後夜祭 2
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「ニーナ」
「あっヴィンス。用事は終わったの?」
「ああ」
ヴィンスは強張った表情をしていたが、私が返事をすると柔らかな表情へと変わった。
「あれ?君は、確かブティックの…」
「娘のルシアナです」
「ルシアナ嬢。ニーナの友達だったんだ?」
「ふふっいつもご贔屓ありがとうございます」
ルシアナが商売人の顔をしている。リリーといい、ルシアナといい同い年なのにしっかりしてるなぁと感心してしまう。
「2人共顔見知りだったんだね」
「ね、ニーナのウェディングドレスも是非うちで頼んでね」
「えっ」
(ウェディングドレス?!結婚式の?私とヴィンスの?)
「ああ、是非お願いするよ」
「やった!ありがとうございます」
「〜〜っまだ先の話だよね」
「ウェディングドレスは仕立てるのに時間が掛かるから、式をする時期によっては今から作り始めてもいいぐらいだよ。私もママからオッケー貰えたら携わるね」
「本当?楽しみ!って、ええっ」
「ニーナ、感情が忙しそうね」
ルシアナが私のウェディングドレス作りに携わってくれるのは嬉しい。けどまだ私には現実味の無い話だっただけに思考が追いつかない。
「あっ彼が来たみたいだから私行くね。またね」
少し離れたところでルシアナの彼氏らしき先輩が立っている。お互い軽く会釈して挨拶をした。
「そうだ」と、先輩の所へ向かおうとするルシアナが足を止めた。
「ニーナ『ジンクス』頑張ってね」
「ひゃっ!」
そう私に耳打ちをしてルシアナは行ってしまった。嵐みたいだ。『ジンクス』……忘れていたのに、そんな事言われたら意識してしまう。
(キス……無理無理無理………)
「別れ際に何言われたの?」
「っ!何でもないよ」
「何でもなくなさそうだけど?」
「う………」
「まあ、いいや」
私の手を取り手の甲に口付けた。
「ウェディングドレス楽しみだね」
「……うん」
ヴィンスは手を取ったまま私にそう告げる。結婚する事を当たり前に考えてくれているんだと分かる。
「あっヴィンス喉渇いてない?」
何だか恥ずかしくなって、咄嗟に近くにあったグラスを2つ手に取りヴィンスに渡してその場を濁した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
熱を冷ましたくてコクコクとグラスの半分程を飲み干すと、一瞬冷えた様に思えた体が再び熱くなるのを感じる。
(あれ、なんか熱い…)
「ニーナこれお酒!」
「えっ」
(ジュースみたいで全然気が付かなかった)
こちらの世界ではお酒の年齢規制は緩く、パーティーなど特にお祝いの場では私達くらいの年齢でも飲酒が当たり前の様だった。
けれど、前の世界の名残りでお酒を飲むのに抵抗があり、私が飲むのはこれが初めてだ。自分が酔っ払ってしまうかどうかが分からない。
「ニーナ、普段飲まないよな。体大丈夫?」
「今のところ、体が熱いくらい……」
ヴィンスに心配されて、そう言った矢先に頭がクラクラし足に力が入らなくなる。ふらっとよろけた私の体をヴィンスが支えてくれた。
「…上手く力が入らない……」
「酔いを覚ましに外出ようか。厄介な奴が近寄ってきても困るし」
「……?ごめんねヴィンス、迷惑かけて」
「全然。目立たない様に裏口から出るから……抱き上げるのは我慢して」
「え?」
フワッと体が浮き上がり横抱きにされる。昨日に引き続き『お姫様抱っこ』されている事に気付いたが、恥ずかしさはなく、何だか体も思考もフワフワとして気持ちが良い。
瞼が重くなって一瞬、寝てしまったのではないかと思う。恐らく学園内の何処かにあるベンチに降ろされて目を覚まし、ベンチにもたれたまま隣にいるヴィンスの顔をぼーっと眺める。
いつもは眼を見つめるのも恥ずかしくなってしまうのに今は何故だか全然平気で、ヴィンスの綺麗な顔を見続けてられて幸せだ。
「……格好良い」
「………」
ぼそっと口から出た言葉にヴィンスが口に手を当てて溜息を吐いた。
「……ニーナは酔ってるな」
「酔ってる……?酔ってる………」
これが酔っているという感覚なのか。頭がフワフワして思った事全て口にしてしまいそうで……
「私、いつも言えない事が言えちゃいそう」
「……言えない事?この前言ってたニーナが隠してる事とか?」
ヴィンスの言ってる言葉は頭に入ってこない。
「ヴィンス」
「何?」
「だーいすき!」
「っ!」
少し顔を赤らめて口を押さえるヴィンスは貴重で、何だかいつもの私と逆だなぁと思う。
「ヴィンス」
「…何?」
「ぎゅってして」
「………」
無言で腕の中に包み込まれ、この温かさに重い瞼を閉じてしまいたくなる。
小さい子を宥めるように頭を撫でられて、幸せで夢みたいで…フワフワする。
「私まだ…寝たくないのに………ジンクスも…」
「……ジンクス?」
ヴィンスはジンクスを知らないみたいだ。教えてあげたらどんな反応をするのかなと少し気になる。くだらないと言われてしまうだろうか。
(私もジンクスなんてって思っていたのに…)
本来ニーナの魔力があってこその婚約なので魔力が無くなった今、いつ婚約破棄を言い渡されても文句が言えない。
ヴィンスは魔力が無くても問題ないと言っていたけど、ヴィンスの父親である侯爵様はどう思っているのだろう。いつまで経っても魔力が元に戻らなければ、見限られてしまうかもしれない。
けど、優しくて自分の事を大切にしてくれるヴィンスの事を好きになってしまった。ジンクスに縋ってヴィンスとの未来を願ってしまいたくなる。
顔を上げると至近距離にあるのはヴィンスの顔で……
こんなに近くで見つめているのに恥ずかしくならないなんて……私はもう夢の中にいるのかと思う。
(夢であれば…夢の中でなら許してくれる?)
そんな思いで顔を寄せてヴィンスの唇に自分のそれを重ねた。
「……っ!」
ほんの僅かな時間の触れるだけのものだったけど、自分勝手にも満たされて……ヴィンスにふにゃっと笑顔をむけ、その後は意識を手放した。
私の隣ではまたもや顔を赤くしたヴィンスが全身からの深い溜息を吐いていた。
ヴィンスに体を預けた私はそんな事も知らずに幸せな夢を見ていたのだった。




