瞳の色と同じもの
「ヴィンス久しぶり」
「ニーナ、会いたかった。今日も可愛いね」
「〜〜!……ありがとうございます」
相変わらず照れてしまうような言葉をくれる。そして相変わらず私は恥ずかしくなってしまう。
今日はヴィンス前々から約束していたデートの日だ。
領地でしてもらったような可愛い髪型や服装をデートの時くらいはしてみようかなと思い、珍しくサラに頼んで髪はサイドで緩く編み込み、ワンピースもかわいいデザインのものを選んでみた。
お母様やサラに温かい目で見送られるのに耐えつつ、ヴィンスと馬車に乗り込む。
「この髪どうなってるの?フワフワしてる」
「っ!侍女のサラがしてくれたの、器用だよね」
髪の毛を触られてドキッとする。この自然なスキンシップを私からもしてみたい。自分から手を繋いでみようかなと思う……けどまだ無理だ。勇気が出ない。
「ヴィンスも器用だよね。この前の手紙、私が触れたら薔薇の花になるように魔法を掛けたの?すごいね」
「ああ上手くいったんだね、よかった。前に父さんが母さんに渡しているのを見て俺もニーナにあげたいと思ったんだ」
「お父様がお母様に…素敵ね」
(ロマンチストなお父様なのね)
ヴィンスの照れてしまうような台詞や行動は、もしかしたらお父様がいつもしている事なのかなと思うと納得がいく。
「ヴィンスから貰った薔薇も大切にするね」
「……そんな事言われたら色々プレゼントしたくなるね」
「ふふっそれは私も困っちゃうから止めるね」
もし本当に色々プレゼントされてしまったら、私はその分を返せないので困ってしまうだろう。
「困る?今から行くところに行きにくくなるな」
「…?そういえば今日はどこへ行くの?」
初めてのデートの時にも行こうとしてた所かなと。あの時は私の為に博物館へ行く事になったけど、どこへ行くつもりだったんだろう。
「ああ…話をしていたらちょうど着いたね」
馬車から降りると目の前には格式高そうなお店がある。
「えーっと。このお店に入るの?」
「そうだよ、どうぞ」
ドアマンが扉を開けてヴィンスにエスコートされ中へと入った。ブラウンやゴールドを基調とした内装に重厚感のあるソファなどのインテリアが置いてある。
一見何のお店か全く分からない。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
さらに奥へと案内され個室へと通される。「用意してまいります」と案内人が出ていって個室にはヴィンスと私の2人になった。
「ヴィンス、何のお店なの?」
「宝飾品のお店だよ」
「宝飾品……?」
どう考えても学生がふらっと立ち寄って買うようなお店ではない。冷やかしで入るようなお店でもない。
(私大分場違いなんじゃ……)
そんな私の気持ちを他所にヴィンスは私の耳元に触れた。至近距離で触れられてドキッとしてしまう。
「ヴィ、ヴィンス?」
「ニーナにピアスを贈らせて欲しいんだ」
「えっ」
ここは本物を扱うお店にしか見えない。百歩譲って誕生日プレゼントだったとしても受け取るのに躊躇してしまう。まあ、私の誕生日は冬なのだけれど。
貴族だったら普通な事なのかな、断ったら失礼なのかなと思考がぐるぐるする。今度は私の思考を読み取ったのかヴィンスが噴き出した。
「さっきの話の流れでいくと困ってるって感じだね」
「うん…困ってます」
「今まで誕生日にも花くらいしか贈ってないから、その分だと思って」
ニーナもヴィンスの誕生日には花を贈るだけだったからお互い様なのに。ここで押し問答するのも違うなと素直にヴィンスの事を聞くことにする。
「うん」と頷くとノックの音が響いた。
「お待たせいたしました。ヴィンセント様ご来店ありがとう存じます。今日はご両親ではなく可愛いお嬢様とご一緒なのですね」
「……彼女に似合う、普段も身に着けられるようなものをお願いします」
