。なんですって?」

「私もよく知りませんが、曾祖母の父はヴァレンティンの没落貴族で、隣のバルア自治国の商人でした。曾祖母はその仕事の縁でベルテセーヌのヴィヨー騎士爵と知り合い、嫁いできたそうです。昔祖母が、世が世なれば自分だってちゃんとした貴族令嬢だった、みたいなことを言っていたのを聞いた事があります」

「詳しく調べればその頃に没落した家門も分かるでしょうけれど……」

「気にはなりますが、でも悪い話が出てきても困りますから、今まで口にはしないようにしていたんです。でもリディアーヌ様の話を聞くと、もしかしてうちの曾祖母の家系に、ヴァレンティン家の血がちょっとでも入っている可能性、あるのかな、って」

「あるのでしょうね。直系でそういう話は聞かないけれど、傍系までは私も存じていないもの」


 でも何やら、これまでの思いつくがままに口にした言葉に妙な裏打ちがなされた気分だ。

 あぁ。今まで、どうして自分が聖女なんてものなのかと思い悩んだこともあったが……そうか。母の、このヴァレンティンの血が、私に流れているからなのか。

 なんだろう。不思議と……悪い気がしない。私はこの国の異物……よそからやって来た存在なんかじゃない。ちゃんと、“ヴァレンティンの公女”なのだ。


『話は済んだか』

『聖女は使徒とばかり話す』

『何故我等がおるのに我等の使徒とばかり話すのか』

『けしからん』

『けしからんな』


「ッ、忘れていませんからっ。これ以上、不名誉な言葉を聖典に残さないでくださいッ」


 否。実は神々の存在を半分くらい忘れていた。

 ごほんごほんっ。






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