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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その57 コクソウ菌

作者: 天城冴

アベノ元総理のコクソウに政治学者である母とともに参加したルリハは、友人から一通のメールを受け取った。参加者に刻まれた左手首のバーコード、それが…

“私エイカ。ねえ、大丈夫 ルリハ”

短いメールの文面をみて、ルリハは一瞬、ギクッとした。

すぐに気持ちを切り替えて返信する。

“エイカへ

平気よ、なんともない。多分、ママも

心配しないで

ルリハ”

教授の顔をチラチラみながら、机の下で急いで、スマートフォンを操作する。

長い大学の夏休みが終わってすぐの授業だ。そんなに厳しくはないだろうし、おそらく目をつけられても、学部長とかにママが相談してくれれば何とかなる。

ブルブル

返事がきたようだ。エイカも今が講義中だと知っているはずなのに、なんでこんなに頻繁にメールなんて打つんだろう、と思いつつ、液晶画面に目をやる。

“知らないの?アンタのママ、大変だよ。生番組で、例のアレになっちゃったみたいだよ。スタジオがスゴイ騒ぎで、もう、大変。って、すぐ放映中止になって変なコマーシャルばかり流してるけど。SNSとかじゃ、救急車も間に合わないとか、そもそも発症したら助からないから即終わりだろ、とか、やっぱりアレに参加したから、それも反省とかしてないエゴ忖度連中だけなるんだろとか。感染が広まる前に局ビル消毒とか、ビルがあるお台場が封鎖されたとかいろいろ言われてる”

まさか、そんな。

思わず、左手首をみる。

“kokusou―syussekisya”

ローマ字で小さく書かれた文字とその下のバーコード。

あの行事に参列して、もう何日もたつのに、まだ消えない。

厳戒態勢の中、正規の参列者と不審者を区別するための措置と聞いていたので、疑いもせずに母の後ろについて、入り口で皮膚に印字してもらったのだ。

「も、もし、本当なら」

震える声でルリハは小声でつぶやく。

でも、まだ何の兆候もない。噂のようにアノ出席者は左手首から皮膚が爛れてゆき、しまいに顔まで広がって掻きむしる。それなら、かゆくなるとかするはずだ。

幻聴が聞こえて耐えきれずに喚き散らすなら、すでに講義が受けられない状態のはずだ。教授の声も、センセーって学術学会で政府とかに抗議して、いいとこの大学辞めさせられたからウチの大学なんかにきたんでしょ、とかコソコソ話をする他の学生たちの声もちゃんと聞こえてる、何でもない。ママだって、きっと調子が悪かっただけだ、具合が悪くなったのを勘違いしたんだ、感染したんだって。

だけど、

今朝、ママは少し手首を掻いていたし、髪がうまくセットできないとか言ってた。サヨクどもかとかいういつもの愚痴が多かったような、でも、まさか。

ルリハが返信する前に次のメールが届く。

“やっぱり、そうみたいだよ、残念ながら。

【国葬出席者、また発症?故総理の取り巻き、太鼓持ち、御用芸人といわれた人々ばかり。やはり集団感染か、それともNOROIか】だってさ。

大手の新聞社は自分とこの記者がアレになっちゃったらしいから、はっきりとは書けないんだろうけどね、地方紙のweb速報とかネットニュースとかにはもう載ってるよ。

【ついに、あのアベノ元総理御用学者、ヨツウラ・ハリも発症。すでに発症者は数十人にものぼり、云々】って。記事読むと、みんなおんなじ様な症状みたいよ。体が腐っていって、頭もやられちゃうって、だから細菌とかウイルス感染とか、いわれてるみたい。でも何か不明なんだって”

大袈裟に書いてるだけだ、サヨクだのリベラルだのは、ママの経歴が変だとか、言葉の使い方が変だとかで揚げ足をとってるんだけだ。

ちょっとぐらい、つじつまが合わないとか主語がどうのとかって国語の先生みたいに細かく言わなくてもいいじゃないか、受けてるんだから。真面目に真実を言ったって、誰も喜ばないんだし。頭がよさそうにふるまっていればいい思いができるんだったら、それでいいのよ、うまくエライ人に気に入られれば、本も出してもらえて、テレビにも出て、ちやほやされる。めったにでれない、政財界の大物とか言う人たちがいっぱい招待される宴会にだって、家族も招待されたんだから。

そんなの誤魔化し、本当にすごいわけじゃないとか、カシコク立ち回れない奴がいうことよ、ママがカシコかったから、ここに入れたし。でも…

“講義なんか聞いてる場合じゃないよ、すぐに病院にいったら。連絡とか来てないの

単位落としても、かけつけるべきでしょ”