「承りました。お嬢様、店主のエルマールと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「ニーナ・フローレスと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
タイミング良く現れた店主と挨拶をする。どうやらランフォード侯爵家の贔屓の店のようだ。
店主は机の上に幾つかのデザインのピアスを並べた。それらにはどれも黒い石が付いていてもう一つの台座は空いている。もう一つの台座には好きな宝石を嵌められる様になっているようだ。
「魔法石…だよね?」
「そうだよ。魔法石と普通の宝石を組み合わせたデザインのものをと思ったんだけど、やっぱり黒の主張が強すぎるな」
「それでしたら、キャッチに魔法石を使ったものは如何でしょう」
「それだったら魔法石が目立たなくていいですね。表のデザインは好きなものを選べる」
「普段使いされるのでしたらこちら等がお勧めです」
ヴィンスと店主の間で話が進んでいく。買い物一つにしても私が知っているそれとかけ離れていて客観的に見てしまう。
「ニーナ、気に入ったデザインある?」
突然話を振られて我にかえる。
(気に入ったデザイン…)
ぱっと見て一番に目を惹かれたのはシンプルなデザインのものだ。普段学園へ着けていっても華美にならならそうだしそれでいて可愛い。
「私はこれかな」
「うん、シンプルでいいね」
「ではこれに好きな色の宝石を合わせてみましょうか」
「好きな色……」
「一般的にはパートナーの方の髪や瞳の色を合わせる事が多いですね」
「パートナーの。じゃあ青色のものをお願いします」
「………」
「では幾つか見繕って参りますね」
今までピアスは元よりイヤリングも滅多につけた事が無いのでわくわくしてきた。パートナーの色を身に着ける風習があるのも特別な感じがして素敵だなと思う。
ヴィンスの眼は深みのある青で見ていると安心もするし惹き込まれる。私は元々好きだった青色が更に好きになった。
「ヴィンスの眼の色って凄く綺麗よね」
「……ニーナはそういうのは平気なんだな」
「そういうの?」
「いや…何でもない。自分の色を身に着けてもらえるのは嬉しいよ」
そう言って目を細めて微笑むヴィンスも凄く綺麗で見惚れてしまう。
「ニーナは普段ピアスしてないよね。出来ればこれから学園に来る時は着けてもらいたいんだけど、いいかな?」
ふとヴィンスにお願いをされる。前の世界では学校の規則でアクセサリー類を身に着ける事を禁止されていた為、こちらでも着ける習慣ができなかった。
「うん、着けていくね。ピアスホールも開けなきゃね」
そう返事をするとヴィンスが驚愕する。何か変な事を言ってしまったのだろうか。
「開いてるよね?」
「えっ」
(ピアスホールが開いている?!)
ニーナも普段アクセサリーをしていなかったので分からない。着けていた事があったかどうか急いで記憶を辿る。
(どうしよう、全然覚えていない)
けど、ヴィンスは耳元を見て言っているのだろうと思うから開いているに違いない。
「…大分前に開けたから記憶から抜けてて……」
「そっか……」
(絶対不思議に思ってるよね…)
もう数分前からやり直したい。そんな事を思っていると店主が戻ってきた。
「青色をした宝石を幾つか持って参りました。如何でしょう」
店主が宝石の説明をし、ヴィンスもそちらに耳を傾けたのでほっとする。こんな所でミスを犯すなんて思わなかった。ニーナの事に関する事はもう少し注意して話さなくてはいけない。
「ニーナ、これはどうかな」
「うん、私もそれがいいです」
「承知いたしました。気に入ったものが見つかって宜しゅうございました」
一番ヴィンスの眼の色に近いものを選んだ。それがピアスとなるなんて楽しみだ。
石が台座にしっかり固定されるまで時間が掛かるそうで、その間ヴィンスと街歩きを楽しむ事にした。




