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後日談 初めての

久しぶりに書いてみました。

本当はもっと早く書くつもりが、ついつい他の方の小説を読み耽っていました。心に栄養をたくさんいただきました。


前回投稿した小説から2、3日後くらいの後日談です。

相変わらず甘々な2人です。

 どれだけ試してみても上手くいかない。針で刺してしまった指先を見ながら項垂れる。不器用ながらハンカチに刺繍を施した時にできた刺し傷は、片手では足りないほどある。


 ハンカチの刺繍はお世辞にも上手とは言えないものだ。けど、今上手くいかなくて項垂れている原因はそれではない。


 「どうやったら出来るの……」


 治癒魔法を繰り出そうと、右手を傷のある左手指先に当てて力んでみても何も起こらない。私には治癒魔法を使う素質があるらしいのに。素質があるイコール使える、ではない事が分かる。


 魔法を使う事は諦めて血を拭うと、刺繍したハンカチを広げてみた。青い鳥…のようなものが嘴で花を一輪くわえているように見えるような見えないような…………前言撤回、やっぱり刺繍も上手く出来なくてへこんでしまいそうだ。


 (やっぱり別の物にしようかな……)


 何故ハンカチに刺繍をしたのかは、先日の放課後に遡る。

明日誕生日であるヴィンスに何かプレゼントをしたいと思った私は、どんなプレゼントが喜んでもらえるかをリリーに相談した。


 『ニーナの手作りだと確実に喜ぶんじゃない?意中の相手にハンカチを贈るの流行ってるらしいよ』だそうで。他に良い案が浮かばなかった私は流行りに乗っかってみたのだ。


 部屋の扉がノックされ、返事をすると侍女のサラが飲み物を持って入ってきた。


 「お嬢様、もうお休みになられては?」

 「ちょうど終わったところなの。……ねえサラ、これ何に見える?」


 サラの顔つきが真剣になり、ハンカチを凝視している。難問でも解いているかのようだ。


 (うぅ、そんな凝視して考えなくても……)


 「モグ……いえ、鳥とお花…ですか?」

 「あ、合ってる!」

 「ふふっ合ってよかったです」


 モグラと言いかけたように聞こえたのは無視しておいて、せっかく作った物だし予定通り渡す事に決めたのだった。




―――――




 「おはようニーナ」


 誕生日なのに、ヴィンスは今日も学園へ一緒に行く為に朝から迎えに来てくれた。馬車に乗り込んで、もぞもぞと鞄からラッピングしたハンカチを取り出し差し出す。


 「ヴィンス、誕生日おめでとう」

 「ニーナ知ってたんだ?ありがとう」

 「それで、あの…これよかったら貰って」


 一瞬躊躇してしまったけど、勢いで渡す。恥ずかしいから中身は家に帰ってから開けてもらおう。


 「家に帰ってから開けてみてね………って、きゃー!」

 「青い鳥に花だね。大事にする」


 私が言うが早いか封を開けたヴィンスにハンカチを見られてしまった。嬉しそうな表情をしたヴィンスを見られるのは嬉しい。が、迷いなく何を刺繍したかを当てられて、寧ろそれが正解である事に恥ずかしくなる。


 こうしてみると、人前で使うには勇気がいる出来映えだ。


 (使うのに勇気のいるハンカチって……!)


 「待って!やっぱりヴィンスに渡せる代物ではなかったみたい。違うものを用意するから一旦返してくれる?」

 「残念。もう俺のものだから返せないよ」

 「うぅ…」


 やっぱり嬉しそうなヴィンスは、こう言ったからには返してくれないだろう。仕方がないから、あと幾つかハンカチをプレゼントして刺繍したハンカチの出番を少なくしようと思う。


 「刺繍する時に怪我しなかった?」

 「バレちゃった?慣れてないからか何回か針で刺しちゃった」

 「え!?刺したの?見せて」


 ヴィンスの反応に慌ててしまう。超がつくほどの過保護なのに余計な事を言ってしまった。


 「血はすぐ止まったし、跡も残ってないから…」


 本当に自分でもどこに刺したか分からないくらい軽傷だ。


 なのにヴィンスは私の手を取り指先を見るなり、そこに口付けてフワッと治癒魔法をかけた。


 「〜〜っ!」


 (何でキス!?)


 「少し赤くなってたから治したよ」


 恥ずかしくて治癒の仕方に抗議したいが、治してくれたのもあるし嫌ではなくて言葉に詰まる。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ヴィンスは私を見てニッと笑った。


 「顔も赤くなってる。治そうか?」

 「……え…」


 近づくヴィンスの顔に頭がフル回転する。


 (治すって…今みたいに!?)


 「まっ、待って待って!それ、もっと赤くなる!学園に行けなくなるから!」

 「ははっ」


 悪戯っぽく笑う顔も格好良くて、何でも許してしまえるなぁなんて思っていると、ふとヴィンスの手首が視界に入って目を見張った。


 「ヴィンス!手首どうしたの!?」

 「手首?ああ、朝稽古の時に怪我したのかな。急いでて気付かなかった。大した事ないよ」

 「大した事あるよっ」


 私の傷とは比べ物にならないくらい赤く腫れていて痛々しい。なのに、自分の事には無頓着なのか気にもしてなさそうだ。


 治すつもりがないのか、自分には魔法をかけようとしない。見かねて、代わりに私が手で触れて治癒魔法をかけてみようと試みるもやっぱり出来なくて、思わずヴィンスの手を自分の口元へ引き寄せていた。


 「ニーナ?」


 殆ど反射的に怪我の箇所にキスを落とすと、その部分が少し光る。と、同時にヴィンスの手首の腫れが引いていく。


 「!」

 「……あれ?私………」

 「……………」

 「治癒魔法、使えちゃった……かも?」


 無意識で使った魔法に、本当に私が治癒魔法を使ったのか確信が持てなくて恐る恐るヴィンスの顔を伺ってみると、何故かヴィンスは手首を見たまま固まってしまっていた。


 「ヴィンス?」

 「………驚いた。ニーナ治癒魔法使えるようになったんだな」

 「今初めて使ったの。手を翳しても何も起こらなかったのに、キスで使えちゃった」

 「そう」


 治癒魔法を使えた事が嬉しくて、割と恥ずかしい事を言った私の言葉にヴィンスがどんな反応をしているかは見ていなかった。


 「出来るようになってよかったね」

 「うん!」


 パッとヴィンスの方を向くと、嬉しそうな私に対してヴィンスは複雑そうな表情をしている。


 「けど………」

 「……うん?」

 「他の人に今のやり方で治癒しないでね」

 「えっでも私このやり方でしか成功してなくて……」


 話してる途中でヴィンスは私の手首を顔の前へ持っていって、私を見ながら口付けた。


 「他の人にもするの?こういう事」


 かああ、と顔が赤くなっていく。


 「…しません………」


 だよね、とヴィンスは笑顔になった。


 「週末にでも一緒に治癒魔法の練習しようか」

 「いいの?」

 「もちろん」


 ヴィンスは、既にお父様である侯爵様の仕事を手伝っていていつも忙しそうなのだ。週末の約束をした私は朝から幸せな気分でこの日を過ごした。


ご報告ですが、この作品が「第3回一二三書房WEB小説大賞」に1次選考通過しました。残念ながらそこ止まりでしたがいい思い出となりました。

読んでいただいた皆様のおかげです。

ありがとうございました。

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