エイカの文章で、やっと気が付いた。

そうだ、そんなに大変なことなら、留守電ぐらい入ってるはず…

あ、しまった

“エイカへ

いつものスマホ、見つからないから、セカンドのやつ、もってきたのよ。こっちのはママにも教えてないの。内緒で買ったし、黙っていたかったから

ルリハ”

そうだ、すっかり、忘れていた。大学仲間との遊びとか非常用連絡のとして、二台目を契約して、今日はそっちを持ってきたんだ。

“そうか、二台目のスマホねえ。やっぱり、金持ちは違うよねえ。親のすねかじれてさ。その親がいろいろやってても、人を直接間接に傷つけても、なんとも思わない。ああ、自分も親と同じことやってるからか、他人を小ばかにして、ずる賢く教師だのなんだのに取り入ってることが頭がよくて、合理的だと勘違いしてるわけね”

いきなり、何よ。ママのこと心配してくれたと思ったら、変な言いがかりつけてきて。だいたいエイカだって、パパと一緒にアレに行ったじゃない。参列者が少ないとみっともないからってパパに無理やり連れてこられたたから、早く帰りたいとか言って、一応お葬式だっていうのに、こっそり抜け出そうとして

あ…れ…

二台目のスマホを買ったのは、あの前。夏休み中で、一人で。エイカと一緒に行きたかったけど、どこかの別荘に行ってて、それで、休み明けに番号とかメールアドレスとか教えるつもりで…

なんで、アドレス知らないエイカからメールが来るの!

ルリハの心を見透かしたように

“あー、やっと気が付いた?アンタのお友達が、こんなことでわざわざメールなんてするわけないじゃん。ホント、アンタたちっておバカだよね。それでいて自分がカシコイって思ってるから、最悪。親子ともどもね、で、類は友を呼んじゃうわけね。まあ、アンタがそんなだと罪悪感抱かずに済むから助かるけど”

な、なに、字が…まるで、会話してるみたい、メールなの、これ

違う、私、スマホの画面をみてるんじゃない、

こ、声が聞こえてるんだ

頭の中で!

ハッとして左手首をみると、

刺青のような文字から黒い何かが広がっている。

「あ、あああ」

“アンタもアレにのこのこ出たのよねえ。あの国葬モドキが何かわかってたのに。アンタのお友達は理解してなかったようだから、かえってよかったわ。馬鹿かもしれないけど、あの菌にはあんまり侵されてなくて軽く腕がもげる程度だった。母親べったりのアンタとはちがって、ネトキョクウジジイの父親とは少し距離置いてたからかもね。母親といつも一緒のアンタはどこまで広まるかしらね”

「な、なんなの」

“わかってるくせに。アンタのママは内心、怯えてて、情報集めまくってたからね。それでも、本当のことはわからなかったみたいだけど、地獄に行ってもわかんなきゃ、真正のアホだけどね。あそこでマイクロチップみたいなのを埋め込むって発想は不味かったわよねえ”

「や、やっぱり、感染したの、なんかの病気」

“もともと罹ってた病が発症しただけよ、真実なんてどうでもいい受け良ければいい上の人の言いなりでいい忖度病っていうか、嘘つきの権力者に擦り寄って他人を貶めてもうまい汁吸いたいシンドローム?あの国葬モドキ出席者、それも熱狂的国葬賛成者だけが発症するんだからコクソウ菌でもいいかしら”

「コクソウ菌って」

“もともと感染してたのよねえ、売国総理とか、あの一族。そうじゃなきゃ、あんな滅茶苦茶自国民にできるわけないでしょう?もっともあの宗教モドキ団体の連中だって、感染者だって自覚あったかどうか。それに、これピロリ菌みたいに、ニホン国の一定数はもってるのかもねえ。だって、直接会ってない連中ですら、罹ってるんだから”

「なんなの、何の病気なの、これ」

“嘘つきで卑劣で幼稚な政治家とか威張るだけの支離滅裂な財界人とか、パワハラ社長とかに媚びて、自分たちだけよければいい、ちっぽけなプライドを満足させられればいい、正義も真実も理想も、子孫ですらどうでもいいって病よ。一種の精神病?自分のエゴで周りの社会も国も結果的に破壊しちゃうなんて、最悪の病気よねえ”

「こ、子供がどうでもって、そんなことないわ」

“あら、そう?自分のエゴに子供まで、巻き込んで良識を破壊して倫理観ゼロに洗脳しちゃってる毒親っていったほうがいい?一時的にはいい思いしても、生きてくための実力も知恵もないのに、コネと取り入りだけで何とかなると考えてた?いつかは化けの皮がはがれるって。あ、もう堕ちてるけど”

