魔法石に込める
「お帰りなさいませ。出来ておりますよ」
ヴィンスと街歩きを堪能してお店へと戻る。先程の個室へと通されてピアスを披露された。
「わあ…!可愛い」
「うん、いいね」
実際に出来上がったものは、想像よりも遥かに可愛くて早く着けてみたくなる。
「着けていかれますか?」
「いいですか?魔法石に魔法を込めたいので少し時間が掛かるのですが」
「ええ、どうぞこちらの部屋をご自由に使ってください」
「ありがとうございます」
店主が気を利かせてくれて個室に2人きりにしてくれた。ヴィンスが魔法石に魔法を込めてくれるところを見られるなんて楽しみだ。どうやってするのかも知らないので知識として見ておきたい。
「ニーナ、乾かす魔法は使えるようになった?」
「ううん、まだ温度調節が上手く出来なくて使えないんだ」
「そっか。なら1つは乾かす魔法を込めておくよ。もう1つは治癒魔法にしようかと思ってるんだけど…」
ヴィンスが私の首元を見る。この前からニーナの魔法石をネックレスにして着けていて服の中にしまっている。チェーン部分は首元に見えているのでそれに視線を感じる。
「そのネックレス、この前までしてなかったよね。それも魔法石か何か?」
よく見てるなぁと感心してしまう。それに魔法石と分かるなんて鋭い。表に出さず内側にしまってるからだろうか。
「これはお父様から貰った魔法石で…治癒魔法が込められてるの」
多分…とネックレスを外に出しながら心の中で付け足す。
「それならもう1つのピアスは違うものにしておこうか。うーんそうだな。護身用に風の魔法を込めるか」
「護身用に?」
「使う時が無いに越した事はないけれどお守り用にね。俺が安心したいだけかも」
ヴィンスは小さく笑うと、片方のピアスの魔法石を両手で包んで真剣な顔付きをした。
手から少し赤い光が漏れている。その光は段々と弱くなり消えていった。
「次はこっちだね」
もう片方の魔法石も手に取ると、今度は淡い黄色い光が手から漏れていて、やがて消えていった。
いとも簡単に行っている様に見えているけれど、それはヴィンスだからなのだろう。
「出来たよ」
「凄い……」
あっという間に出来上がった。魔法石を触ってみると気の所為かもしれないけれど少し温かく、石が生きている様に感じる。
「着けてみてもいい?」
「もちろん。着けてみて」
そう言うとテーブルの上にある置き鏡を近くへと持ってきてくれた。
鏡で自分の耳を見てみると確かにピアスホールがある。ピアスの片方を手に取りピアスホールへ差し込む。ピアスを着けるのは初めてなので上手く出来るか心配だったけど、難なく着ける事が出来た。もう片方も着けて鏡で見てみる。
「綺麗な青……」
「似合ってるね、凄く可愛い」
さっきヴィンスは『護身用に』と言っていた。乾かす魔法も込めてくれたのは、以前私が濡れていた事があったからだろう。その事を追求せずに私を守ってくれようとしている。
「ヴィンス……ありがとう」
私がお礼を言うと「どういたしまして」と笑顔になった。
「魔法石は護身用としてだけでなく、必要な時はいつでも使って」
「うん」
そうしてピアスを確かめるように耳元に触れ、隣同士の距離から更に近づき額にキスを落とされた。
「〜〜〜っ」
突然の事にびっくりして声が出ない。額を手で抑えてヴィンスを見る私の顔は絶対また赤くなっている。
「ははっニーナ真っ赤だよ」
「〜〜!」
動揺している私に反して、ヴィンスは凄く楽しそうだ。いつも私ばかり振り回されている気がして恨みがましい目で見てしまう。
「ヴィンスは…何でそんな余裕なの」
「余裕なんかじゃないよ。俺だってニーナの言葉や態度一つに浮かれたり落ち込んだりしてる」
「そうなの?」
「そうだよ」
何でも軽々とこなして何事にも動じないイメージを勝手に作っていた。私の言葉や態度一つがヴィンスの気持ちを左右する?
