4番 一歩
一歩
(キンコンカンコーン)
「珍しいな~太一寝てないの」
木元が笑いながら言う。
「何か寝れなかった……」
「珍しいな~」
「そうだな」
みんなが帰ってくのに太一は席から動かなかった。
「太一帰らないの?」
「あ~まだいる」
「そうか…んじゃ~オレ部活行くから」
木元は教室から荷物を持って出た。
「なんだよ……どうすんだよ…」
太一は悩んでいた。
野球をしたい…でも…できない…
アイツらもそうだって言ってたな…
「なんだまだ教室いたのか」
「あんた………誰?」
「担任を忘れるなよ」
「名前なんでしたっけ?」
「ったく…高田だよ」
ため息をつきながら言う。
高田は太一の近くに来た。
「お前亀谷に誘われてるだろ」
「なんで知ってるんすか?」
「なんでだろうな」
高田は笑ってごまかす。
「教えてくださいよ」
「そのうちな
ほら屋上に行かなくていいのか?
アイツら待ってるぞ?」
太一は少し黙ってから、
「オレ…アイツらのこと嫌いじゃないみたいです」
高田に挨拶して、屋上に向かった。
「またメンド~なやつが増えたな……」
高田はボソッと呟いた。
「やっぱりこないのかな…」
欄がボソッと呟く。
毅史が隣で言う。
「来るだろ……
アイツもオレたちと同じカンジがするんだ…」
欄はやっぱり毅史は不思議な人だと思った。
「ウチらなんで待ってんだっけ?」
「知らな~い」
「ボクも」
3人はボーッと話していた。
(ガチャ)
「ハァハァ…
やっぱ屋上はいいな~!!」
太一は屋上に来てすぐに叫んだ。
「太一~遅いよ!」
毅史が太一にヘッドロックをかける。
欄は笑いながら毅史を止めて、3人は待ってる理由を思い出した。
「コイツを待ってたんだ…」
3人は立って毅史たちのところに行った。
「何してるんですか?」
「歌聞かせんでしょ!」
「ちゃんとしようよ」
毅史が太一を離して座らせる。
「いいか聞いてろよ
そんで感動したら一緒にやろうぜ」
毅史は笑みを浮かべて言う。
「よし行くぞ」
欄が調律笛をふく。
「ワン
ツー
スリー」
最初は欄が一人で歌いその声を5人がサポートする。
そのハーモニーが太一の心を温める。
(なんだよ…コイツらカッコいいじゃん)
温かいハーモニーは空に響いた。
歌が終わりシーンとした空気が6人を包む。
「で…どうだった?」
「正直に言っちゃえよ」
沙也と雪に聞かれて立ち上がる太一。
「なぁ……歌と野球どっちが楽しい?」
太一が聞くと5人はニコッと笑って、
「「「「「しらない」」」」」
意外な答えが返って来た太一は、キョトンとしていた。
「だって価値観は人それぞれだし」
「どう思うかも人それぞれだし」
「決めるのは自分じゃん」
直行、沙也、雪が言った後に毅史の方を見て言う。
「「「でしょ!亀兄」」」
毅史はニッと笑って、
「そう言うことだ!!」
「決めるのは太一君だよ!」
6人は太一を見つめる。
太一は、空を見てから6人に近付いて、
「わかりましたよ!
どっちが面白いかハッキリさせるために歌いますよ!!」
そう言った太一に6人は抱き付いて来た。
「やった~!!」
「ヨロシク!!」
太一は野球やめて以来初めて心から笑った。
そうして6人のハーモニーが始まった。