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そして、入れ替わる

―――――



 「本当に………入れ替わったんだ…………」


 鏡に映った自分の…ニーナの顔を見て呟く。ニーナはもうあっちの世界で目が覚めているだろうか。辛い思いをしていないだろうか。


 そうして、鏡の前でニーナの顔を見つめていると扉がガチャっと開いた。


 「っニーナお嬢様!気が付かれたのですね!」


 ハッと振り向くと女の人が1人、泣きそうな顔をして立っていた。あの女の人は確か……


 「サラ…」

 「お嬢様よかった!1週間も熱にうなされて眠り続けていたのですよ。まだ起き上がらない方がいいですわ。ベッドへ移動しましょう」

 「1週間も?」

 「そうですよ。奥様もとても心配されていて……奥様を呼んできますね。ちゃんと横になっていてくださいね」


 そう言うと、私をベッドへ寝かしつけパタパタと行ってしまった。ニーナはあの場所にいると身体に負担が掛かると言っていた。1週間意識がなかったのも身体が怠いのもそのせいだろう。


 ここがニーナの世界……辺りをぐるっと見回してみると本当に今までの世界とは違う事が分かる。けれど現実味がないのはまだ入れ替わった実感が湧かないのか、夢の中の延長の様だからか……


 トントンっとノックが聴こえた。「どうぞ」と応えるとサラともう1人女の人が部屋に入った。ニーナのお母様だ。


 「ニーナ…」


 お母様はニーナの名を呼ぶと、サラへと向き直って言った。


 「サラ、少し2人きりにしてもらえるかしら。あとお医者様を呼んでおいて頂戴ね」


 そうサラに告げ、扉が閉まるのを確認すると私の方へ歩み寄りベッドサイドへと座った。


 「……初めまして、で大丈夫かしら。ニーナ、身体は辛くないかしら」


 私の頭を撫でながら、ニーナのお母様は泣きそうな笑顔で……恐らく私たちに起こった事を悟り、もうニーナではない私に配慮するかの様に微笑んでくれた。


 「ニーナのっお母様っ……」


 前触れも無く突然入れ替わったのだ。大切な人ともう会えないなんてどれほどの悲しみがあるのか分からない。それなのに私の事を労ってくれるニーナのお母様に、心が押し潰されそうになる。


 「っ私、ニーナと入れ替わって…」

 「大丈夫よ、大丈夫………ありがとう。ニーナの為に決断してくれて…」


 不安と切なさと、何だかよく分からない感情で涙が溢れてくる。そんな私をニーナのお母様はしばらくギュッと抱き締めてくれていた。


 「これからは…私を貴女のお母様と思ってくれたら嬉しいわ。貴女たちが幸せになる事が私の何よりの願いよ」


 お母様の言葉に私は静かに頷いた。


 そうしてお医者様が来て、身体に異常が無い事と様子を見て徐々に普通の生活をするように、と告げられると私は再び眠りについた。





 ――眩しい光に目が覚める。どうやらまた一晩ぐっすり眠ったらしく、身体はすっかり軽くなっていた。


 カーテン開けて窓を開きうーんと伸びをする。気持ちのいい朝だ。よしっと頬を両手でパチンと叩き気合いを入れる。


 (これからはニーナとして生きていくんだ)


 今後の事をお母様と相談して決めよう、そう思った時に扉がノックされた。


 「どうぞ」

 「お嬢様、おはようございます」


 侍女であるサラが扉を開ける。


 「おはようサラ」

 「ふふっ今日は体調が良さそうですね。何日も目が覚めない時はどうなるかと思いましたが、本当によかったです」

 「心配かけてごめんなさい。もうすっかり元気よ」

 「今日はまだ無理なさらずにゆっくり過ごしてくださいね。奥様も学園はもうしばらくお休みしましょうと仰っていましたよ」


 そう言いながら、私の着替えを手際よく用意して手伝ってくれる。なんかこう、着替えを手伝われるのは小さい子にでもなった気分になって恥ずかしい。慣れなくては。


 身支度を整えてサラと一緒に食堂へ向かうと、お母様が既に席に座っていた。


 「おはようございます……お母様」


 『お母様』と呼ぶのは少し照れてしまう。そんな私にお母様は笑顔を見せてくれた。


 「おはようニーナ。体調は良さそうね。そうね、食べ終わった後はお庭を散歩でもしましょうか」

 「はいっ是非」


 私はそう言うと、キョロっと辺りを見回した。お母様はそれに気付き続けた。


 「お父様とルーク…貴女のお兄様は今領地へ赴いていて、貴女が倒れた事、目を覚ました事も手紙で伝えてあるから近々貴女の様子を見に戻ってくると思うわ」


 ニーナは4人家族。両親と3つ上の兄が一人いる。


 お父様は伯爵位を持っていて伯爵領は特産物の鉱物の発掘や加工で繁盛しており、いつも領地と王都にある家を行ったり来たりで忙しくしているイメージだ。


 お兄様は小さい頃はよくニーナと遊んでいたが、学園を卒業してからは父親について勉強をしているからかやはり忙しそうで、最近はニーナとあまり交流が無かったようだ。


 私はまだニーナとしてちゃんと出来ているのか心配だった。お父様とお兄様がいない事に少しホッとしたのだった。





 朝食の後、お母様と2人で庭園へと向かった。色彩豊かな季節の花々が沢山植えられていて見事な庭園だ。ニーナが好んでよく来ていた場所であるからか、夢の中で見知ったここはどこか心落ち着く。そんな私を見てお母様が話を切り出した。


 「ニーナから貴女の事を色々聞いていたのよ。明るくてとても頑張り屋さんなんだって自分の事のように自慢していたわ」


 ふふっと笑うお母様。ニーナが私のどの部分を見て、どんな話をしていたのか分からないのでちょっと恥ずかしい。


 「それでね伝えておきたい事があって……貴女はニーナだけれどもニーナになろうとせずに、貴女は貴女の思うままに生きて欲しいの」

 「それは…」

 「貴女のいた世界は、文化も文明も全然違うと聞いているわ。振る舞いも言葉遣いも。こちらより自由で開放的なものだと言っていたわ。だから、貴女にはこの世界の常識に囚われずに生きて欲しい、と思ったのよ」

 「お母様……ありがとうございます」


 お母様の気持ちが、私の事を想ってくれている気持ちがうれしい。お母様がいればこの世界でもやっていける気がした。


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