3話
「「「…ぜぇ…はぁ…はぁ…」」」
全力で走った三人は玄関にあがってすぐ仰向けに倒れ込んだ
「…今日は…勝てたでしょ…」
口で息をしつつ、自信満々のドヤ顔を二人に向ける魄那
「…悔しいが…その通り…だ」
目に入った汗を拭いながら体を起こした蒼空
「……もぉ…二人で…競えばいいじゃん…」
このゲームを始めてから一度も勝てず、一番ぐったりしている零
なんだかんだ弱音を吐きつつ、毎回参加してしっかりついて来るところが変に真面目である
「…おい、お前ら」
上から低く響く声がかけられる
「…げ…この声は…」
かけられた声に苦い顔をした零
登校完了時刻ギリギリで校門をくぐリ、学園の廊下に大の字に寝ている三人だ。見つかれば怒られるのは目に見えている
既に蒼空は声の主に気づいていた
「…義父さん…」
蒼空の義父であるカザキだった
彼はYシャツの上にきちっとしたグレーのスーツを着ていた。彼の首にかかっているのは学園の教員証である
元々渋い顔つきをしているため、少し眉をひそめるだけで気圧されてしまう
…そう、今のように。
「…会議があったことは伝えたはずだが?」
(うわ~…先生、怒ってるぅ!)
零が顔を青くした。
カザキは三人と幼い頃から一緒に住んでいて、三人の親代わりのような人物である。
学園でだけでなくカザキが個人的に三人に稽古をつけることも少なくなかった
恐らく、今日の稽古は遅刻しかけた罰として苦しいものになるだろう
「…はぁ。蒼空、零。二人はさっさと教室に向かえ」
「はい。」「はーい!」
二人はカザキをこれ以上怒らせないためにも急いで荷物を持ち自分の学年塔に向かった
「魄那はいつものとこだ」
「は~い」
魄那は少し延びをして二人とは違う方向に向かった。霊力の研究のためである
「…今日の授業は以上です。お疲れさまでした」
「…っふ~…やっと終わった一」
教室にて、魔法科の座学授業を受け終わった零は大きく延びをした
「…零さんは宿題を提出して下さいね?」
「…やっべ」
魔法科担当の教師が笑顔で近づいてくる
「前回の分もできていますよね?」
(…?前回の分なんてあったっけ…?)
「まさか、どちらもやってない…存在すら忘れていたなんてことは、ないですよね?」
「い、嫌だなぁ先生、忘れてないですよ(めっちゃ忘れてたなぁ!)」
「なら、今!出して下さい?」
確実に詰めてくる先生と無策で対抗する零
そこに…
「…零…いるか?」
教室の入り口から蒼空(という名の救世主)が顔を覗かせていた
零はここぞとばかりに先生を置いて蒼空の元に向かった
「どーしたの蒼空?あー、そーかそーか次の授業実技科目だから迎えに来てくれたんだね!」
「…まぁ、その通りだが…」
蒼空は先生と零の様子から、零が自分を口実に先生から逃げようとしていることを察した
面倒事はごめんだと退散しようとしたが、その前に零に腕をがっちりホールドされてしまった
「え一?カザキ先生が僕のことを呼んでたって!?大変だ、急がないと!」
蒼空は何も言っていなかったが先生に聞こえるようにそう言うと、零は蒼空と強引に教室を出た
「いや~助かったよ。あのままだったら超怒られてた」
「…俺を巻き仕込むな」
廊下に出て、体育館に向かう間。二人は並んで歩いていた
「…今日の義父さんは俺たちにあたりが強い。…覚悟しておくことだ」
零がいるクラスの実技教科担任は実はカザキである。先程までカザキの助手についていた蒼空はカザキの様子を知っているのだ
「えぇ!?…やっぱ、朝遅刻しかけちゃったせい?」
「…だろうな。職員会議で上司に何か言われたらしい。…俺にもいつもより当たりが強いしな」
体育館に着き、蒼空が扉を空ける
その瞬間、体育館の中から二人めがけて木刀が飛んできた
「…ぁ」ゴッ
零の額に見事に当たり、痛みで零は転げまわった
「…っい゛ったぁぁあ゛あ゛い゛」
悶絶する零に対し、蒼空は涼しい顔で木刀を受け止めた
「…はぁ。だから言ったろ」
呆れたようにつぶやき、木刀のとんできた方を見る
体育館の内装は全体が白いコンクリートできている。魔法が発達した今、昔は成し得なかった強度を強化魔法で誇っているため、簡単には壊れない
そして、その体育館真ん中にはカザキが立っていた。仮にも教え子が死んだかもしれなかったというのに、平気な顔をして投げたものとは別の木刀を持て遊んでいた
周りには零のように不意を突かれ、ボコボコにされた生徒が倒れていて、その様子はまるで剣鬼に斬り捨てられた若武者達のようであった
彼は持っていた木刀を首にトンッと置き、重く口を開く
「…全員来たな。では授業を始める」
蒼空以外の生徒は皆倒れたままで授業が始まる
「「「………。」」」
カザキはほぼ全ての武器の使い方、武器のない状況で相手を制圧する術を生徒に教えている。
その過定で、体育館に入った瞬間に攻撃される。しかも先生の気分によって攻撃してこない日もある。上手く受けるか避けることができなければ気を失う生徒もいる
そして、今日は機嫌が悪い日であった
「…今日は俺が一人ずつ稽古をつける。一人ずつ順番で呼ぶから、待っている間は三分間で区切って生徒同士で模擬戦闘をするように。」
(ひぇ~…ワンツーマンか…)
自分がボコボコにされることが容易に想像できた零はトップバッターは避けようと逃げるように後ずさった
…が。
「最初はお前からだ、零。」
見透かしたようにカザキに呼び止められる
お前らのせいで朝からいい年して怒られた、と言わんばかりの不満の視線をチクチクと浴びせてくる
「…はい」
…これで早退することになったら宿題出さなくてすむかも。
じくじくと痛む額を押さえながら零はそんな現実逃避をした
そして、重い気持ちを隠すように小走りでカザキの方へ向かった…