プロローグ
(ああ……これ死んだな……)
川沿いの道を通りふと横を見ると坂道からベビーカーが突っ込んで来ており世界がスローモーションになり、躱そうにも身体が動かず小石に車輪が当たった事で軌道が変わり、俺の眉間にベビーカーの角が直撃し意識を失った。
「ん……あれ……?」
目を覚ますと辺り一面真っ白な空間が広がり、眼の前には神々しい光に包まれた翼の生えた金髪の女性に見下されていた。
(あー思い出した、前に死んだ時もこんなだったな。)
ボーと女神の姿を見ていると前回、前々回には老人の姿をした神様に日本に何度も生まれ変わらせてもらっていたのが思考の片隅にあり今回は老人の神様の姿が見えないことに違和感を覚える。
「白波幸一よ、既にお気付きかもしれませんが貴方はベビーカーに轢かれ亡くなりました。」
「知ってる、ところで何時もの爺さんは何処?」
「“地球の神”でしたら何度も死を繰り返す貴方を地球に転生させるべきでは無いと判断し、なるべく“地球に近い文化”を持つ私の管理する世界“ユースティリア”への転生させる判断をされました。」
「え、それって異世界召喚ってこと?」
「ええ、そうなります現在“カーレッジ王国”にて“勇者召喚の儀”を執り行う準備をされています。」
「……は?」
「驚かれるのも無理はありません、白波幸一よ貴方は地球での転生回数を使い切り本来ならば魂が消滅していてもおかしくない状況でした。」
「つまり、その消滅しない代わりに勇者召喚して異世界を救えってことか?」
「フッフッフ、その通り! さあ魂の恩人である“女神ユースティリア”を称えなさい!!」
「ふ……」
「ふ?」
「ふっざけんじゃねえテメエ!! 何が異世界召喚だ、あんのジジイ要は匙投げやがったな!?」
「え? え??」
女神ユースティリアは激昂する俺を見て困惑する。
「勇者召喚なんて真っ平ゴメンだ! 悪いが他当たってくれ、俺はもうこれ以上不運に見舞われたく無えんだ!!」
「こ、困ります! 他に代役が居ないのですよ!!」
「知るか! んなこと!!」
勇者召喚を断る俺の肩をガシッと掴み女神ユースティリアは揺さぶりながら転生条件を下す。
「そそそ、そんなこと言わないでよ! そんなに不運なら私の世界で困らない様に“全てのスキル”を与えてあげるから!!」
「全てのスキルだあ?」
「なんなら身体強化だってするから! もう時間が無いのよ!! 儀式始まってるからお願い何でもするから!!」
「はぁ、分かった……ただし俺の不運が勝ったら勇者としての使命は放棄させてもらうからな?」
(わんちゃん、スキルで不運じゃなくなるかもしれないし。)
「こほん……、では“全てのスキル”を授けるわ。 女神ユースティリアの名の下に勇者へ全てのスキルを与えましょう。」
女神ユースティリアは両手を掲げると淡い光が俺の全身を包み込み、全身が軽くなるのを感じた。
「なんか思ったより、早く終わった?」
「ええ、これで貴方は全てのスキルを得ました。 詳しいスキル説明は召喚後にしましょう。 それでは転生させましょう。」
俺の足元に魔法陣が浮び上がると光り輝き、眼の前が真っ白になる。
ーカーレッジ王国ー
「国王陛下、準備が整いました。」
黒いフードを深く被った人物が片膝を付き長い髭を蓄えた老人の国王へと勇者召喚の準備を終えたことを報告し屋上の開けた場所に魔法陣が描かれており、その場には四名の兵士とフードを被った召喚士と姫が緊張した面持ちで様子を伺っていた。
「では、早速始めてくれ“バルト・レーブル”よ。」
「その前に国王陛下、何が起こるか分かりません皆を離れさせていただけませんか?」
フードの召喚士は兵士や姫を魔法陣から遠ざけると意味深な笑みを浮かべるとボソボソと呪文を唱え始める。
「上手くいくと良いですが。」
「きっと上手くいく、その為に女神ユースティリア様の像に祈りを捧げてきたのだからな。」
姫は不安そうな表情で父親の国王へと語りかける。
「女神ユースティリアよ! この地に勇ましき神人を此処に顕現させよ!!」
ボシュウと魔法陣から煙が立ち昇り、その中央に俺は召喚される。
「げほげほ! 煙いな、召喚てヌルッとされるもんじゃ無いのか?」
煙が晴れ周囲を見渡すと現代日本とは違い中世ヨーロッパの様な世界観に浸る暇も無く眼の前に居るフードを被った何者かが俺に向かい勢いよく手を伸ばしていた。
