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贈り物

 「本当…に……?」


 ここにいるという事実が信じられない。誰かに見つかったら大変だと、扉を開けてヴィンスの腕をグッと掴んで中へと引っ張る。扉を閉めカーテンを引くと、今度は逆にヴィンスに腕を引かれて抱きしめられた。 


 「ニーナ」


 この状況に頭がついていかない。


 「ま、まって……」


 慌ててヴィンスと離れようとしたが、力強く抱きしめられていて腕の中から抜け出せず益々混乱する。


 「しばらくは……私たちは会ってはいけないって…………」

 「………」


 そういえばお兄様が来る予定だった筈だ。ランフォード家と距離を置こうと言っていたのに、こうして会っているのを見られるのは不味いのでは…


 「ヴィンスっお兄様がもうすぐ部屋に来るかもしれなくて、隠れなきゃ!」

 「……大丈夫。お兄さんが下まで連れてきてくれたんだ。そこから浮遊魔法を使ってここまで上がってきたから」

 「えっそうなの?」


 (お兄様はなんで……)


 お兄様はどういうつもりなんだろう。ヴィンスにどこまで話していいのか分からない。


 「お兄さんから全部聞いたよ」

 「っ!」


 私の疑問が顔に出ていたのかヴィンスが答えてくれた。


 「全部って全部?」

 「うん、ニーナが泣いて可哀想だったってところから」

 「〜〜!」


 なんてことまで話してるんだ。ヴィンスの顔が見られなくなって胸に顔をうずめる。


 「ニーナ…会いたかった」


 頭上から聞こえるヴィンスの優しい声色に視界が潤む。


 「私も、会いたかった……もう、全部終わるまで会ってはいけないって思ってたから………」

 「俺もそう思ってた。終業式にニーナと話しようと思ってたのに来てなくて、家を訪ねても…まあ取り次いでもらえなくて少し絶望を感じたよね」


 ハハっとヴィンスは笑うけど、笑える話ではない。来てくれてた事も全然知らなかった。


 「来てくれてたんだ」

 「ダメ元でね。けど、まさかうちの家の事を考えての行動だとは知らなくて、何回か来ては門前払いされてる。で、見かねたお兄さんがこっそり教えてくれたんだ」

 「……お兄様は諜報に向いてないね」

 「俺もそう思う」

 「でも凄く優しいんだ」

 「そうだね」


 2人で顔を見合わせてふっと笑う。


 「そうだ」とヴィンスはローブのポケットから黒い小さな箱を取り出し、反対側の手の平を上に向けるとどこからか光が集まってきて一輪の薔薇が出来上がった。


 「わあっ……」


 何も無いところから生み出される魔法に魅入ってしまう。そして、それを繰り出すヴィンスも綺麗で………見惚れてしまう。


 (………なんてキレイなの……………)


 「誕生日おめでとう」


 ヴィンスからお祝いの言葉と共にそれらを差し出され、我に返って受け取った。


 「ありがとう」


 嬉しさでいっぱいになりお礼を言うと、ヴィンスは私の頬を包んで目元にキスを落とした。


 「〜〜ヴィンスっ」

 「どんな表情のニーナも可愛いけど、やっぱり笑ってる顔が1番好きだな」


 かああ、と顔が熱くなっていく。こんな台詞を吐くヴィンスも久しぶりだ。


 「ヴィンスは相変わらず……」

 「相変わらず?」

 「相変わらず……嬉しい言葉をくれるし格好良い事してくるし、本当に格好良いし………………好き…です」


 自分で言った台詞も恥ずかしすぎて、言ってから後悔する。恥ずかしさに貰ったプレゼントを持ったまま手で顔を隠す。


 その隙間から見えるヴィンスは口に手を当てて頬を赤くしていた。


 「〜〜っ!あっそうだ!貰ったの開けてもいい?」

 「……ああ、開けてみて」


 箱にかかったリボンを解き開けてみると、中には青い宝石が大小3つ連なったネックレスが入っていた。深い青色の石は見覚えがある。つけているピアスに手を当てて口を開く。


 「もしかしてピアスと同じ石のネックレス?」

 「そうだよ」

 「かわいい………ありがとうヴィンス。大切にします」


 私の言葉にヴィンスは笑顔で応えてくれた。


 「つけてみるね」


 ネックレスを手に取り、つけようとするが留め具が上手く嵌まらない。


 「俺がやろうか」


 そんな言葉と共にヴィンスは私の正面から抱き込むような形で私の手からネックレスを受け取った。


 「じっとしてて」

 「……はい」


 抱きしめる直前のような体勢になんとも言えなくなる。


 「出来たよ」


 ヴィンスの言葉に顔を上げると、まだ側にいるヴィンスと目が合ってそのまま唇が重なった。


 驚いている間に唇は離れて、また目が合うと今度はぎゅっと抱きしめられた。


 「……ニーナ、この状況を良くする為に俺も動こうと思う。なるべく事を急ぐけど………しばらく学園で会ってもニーナとは接触しない。表面上は婚約破棄を待つ、別れた2人だ」


 ヴィンスの言葉にドキッとする。頭では理解できているけど心が嫌だと言っている。


 「でも、心ではいつもニーナを想っているから。忘れないで」

 「…………」


 涙がぽろぽろと溢れる。我慢しようと思ったのに堪えられなかった。


 「ニーナ達がした劇の台詞みたいだな。あの2人の気持ちが今はよく分かる」

 「………うん」


 ヴィンスは私が泣いているのに気付いたのか、背中を優しくさすってくれる。


 「本当は嫌だよ。けどこのままなのはもっと嫌………だから、頑張る」

 「うん」

 「……私も…いつもヴィンスの事を想っているから忘れないでね」


 ヴィンスの顔が見えるように少し離れて、泣き笑いの表情で伝える。


 私の涙を拭うようにヴィンスは私の頬に触れ、目元にそして唇へと口付けを落とした。


 「ニーナ………もう行くね。お兄さんとの約束の時間だ」

 「………うん」

 「ニーナ、好きだよ」

 「私も……っ」


 ヴィンスがぐっと握り拳を作ると、瞬間に姿が消えてしまった。


 タイミングよくドアがノックされる。


 「お嬢様もうすぐお時間です」

 「分かったわ」


 ヴィンスは自身も動くと言っていた。私もヴィンスを信じて、自らができる事をするしかない。




 泣いて少し崩れてしまった化粧を直し終えると、お兄様がエスコートをしに部屋まで迎えに来てくれた。


 「ニーナ準備できた?」

 「はい。…………お兄様ありがとうございます」

 「どういたしまして」


 お兄様は私の首元につけられたネックレスを見て、嬉しそうに笑ってくれた。



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