「ヴィンスも私と一緒なんだね」
「…そうだよ」
ヴィンスはまた耳元に触れると、今度は眦にキスをされた。
「ひゃっ」
「今は凄い浮かれてるな。自分の贈ったものを身に着けてもらえるのがこんなに嬉しいと思わなかった」
「〜〜っ」
思いが通い合った今こういう事をするのは分かってる。でも漫画や小説を見てドキドキしたりするのよりも数倍、鼓動は激しくなるし卒倒しそうだ。
嫌ではない。嫌ではないけれど恥ずかしくてむず痒くてどうしたらいいのか分からない。
私は恋愛初心者なので、こういう時どうしたらいいのか誰か教えてほしい。
「ニーナが落ち着いたら店を出ようか」
「〜〜っ誰の所為だと……」
「ははっこの後はリリーのとこのカフェでも行く?」
「わあっ行きたい!」
ヴィンスの手の内で転がされているような気もするが、名案にテンションが上がる。リリーには休暇に入ってからずっと会えていないのだ。
「リリー元気かな?会えたらいいな」
「リリーはいつも元気そうだよね。大通り沿いの店舗で手伝っているって言ってたからそこに行ってみよう」
「うん!」
店主にお礼を言い、カフェへと向かう事になった。
―――――
「ニーナ会いたかったよ!」
「私もだよ!会いたかった」
カフェに着くなり、可愛いウェイトレス姿をしたリリーに出会い感動の再会に至る。癒しのリリーに久しぶりに会えて周りの目も気にせず抱擁してしまった。
「ヴィンセントも久しぶり。ヤキモチ妬いちゃった?」
「…多少ね。久しぶりリリー、やっぱり元気そうだね」
「やっぱりって!」
こんなやり取りも久しぶりで嬉しい。王都に戻ってきたんだという感じがする。
「私着替えてくるね。混ざってもいい?」
「うん!一緒にお茶しよう。お店は大丈夫?」
「今落ち着いてるから大丈夫」
後でね、とリリーは行ってしまった。
「ふふっ本当に元気だったね…ヴィンス?」
「俺の時と反応が違う」
「えーっと、反応?」
ヴィンスからじっと見つめられて、それこそ反応に困ってしまう。リリーと比べて言っているだろうその言葉の意味を考える。
「リリーに抱きついてたよね」
「えっ」
(久しぶりに会ったリリーには抱きついたのに、ヴィンスにはしてないって事?)
ヴィンスに抱きつく想像をして一人顔が熱くなる。
「それは…無理です………」
自分の想像に耐えられなくて、両手で顔を覆いテーブルに突っ伏すとくくっと笑い声が聞こえた。
「ごめん意地悪言った。徐々にでいいよ」
「はい……」
(徐々に……できる気がしない……)
「お待たせ。何かあった?」
「何も……」
「そう?……あれ?何か………ニーナ綺麗になったね」
「えっ本当?」
「ニーナは元から綺麗だよ」
リリーからの褒め言葉にヴィンスが被せてくる。嬉しいけど恥ずかしいのでやめてほしい。
「はいはい。そうなんだけど、こう内側からキラキラしてるというか、お洒落しているのもあるんだけど………もしかしてニーナ…」
リリーに耳打ちをされる。
「ヴィンセントとくっ付いた?」
(〜〜っ!リリー鋭い……!)
こくんと頷くとリリーに抱きつかれた。
「おめでとうニーナ!ヴィンセントも」
「あれ?気付いた?」
「気付くよ。ヴィンセントも余裕があるし、ニーナは綺麗になってるし。よかったねニーナ」
「うん」
自分の事のように喜んでくれるリリーが好きだ。リリーも好きな人が出来たら応援したい。
「私も恋がしてみたい!」
「リリーは好きな人いるの?」
「いないんだよね。私はカフェの仕事がしたいから、それを理解してくれる人がいいなあ」
「なるほど」
「ニーナも前に将来の事を言っていたよね。将来の夢ってあるの?」
(将来の夢……)
小さい頃から1人で家で過ごす事が多くて寂しかった。夢でみるニーナの温かい家族に憧れていて、いつか自分の家族を作るんだという夢を持っていた。
「私は…温かい家族を作るのが夢かな」
「っ!」
ヴィンスもリリーも口に手を当て驚愕する。2人共若干赤くもなっているような…
「私が聞いてても照れてしまうんだけど……」
「私なんかおかしな事言った?」
「おかしいというか…逆プロポーズ、みたいな?」
「えっ」
(あっ『家族を作る』って………)
自分の言った台詞に青ざめる。いや、赤くなってるかも。
「ニーナの将来の夢は叶うね」
「ああ…俺が叶えるよ」
「〜〜っ」
「それ以上は私がいない所でやって」
「はははっ」
自分の発言に自分がやられてしまった。ヴィンスはヴィンスで凄いことを言っている。嬉しいんだけれども。
私は話す言葉を一回整理してから発言しなきゃいけないな、と一人反省会を頭の中で繰り広げていた。