「そんな、こ、と」

全く、思わなかったわけじゃない。何か、妙だと。えこひいきされてると、でも、それが当然、だって私は

”総理と親しい政治学者の娘だから?ああ、ホントどうしようもないわ。病膏肓にはいるとかいうやつ?そこまで考えが腐ってるなら、発症しちゃうわよねえ“

「どうして、なんで」

“どうせ、わからないでしょうけど、さわりだけ。ルリハちゃんとハリちゃん親子と、そのほかのヒトの体内にはある菌がいました、そのせいで頭がおかしくなっていましたが、本人たちは心身ともに健全だとおもいこんでいました。しかし、チップを埋めたことにより、脳だけでなく全身に症状が出て脳だけじゃなくて体も腐っちゃいました”

「そ、そんな、チップは区別って」

“まあ、正確に言うと、もっと複雑なのよ。チップの電気信号が、皮膚から脳に伝達して、脳の細胞とかシナプスに潜んでひそかに活動していた菌を刺激して。炎症を起こして、結果として細胞を急激に壊死させるような命令だして、免疫細胞とかも暴走として、で、全身腐るというか。だけど、それだけじゃないのよねえ。私たちも、だし”

「私たち?」

“あのさ、最近の研究で、ほんのちょっと、だけど人の念って外部を刺激するらしいよ。恨みのある相手にも影響を与えるわけ、ま、普通はちょっぴりで気が付かないんだろうけど。でも、それが大勢いれば、チリも積もればで、結構な力になっちゃうわよねえ。それでえ、生死にかかわらず、アンタたちに苦しめられた人たち、どれだけいると思う”

ママがあざ笑った人、あの死んだ政治家が苦しめたって人たち、い、今も

「ひ、ひいい」

ルリハは、思わず声をあげ、左腕を掻きむしった。

「か、かゆいよー、かゆ、かゆ」

ガリ、

爪が皮膚に食い込み、肉ごとざっくり落ちる。

「いたあああ」

“あ、発症した。菌があちこちで炎症起こして脳細胞だの、シナプスだの、もう滅茶苦茶にしちゃうの、菌が多ければ多いほど、体が崩れるのよお。菌が多いって人はどんな人だと思う?ちゃんと答えられるかなあ?”

「そ、忖度大好き、な、卑劣なおバカさんです。ねえ、答えたよお」

ガリガリ

かゆみに耐えかねて痛いのにさらに爪を、今度は足に立てるルリハ。

“答えたら、どうすればいいのかなあ?”

ズボっという音ともに太ももにのめりこむ。黄色がかった白い大腿骨がみえる。

「痛いよおお。死にたくないよお、ごめんなさい、ごめんなさい。私もひどいこと、いっぱいしました。ママと一緒にリベラルとかデモとかやったひと、笑ってました、成績悪くてママに頼ってなんとかしてもらいました。謝ります、ぜ、ぜんぶ、謝ります。ゆ、ゆるしてえええ」

そういいながらも、腕を、足を、腹を掻きながら、叫ぶルリハ

教室の後ろから聞こえる悲鳴に驚く教授と学生たち。

『お、おい、君、ヨツウラ君?大丈夫か?だ、誰か救急車を呼んでくれ、ぼくのスマホはゼミ室に置いてきたんだ。そうだ、事務室に行って助けを呼んでくる!』

血だらけになりながら、なお自身に爪をたてるルリハを見て教授は、講義を中断して走りだした。

残った学生たちは

『おい、あいつヨツウラだろ。ついさっき、親が発症したっていう』

『やっぱ、あいつもアレに出てたのかよ、親子だからって、さあ』

『コネで入ったズルっこだったのね、アレに罹っちゃうって』

『きゃあ、うつるわ、は、離れなきゃ。こんなのに感染したくない』

『コクソウ参加の忖度やろうしか、罹らないんだろ。ネットでも、テレビでもそういってたじゃん。でも生でみると迫力ある』

『すげえ、ホントに罪を告白しながら、腐っていくわ、ホラー映画みたい、と、撮らなきゃ』

助けを呼ぶどころか、遠巻きにしながら、血まみれになって狂ったように体を傷つけ続けるルリハにスマートフォンを向ける。顔見知りの子も、コンパで一緒だった男子も。

“あーあ、ひどいわねえ、人望ないんだねえ、アンタたち親子は。ねえ、ところで、わかった?本当に許しを請わなきゃいけないのは、誰なのか。同類の学生さん?それともアンタたちが貶めてた教授たち?”

頭に響く最後の問いに答えることもできず、ルリハは崩れ堕ちていった。


どこぞの国では、災害であろうが、国民の反対だろうが、行事強行したらしいですが、積極的参加者の目に余る振る舞いや服装に、水もロクにでず、段取りも悪く長引いたヒドイ有様になったらしいです。まあ、賛成の人たちにある意味ふさわしいんでしょうけど。しかし、伝統衣装も着ずに来てた人が、アレコレ偉そうにいうのは実に滑稽ですなあ。

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