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婚約者登場!

 学園2日目。今日の授業科目は昨日と同じく魔法の講義、実習と魔法尽くしだった。お母様に聞いていた選択授業は、1年生に至っては学園に慣れてきた頃――ちょうど来週から始まるらしい。沢山ある選択科目から2科目を選べるのだ。


 私を含めたみんながもう既に選択科目の希望を出している。が、その日の放課後、私は自分の希望用紙を一旦先生から返してもらって悩んでいた。


 「うーん、政経に国際倫理…」


 ニーナは何を目指していたんだろうか。難しそうな科目を選んでいたニーナに優等生かとつっこみたい。とりあえずこの選択は変更したいし、個人の希望としてはとにかく授業で体を動かしたい。


 この学園では体育というものがない。体を動かす授業は必須ではない為、自分で選択するしかなかった。


 「ダンス、体術、剣術、馬術…」

 「ニーナ、まだ悩んでるの?」


 リリーが顔を覗き込んで聞いてきた。大きな眼で覗き込んでくる姿が可愛い。リリーの家は王都でカフェを経営しているらしく、家の為に製菓と経営学を選択したそうだ。


 「リリーはお家の為になる選択をしたんだよね?私もそういうの考えた方がいいのかなって思って」


 お母様含め、家族みんなが優しくしてくれて感謝しかない。家の為になる選択をとるなら領地経営あたりだろうか。とにかく選択の幅も広すぎて何がいいのか分からなくなってきた。


 「家の為っていうのもあるけど、私自身も受けてみたい科目だからだよ。ニーナの家族は好きなものを選びなさいって言ってくれてるんでしょう?ニーナの本当に受けてみたいのを選んでいいと思うな」

 「私の受けたいもの……とりあえず体を動かしたくて」

 「じゃあそれで決まりだね。この中からだったら?」

 「剣術かな」

 「うんうん!それでいってみようよ。剣術とかカッコいいよ。目指すは女騎士だね!」


 うん!女騎士は確かにカッコいいかも、と2人で笑い合う。もう1科目は歌が好きだからという理由で声楽をとる事にした。


 そしてリリーと別れて希望用紙を提出し、帰ろうと馬車へ向かっていたその時………



 

 「きゃあ!」


 上からバケツをひっくり返したような水が降ってきた。急いで上を見上げるが誰も見当たらない。


 ビショビショに濡れた自分の服を見ながら溜息をつく。いつかの夢で見たのと同じだ。多分、いや絶対嫌がらせだろう。


 面と向かって何か言われたとかなら言い返す事もできるが、一方的にやられるのは釈然としない。内心怒りながら、ニーナが水を掛けられた時の事を思い出す。魔法で乾かしていたなぁ、なんて。


 (確かこうやって手を掲げて…風の魔法を使ったのかな?イメージしたらできる?)


 ボンっ


 「きゃあ!」


 手をかざした先で小さな爆発が起こる。もちろん服は乾いていない。自分が爆発しなくて良かった、と魔法で乾かす事を諦め、着替える為にロッカーへ向かおうと振り返った時だった。


 「何がしたかったんだ?」

 「えっ」


 黒髪碧眼の男の子が笑うのを堪えているかのように口に手を当てて立っていた。いつの間に…


 「えーっと。少々魔法を使って乾かそうかと思ったんだけど、諦めたところ」


 馬鹿正直に答えた後、失敗を見られたのが気恥ずかしく立ち去ろうと思ったが、見覚えのあるその顔に足を止めた。確かこの人は――


 「ヴィンセント!」

 「!」


 名前を呼ぶと、男の子は驚いた様に眼を見開いた。


 「あれ?ヴィンセントじゃなかった?」


 昔、ニーナの婚約者として紹介された男の子はとてもキレイで新菜の記憶に残っていた。間違えてはいないはず。


 「…いや、合ってる」


 やっぱり!じゃあその沈黙は何だろうか、と早急に考えたところ、名前に敬称を付けるのを忘れてた事に気付く。以前のニーナであれば呼び捨てで呼んだりし無さそうだ。


 「あっヴィンセント()だね」

 「呼びにくそうだし、ヴィンセントでいい。色々と突っ込みたいところだけど、とりあえずそれ乾かすよ」


 ヴィンセントが私に手をかざすと身体が温かい空気に包まれフワッと風が起こった。一瞬で身体も服も乾いている。


 「わぁっすごい!ありがとう!」


 ヴィンセントへお礼を言うと、彼は再び驚いた様な顔をし口に手を当てて言った。


 「それくらいの魔法ならニーナも使えるだろう。さっきも見てたけど…もしかして上手く出来ないのか?」


 『ニーナ』と呼んだという事は彼の方もニーナの事を認識していたんだ、と思う。私の知る限り2人は『婚約者』という関係性にも関わらず交流が全く無かったはずだ。


 「えーっと。そうだね、出来ないみたい。使い方がよく分からなくて」

 「え?!」


 また驚きの表情をするヴィンセント。もうその顔がデフォルトなのかなと思う。多分彼の中の私は魔法に優れた人物なのであろう。それなら()()()()()という魔法が使えない私にびっくりするのは無理もない。


 彼にも『熱にうなされて以降、魔法も拙く魔力も乏しくなった』という真実を織り交ぜた嘘をつく。


 「……という訳なので、私の魔法の才能を買って婚約いただいた件についても、今後どうするかを近々侯爵様へお父様が話をしに伺うそうです」

 「………」

 「ヴィンセント?」

 「いや、魔法が上手く使えなくなるなんてあるんだな。大変だったね」

 「うん、まぁ」


 元々魔法なんて使えなかったから変わりないんだけど、とは言えない。


 「それで?何でずぶ濡れになっていたんだ?」

 「……上から水が降ってきたから、かな」

 「上から?なんで?」

 「さぁ」

 「………」


 確証はないけれど多分貴方の婚約者であるが故に嫌がらせされています、とも言えない。この婚約者という肩書きが近々解消されたら嫌がらせも無くなるだろう。


 それよりも『色々と突っ込みたい』と言っていたヴィンセントに対してボロが出てしまいそうなのでそろそろ切り上げたい。


 「あっ私もう行かなきゃ。本当ありがとう!」


 そう一方的に言うと私は走ってその場を後にした。


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