「貰ったあーっ!!」
「!?」
「え!?」
「なっ!?」
「「「「何っ!?」」」」
その状況に場に居る全員が面食らい、フードの男の手が俺に触れると魂を抜き取られるかの様な感覚に陥る。
「うわああああ!!」
「ははははははは!! この時を待っていた!! これで俺様は魔王、いや神をも超える力を手に入れたのだ!!」
フードの男は俺から抜き取った黄金に輝く球体を直ぐに自身の心臓の辺りに吸収し高笑いする。
「なっ、何者じゃ貴様!? 本物のバルトはどうした?」
「はっ、人間てのは間抜けだな。 本物のバルト・レーブルなら今頃その辺で寝てるぜ?」
「まさか変身スキル!?」
「御名答、この国の姫様にしては頭が回るな。 だが気付くのが遅すぎた……なっ!」
不意にバルト・レーブルを名乗る者に対して魔弾が放たれるが難なく振り返り手の甲で軽く弾き遥か上空で爆発する。
「チッ、遅かったか……」
全身が体毛に覆われた鳥の様な頭をした人型の怪物が降り立ちフードの男を睨み付ける。
「誰かと思えば、魔王ゼギオンのご機嫌取りじゃねえか。」
「魔王様の命令だ、貴様のスキル“強奪”は脅威となるから消せとのことだ。」
「へえ、面白い! 早速貴様で試させてもらおうか、バドルーダ?」
「幾らスキルを手にしたからと言って手負いの雑魚に負けると思うかボルダリオ?」
ボルダリオと呼ばれた男はフードを脱ぎ捨てると正体を現す、その姿は先程までの身長とは違い子供くらいの背丈で全身真紅の肌をしており頭には鬼の様な角が生え、先が鋭利に尖った尻尾があった。
「な、何ということだ!? このようなことが……」
「国王陛下! 今の内に逃げましょう、此処は危険です!!」
「うむ……」
「お父様!? 勇者様を置いて逃げるつもりですか!?」
「し、仕方あるまい! 状況が状況じゃ、今は避難するのが先決じゃ!!」
「姫様、心配なのは分かります。」
「ですが、この状況で勇者様を助けるのは不可能! 分かってください!!」
「分かりました、一次避難しましょう。」
兵士達は魔法陣の上に倒れ伏せる俺を見ながら避難し、怪物どおしの戦いが始まる。
「来いよ、先に攻撃させてやろう。」
「下級魔族が良い気になるなよ? 一気に消し炭にしてやろう、“ファイヤーボール”!!」
超巨大な火の玉がボルダリオへ放たれるが片手で受け止めバドルーダへと投げ返す。
「こんなもんか? ゼギオンの側近の力ってのは大した事無いな、ほら返すよ。」
(は、早い!? 避けれん!!)
「ぐあああああ!!」
「はははは! 良い感じに焼けたじゃねえか、まさかもう終わりか?」
バドルーダは投げ返されたファイヤーボールが直撃し、瀕死の状態に追い込まれる。
「な、舐めやがって! だか、こいつは跳ね返せないぞ!! 永遠の苦しみを味わうが良い“デスループ”!!」
「芸が無いな。」
バドルーダはボルダリオへ両手を翳しドクロの形をした紫色のオーラを放つが再びボルダリオは手の甲で弾き効かないことを見せつける。
「ば、ばかな!?」
(おい待て、アレ俺のとこ来てね?)
弾かれたドクロの形をしたオーラは明らかに俺の方へと近付いて来ていた。
(待て待て待て待て! さっきので俺動けねえんだよふざけんな!!)
「ぎゃああああああああ!!」
直撃した瞬間全身に痛みが走り、心臓が何度も締め付けられるような刃物で刺される様な表現しがたい痛みを受ける。
「まさか、この俺の切り札だぞ? 魔王様に直々に教えて頂いた死と生を永遠に繰り返させるとっておきが効かないだと!? あ、有り得ん!!」
「流石に飽きて来たな、そろそろ消すか。」
「く、クソがああああ!!」
「おっと、逃がすと思うか?」
バドルーダはボルダリオを倒せないことを悟り空を飛び、撤退するがボルダリオが許す筈も無く片手で狙いを定めドス黒い魔弾を放つと姿形が消滅していく。
「ぜ、ゼギオン様ああ……!!」
「ははははは! じゃあな異世界人、最高のプレゼントをくれた礼だ殺さないでおいてやるよ。 ま、死んだ方がマシだろうがな? はははははははははは!!」
ボルダリオは飛び立ち、何処かへと去って行き俺の近くに女神ユースティリアが降り立つ。
(どどどどど、どーしよー失敗した!? マズい事になった!? まさかここまで運が悪いなんて!!)