学園祭 2
ヴィンスに手を引かれたまま舞台袖から外へと出る。クラスの何人かは声を掛けるでもなく、その様子をキャーキャーと遠巻きに見ていた。
「っヴィンス、何処行くの?」
「2人で話ができるところ」
ドレスが足に纏わりついて歩きにくいし、ヴィンスの歩幅が大きくてついていけない。
「ちょっと、待って…」
呼吸が乱れて言葉が続かない。ヴィンスはそんな私に気付いて立ち止まる。
「…俺が連れて行く」
「えっ?きゃっ!」
ヴィンスが言った言葉の意味を理解できないでいると、体を横にされ抱き抱えられた。
「えっ?やっ!ちょっと待って!」
「ごめん、待てない」
「じっ自分で歩けるから」
「…早く2人きりになりたいんだ。あまり暴れないで」
(きゃーーーーーっ!)
声にならない悲鳴をあげる。
これは小さい頃に憧れていた『お姫様抱っこ』であるけれど、実際にされるこれは物凄く恥ずかしいのだと思い知る。
降ろしてくれそうにないヴィンスに抵抗するのを止め、何処に手を持っていっていいのか分からず自分の胸元で両手を組み、顔はすれ違う人達に見られないようヴィンスの体に向けた。
(早く…早く目的地に着いて……)
たった数分の時間が長く感じる。やっと目的地に着いた時にはもう疲れきってしまった。
ヴィンスに降ろされて、開口一番に気になる事を聞いてみる。
「重かった、よね?」
「………いや」
「っかなり間があった!」
「重くないよ。多少魔法も使ってたから」
「………」
重かったから魔法も使って軽くしたのだろう。色々居た堪れない。でもヴィンスにとってそんな事はどうでもよさそうで、抗議したかったけど諦めた。
「……ここは何処?」
「選択授業で使われる校舎の一室だよ。学園祭の間、こっちは使われない」
「そうなんだ」
ヴィンスは机に寄りかかると「はー」と深い溜息を吐いた。
「あれ、脚本に『キスをする』って書いてあった?」
「…ううん、ないかな」
元々は書いてあったけど無しにしてもらったし、代役とはいえレオともその話をしてたから分かっている筈だ。ややこしいのでヴィンスにはそこら辺の説明はしない。
「レオが何考えているのかさっぱり分からないな。あいつ一発殴りたい」
何やら物騒な言葉が出てきた。レオが何を考えているのか分からないのは同感だ。
ヴィンスは立ち上がって私の頬に触れた。そこはレオに触れられた所だ。
「ニーナはキスされそうになって嫌じゃなかった?」
「……」
ヴィンスから『キス』という単語が出る度に意識してしまう。
本当にキスされたのなら嫌だけど、あの時レオは何か協力してほしいと私に言っていた。それに…
「途中で唇を指で押さえられて口に当たらないようにされたから、するフリだけかなって思って」
「…え?」
レオをフォローするつもりで言ったのに、信じられないという様な顔でヴィンスに見られてしまった。
「…唇に、こう?」
頬に触れている方の手と反対の手の親指の腹で唇に触れられる。何でか分からないけどヴィンスにされると恥ずかしくて顔を逸らしたくなる。
そんな私を見てヴィンスの目つきは鋭くなった。
「…………やっぱり殴ってやりたいんだけど」
「………」
ヴィンスの言い分も分からないではない。私もヴィンスが誰かとキスするなんて、フリだとしても嫌だ。
そう思ったら体が勝手に動いて、ヴィンスの胸元の服を掴み引き寄せていた。
「ニ―……」
バランスを崩して近づいたヴィンスの顔に、頬にキスをする。恥ずかしいのをこらえてヴィンス顔を見上げながら言った。
「私はヴィンスが好きだから!」
だから何だというのか。自分に突っ込みを入れたいけれど、どうしても今伝えておきたかった。
ヴィンスは私の突然の行動と宣言に固まっていたが、ぽすっと私の肩に頭を乗せた。
「……うん」
小さな声で返事をするヴィンスはもしかして照れているのかな、なんて。
「ありがとう。俺もニーナが好きだよ」
思いがけずヴィンスからも貰えた『好き』という言葉に、くすぐったく感じるも嬉しくてたまらない。やっぱり言葉で想いを伝えるのは大事だ。
ヴィンスは頭を上げるとさっきの顔とは一転して笑顔を見せてくれた。
「ちょっと冷静になれた。…戻ろうか」
「うんっ戻って色々お店を回りたいな」
「ニーナは着替えなきゃね」
「そうだった」
まだ衣装を着たままだった事を思い出す。
「ニーナの歌声綺麗だったよ」
「ありがとう」
「…俺割とやらかしてるから、明日の朝にでもニーナの教室に謝りに行くよ」
「…そうでした」
少し、いや大分皆に顔を会わせられないけど腹を括るしかない。
学園祭が開催される2日間は朝に教室で出欠をとって後は基本的に自由行動、自由解散だ。その後は3日間学園が休みになるので、その間に皆の記憶から薄まる事を願う。
ヴィンスといた教室を出て元いた方へと戻る。途中にドアが開いたままの談話室を通りかかった。
「さっきは閉まってたよな?」
「……私は顔をヴィンスの方に向けてたから」
「……ああ」
ヴィンスが閉めようと手を掛けると、部屋の中を見て目を見開く。
「ヴィンス?」
その様子に、何を見たのか気になってヴィンスの後ろから覗くと銀髪の男の子と金髪の女の子が抱き合ってるのが見えた。
「―――」
私が口をあっと開けて言葉を発する前にヴィンスに口を塞がれる。
黒髪程ではないが銀髪も珍しく学園にも数人しかいない為、誰であるのか特定しやすい。
(………あの髪の色にあのシルエットは――レオだ…)
レオはこちらの方に体を向けている。顔を上げたレオは私とヴィンスに気付いた様で、でも動揺もせず私達を見てニッと笑ってみせた。
あんな場面を見せられて私の方が動揺している。ヴィンスは私の手を取りその場を離れた。
「………」
「………」
お互いに無言になる。選択授業の校舎から外へと出て私から口を開いた。
「ヴィンス、さっきの…」
「ニーナ。誤解を招く発言をするといけないからここでは話さないほうがいい。その話はまた後で」
「……うん」
誤解を招く…そうかもしれない。だって私は既に色々想像してしまっている。
レオと一緒にいたあの女の子はどこからどう見ても1人しか思い当たらない。
(―――――エリザ様だった)




