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不安のかけら

 季節は冬にうつろうとしている。陽が落ちるのも早いし学園祭を境に急に寒くなってきた。


 「冬って寂しい気持ちになったりしない?」

 「分かる。寒いからかなぁ、ニーナ温めてくれる?」

 「リリー!」


 ぎゅっとリリーと抱き合う。


 (あっなんか温かくなって心も満たされる気がする)


 「……何やってんの?」

 「ニーナと愛を温めてるの」

 「はいはい。寒くなってきたし今日の練習はもう切り上げるか」


 学園祭も終わりレオによる魔法の練習を再開している。乾かす魔法は調子の良い日は成功している。当初の目標はほぼ達成と言ってもいいと思う。


 「レオ、今日もありがとう」

 「いーえ。どういたしまして」


 次なる目標は中級クラスに上がる事だ。半月後にはまた実技と筆記の試験があるので出来るところまで頑張りたい。


 「そういえば最近ヴィンセントの姿を見てない気がする」


 リリーの口からヴィンスの名前が出てきてドキッとする。


 「私は剣術の授業で会うけど、クラスが違うと全然会わないよね」


 あれからヴィンスは私と目が合うと時折り視線を逸らしたりして、やっぱり私が酔っている間に何かしてしまったとしか思えない。でも既に終えた話題を再び掘り起こす勇気もない。


 それとは別で…時々何かを考えるように遠くを見つめたり溜息を吐いたりしている時があり、それについては何かあったのかと心配になって聞いてみるも『何も無いよ』と笑顔でかわされてしまうのだ。


 「ね、もうすぐ試験があるしまた皆で勉強しない?」

 「いいね。たまに皆でするのも気分転換になるよな」


 リリーの提案にレオも乗り気だ。私も皆とする勉強は分からない所を聞けるので有り難い。


 「じゃあ次の休日はどうかな?ヴィンスにも伝えておくね」

 「うん。…ってあれヴィンセントじゃない?」


 ちょうど選択授業を終えたらしきヴィンスが見える。ヴィンスもこちらに気づいたようで、手を振ると振り返してこちらまで来てくれた。


 「皆で魔法の練習でもしてた?」

 「うん。ヴィンスは選択授業だよね。おつかれさま」

 「ニーナもおつかれさま。頑張ってるね」


 労りの言葉をかけてくれるヴィンスはいつも通りでほっとする。


 「2人の世界に入ってるけど、私達もいるよ」

 「違っ」

 「ははっリリー久しぶり」

 「本当久しぶりだね。ね、次の休みに皆で試験勉強しようって話が出てるんだけどどうかな?」

 「ああ、いいね。俺も行くよ」


 ヴィンスも来れるそうでよかった。待ち合わせを決めて皆と別れ、私はヴィンスと一緒の馬車で帰る事になった。


 手を繋いで隣に座るヴィンスはいつも通り?いや…少し元気がないように思える。寒くなってきたし体調を崩したら大変だ。いつものように私を送ってから自分の家に帰るのでは時間が掛かるので休める時間も短くなってしまう。


 「ヴィンス疲れてる?私、自分の馬車で帰るから真っ直ぐ帰って休んだ方がいいよ」

 「少し眠たいだけだよ。ニーナと一緒にいたいし、大丈夫」

 「でも……」


 「それなら」とヴィンスが私の肩に寄り掛かった。フワッとヴィンスの綺麗な黒髪が頬にあたってくすぐったい。


 「少し寝ようかな。ニーナの肩をかしてくれる?」

 「……うん」


 返事をする前に既に肩をかす形になってるが、私が断らないのを知ってるからだろう。


 「あと、子守唄を歌ってほしい」

 「えっ子守唄?」


 子守唄を歌った事がない。けど、少し弱っているように感じるヴィンスの要望を聞いてあげたい。


 「……何の歌でもいい?」

 「本当に歌ってくれるんだ?何でもいいよ」


 冗談だったのかなと思ったけど、私の返事にヴィンスは嬉しそうだ。それなら、と()()()が小さい頃にお母様が歌ってくれていたものを歌う。


 「懐かしいな」


 小さな声で呟くヴィンスも小さい頃にお母様から歌ってもらったりしたのだろうか。


 (そういえば、私ヴィンスのご両親に会った事ない)


 それだけでなく、ヴィンスがうちに来る事はあっても私がヴィンスの家に行った事は一度もない。正確には()()()が12歳の時にお父様に会った事はあるけれど。


 呼んでもらいたいとか言うのではない。でも、呼ばれないのは何故かと少し気になる。


 けど今はその質問をするのは躊躇われた為、胸の内にしまい込んだ。


 「ニーナ、もし良くない噂を聞いたとしても……俺の言葉だけを信じてほしい」

 「……うん?」


 ヴィンスの言うことが漠然としていて何の事を言っているのか分からなかったが、うとうととし始めたヴィンスに私も頭を頭を寄り添わせて、今はその温もりを感じていた。


 この時はあまり気に留めていなかった『良くない噂』は、この後すぐ私の耳にも届く事になるのである。




―――――




 ヴィンスにはなるべく一人で行動しないでほしいと度々言われている。けど、同じクラスで剣術を選択している女子は居らず移動の際にはどうしても一人で行動しなくてはいけない。


 選択授業前はまだ多くの生徒が残っているからと、気を緩めてしまっているというのもある。今日も一人で移動していると、何組かがこちらを見ながらヒソヒソと話をしていて…あまり気分がいいものではない。


 こちらの世界に来てから、たまに『あの子がヴィンセント様の婚約者』と遠巻きに言われたりはした事があるけれど、今日は何だか憐れみや嘲笑の表情で見られている気がする。


 皆直接話しかけてはこないが、共通して聞こえるのは『婚約破棄』という単語で……


 (……何?……私の事?)


 ハッキリとした内容までは聞こえてこない。それに皆ただ噂をしているだけだ。


 (……私、婚約破棄………されるの?)


 なのにその不穏な単語の所為で動揺してしまっているのも事実で、頭はその事でいっぱいになる。


 「ニーナ」


 不意に名前を呼ばれて振り返る。


 「……あっ…ヴィンス、レオ」


 何故か二人の顔を見てほっとして、涙が出そうになってしまった。そんな私を見てヴィンスは目を見開き私の頬に手を当てた。


 (駄目だ。心配させてしまう……)


 「……何かあった?」

 「……何も」

 「無くはないよな」


 ヴィンスが周りにいる生徒達を一瞥して、レオに向き直る。


 「レオ、俺もニーナも今日体調不良って言っておいて」

 「了解」


 「えっ」と私が声を発した時にはもうヴィンスの手に引かれて、その場を後にしていた。



選択授業は部活のような感覚です。

曜日の概念が無い世界にしてますが、あるとすれば

ニーナ 月声楽 火剣術 水魔法の練習 木剣術 金無し

ヴィンセント 月無し 火剣術 水体術 木剣術 金体術

です。


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