学園祭 1
いよいよ学園祭当日がきた。
体調の悪そうだったウィルくんが心配だったけど、教室に入ると笑っている姿が見えてホッとした。
私たちの劇は午前中2番目に行われるので、朝からずっと最終チェックに追われている。と言っても私はただ座って、メイクとヘアセットをしてもらっているだけだ。
髪は『王女』らしく豪華な、サイドでハーフアップにしてくれて思わず自分に見惚れてしまった。ニーナの顔によく似合っている。
保護者や来賓も来場出来る時間になり、私たちも待機する為ホールへと移動する。途中、正門近くに差し掛かった時に見知った姿を見つけた。
「っ!リリー、直ぐに行くから先に行ってて」
「ニーナ?何かあった?」
「お兄様を見つけたの」
(来てくれたんだ)
お母様とお兄様の姿を見つけて駆け寄る。
「お兄様!来てくれたんですね」
「ニーナ!さっき着いたばかりなんだ。間に合ってよかった。父様は忙しくて来れなかったけど母様と観てるから頑張ってね」
「はいっ頑張ってきます」
お父様が来られなかったのは残念だけど、お兄様が約束通り来てくれただけでも嬉しい。行ってらっしゃいと、お兄様は私の頭を撫でて送り出してくれた。
「リリー、ニーナはどこか行った?」
「お兄さんを見つけたみたいで、あっあそこにいるよ」
「へえ…家族仲良さそうだな」
「ね!私もお兄ちゃんいるけど、頭なんて撫でてもらった事ないよ。皆仕事だから来れないしね。レオの家族は観にくる?」
「俺も表舞台に出る訳じゃないから来なくていいって言ってる」
「そっかぁ」
「あれ?2人共待っててくれたの?」
「ニーナ見てたよ〜お兄さんに頭撫でてもらってたね」
あれを見られていたのか。お兄様の甘々は健在で、あれを知っている人に見られるのは恥ずかしい……
「昔から私に甘くて…いまでも子供扱いされてるんだ」
「昔からなんだ?」
「いいなぁ優しいお兄さん」
「あっそろそろ用意した方がいいよね。行こう!」
気恥ずかしくて2人をホール控え室へ促す。もうすぐ劇が開演する。
―――――
「君を愛しているんだ」
「私も貴方を愛しています」
自分のクラスの劇がはじまり、舞台袖から見ている私はウィルくんとエマちゃんの演技に赤面してしまう。この脚本、愛の言葉があり過ぎる。
ウィルくんも演技に熱が入ったのか少し顔が赤くなっているような…
第2幕が終わり一旦幕が下りた裏で3幕目の準備に入る。
「ううっ緊張してきた」
「頑張れニーナ」
リリーに励まされ深呼吸をしていると、わぁっという響めきと「大丈夫か」という声が聞こえてきた。
「何があったの?」
「ウィルくん熱があったみたいで倒れちゃって…」
「えっ大丈夫なの?!」
(ウィルくん体調治ってなかったんだ……)
「ウィルは保健室に、劇は中止か…誰か代わりに出来る奴いる?」
シモンくんの問いに皆がざわざわする。心の準備もなく急に主役を、と言われても難しいだろう。
「俺がやってもいいけど、雰囲気が全然違うからな」
ウィルくんはミディアムヘアでシモンくんは短髪なのだ。
残念だけどもう劇は中止かな、と思っていると背景の準備を終えた大道具のレオ達が戻ってきた。
「あれ、何かあった?」
「レオ!」
「…鬼気迫る勢いだな。どうした?」
「ウィルが熱で倒れたんだ」
「まじか」
「レオが代役出来ない?」
「……俺?」
いきなりの申し出に流石のレオも驚いている。いつも皆を引っ張ってくれるレオをシモンくんが頼るのも分かる。
レオの答えは…
「いいよ、やる」
「レオ!」
皆がわあっと声を上げる。ぶっつけ本番に挑むレオの度胸が凄い。
「台詞覚えてるよな?」
「まあ大体は。歌は歌えないよ」
「だよな。ニーナ、ソロでいける?」
「うん、やってみる」
「じゃあ着替えてくるわ」
さっと着替えを済ませたレオが戻ってきて、私は目を見張る。レオの髪の色は銀髪から茶色に変わっていた。
「レオ!髪の色どうしたの?」
「ウィルに合わせて茶色になるよう魔法を掛けたんだ」
「そんな魔法も使えるの。色々と規格外だね…」
「ははっニーナ、フォローよろしくな」
「うんっ頑張ろうね」
「2人共、幕上げるよ!」
「はーい」
第3幕は私のソロから始まった。
思いがけずソロになってしまったが、不思議とさっきまでの緊張はなく歌声が良く響くこのホールで、自分の声を聴きながら世界に入り込む。
レオは私の歌に合わせてキラキラとダイヤモンドダストのような魔法を繰り出していて、客席からもほうっと感嘆の溜息が聞こえる。
途中私と目が合った時にはニッと笑って見せて、その余裕さに私も笑顔になってしまった。
倒れてしまったウィルくんが気に病まない為にも中止にならなくてよかった。
順調に劇は進んで、後は王子と王女が手を取り合って台詞を言い、ナレーションが入って終わりだ。
「これからも共に歩んでいこう」
「はい。私はいつまでも貴方の側にいます」
これで幕が下りて終わり。なはずなのだけれど、レオは私の頬を手で捉える。この体勢はちょっと…誤解を招きそうだ。
「レオ?」
「ごめんニーナ、ちょっと協力してほしい」
声を潜めて会話をする。協力とは何をすればいいのか。
「じっとしてて」
「何を…」
じっと…していたらレオの顔が近づいてきて、客席からはキャーという悲鳴が聞こえる。このままだと口と口がくっ付いてしまいそうだ。
そんな事を考えていたら、また悲鳴に近い声が客席から聞こえてきて、不意に誰かに肩をぐいっと引かれた。
「っ!お前ふざけんなよ!」
そう言いのけたのはヴィンスで、今の私は恐らく目が点になっているだろう。ヴィンスに手を引かれて舞台袖の方へと連れて行かれてしまった。
(ヴィンス?!いつの間に舞台の上に?)
レオは「はははっ」と笑ってるし何が何だかカオスな状況だ。
「突如現れた騎士により連れて行かれた王女と王子の試練はまだ続いていく」
そんなナレーションと共に幕が下りて劇は終演した。観客席は凄く騒ついている。
私はヴィンスに手を引かれながら、ヴィンスってあんな言葉遣いもするんだなと、この後どうなるんだろうかと考えていた。




