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王都への帰還

 ヴィンスが帰ってからはまた元の領地生活に戻った。一つ、夜寝る前に星空を見上げるという習慣を加えた事を除いて。


 空を見上げるとヴィンスも見てるかな、なんて自分でもびっくりするくらい恋する女の子だ。リリーやエリザ様に言ったら喜んで話を聞いてくれるだろう。


 領地最終日の朝、いつも通りサリーの所へ向かう。


 「サリー、会えなくなるのが寂しいよ。次来る時まで覚えていてくれてたら嬉しいな」


 いつもより沢山抱擁して別れを惜しむ。


 「サリーの事は任せておいて」

 「はい、お願いします……お兄様はずっとここにいるんですか?」

 「そうだな、もう少し仕事が落ち着いたら学園祭の頃辺りに一度王都に帰ろうかな」

 「学園祭の頃…」


 そういえば秋には学園祭がある。数少ない学園行事の一つだ。


 「1年生は演劇をするよね。ニーナは声楽を取ってるから裏方でなく舞台に立つんじゃない?観に行くね」

 「っ!そうでした…どうしよう」


 まだ先だと思っていたらいつの間にかすぐそこまで迫ってきてきているパターンだ。本格的に演技や歌を習っている人達に混ざって醜態を晒したくないので、出来れば脇役とかでちょっと出るその他大勢で収まりたい。


 「ニーナは可愛いし、キレイな声をしているから心配しなくても大丈夫だよ」

 「……お兄様、それ人前では言わないでくださいね」


 兄バカフィルターが何重にもかかっていてびっくりする。お母様もいつも可愛いだの褒めてくれるので、きっとお兄様の甘々はお母様譲りなのだろう。


 「その他大勢として出るくらいだと思うので、期待しないで来てくださいね」

 「ははっそれでもいいよ。次に会えるのを楽しみにしているよ」

 「はい。私も楽しみにしています」


 お兄様のお陰で本当に楽しい領地生活を送れた。お兄様と離れるのも名残惜しいけれど、秋には王都に来てくれるそうなので楽しみに待っていようと思う。


 お父様とも挨拶をしてお母様と馬車へと乗りこんだ。


 「気をつけて帰るんだよ」

 「はい、お父様とお兄様もお体に気をつけて」


 領地に別れを告げ、ヴィンスのいる王都へと帰る――




―――――




 「ニーナ、領地は楽しかったかしら?」

 「はいとても!お兄様も優しくて、馬のサリーとも仲良くなれて毎日楽しく過ごせました」

 「ふふっそれは何よりだわ。貴女の居場所が増えてよかったわ」

 「お母様……ありがとうございます……」


 私の事を気にかけてくれて胸が温かくなる。お母様だけでも入れ替わりの事を知っているという事実がどれだけ心強いか。


 「何か困った事があったらいつでも言ってちょうだいね」


 この言葉も幾度となく聞いた。このままだと親孝行してもし尽くせなくなりそうだ。


 (そういえば)


 王都のクローゼットにあった魔法石の事を思い出す。


 「お母様、王都に帰ったら見ていただきたいものがあるんです」

 「まあ、何かしら」

 「()()()が持っている魔法石の事で……。ただの魔法石だと思うんですけどちょっと気になったので」

 「分かったわ、帰ったら一緒に見てみましょう」


 ひとまず一緒に見てくれる事になった。もし()()()が大事にしていたものであれば、私でなくお母様に持っていてもらった方がいいのかもとも思う。




 「この中に入っている魔法石です」


 王都の邸宅へと戻り、早速お母様に見てもらう。


 「これは魔法で鍵がかかる箱ね。鍵をかけた本人にしか開けられないわ。……ニーナは開けられたの?」

 「開きました。それで中に魔法石が入っていたんです」

 「そう。鍵をかけた本人の魔力に反応して開く仕組みになっているのだけど、貴女も開けられたという事はあの子がわざとそうしたのかもしれないわ」

 「魔力に反応…?」

 「ええ。魔法石を見せてくれる?」


 箱の鍵を開けてお母様に魔法石を渡す。箱が開けられるのは中身はともかく外身がニーナだからなのではないのか。


 (私にも開けられるように()()()がそうしてくれた?)


 「お父様がくれた魔法石ね。中には……何か魔力が込められているみたいだけれどこれは何かしら…」

 「お兄様も同じものを持っていて、中には()()()が治癒魔法を込めたと言っていました。」

 「ええ。私やお父様もルークと同じであの子に治癒魔法を込めてもらったのを持っているのよ」

 「そうなんですね」


 お父様やお母様も同じものを持っているのならやはり治癒魔法が込められている可能性が高いのだろうか。


 「でも、この魔法石には違うものが込められているように感じるわ。……こういうのを感じ取るのが得意な人も稀にいてるのだけれど、私には分からないわ。あの子からも何も聞いていなくて、ごめんなさいね」


 お母様も()()()から何も聞かされていなかった。けど何かしらの魔法は込められているらしい。


 お母様の言葉に何か大事な事を見落としているような気もする。


 「いいえ、見てくださってありがとうございます。私がこのまま持っていていいものか分からなかったので見ていただきたかったんです」

 「貴女が開けられたという事は、あの子が貴女に用意したものだと思うの。だからこのまま貴女がお守りとして持っておくといいわ」

 「はい、そうしますね」


 もしかしたらお母様達と同じ治癒魔法かもしれないし、違ったとしてもお守りとして持っておくのも悪くない。


 チェーンを通しネックレスにする。首から家一軒分ぶら下がっているのは……考えると恐ろしいけれどまあその内慣れるかな、と思っておく。


 「さあ、移動で疲れたでしょう。サラに美味しい紅茶を淹れてもらいましょうか」


 サラを呼び、淹れてくれた紅茶をのんで一息つく。休暇はあと1週間だ。ヴィンスに王都へ帰宅した事を伝えておこうと思う。


 「お母様、後でヴィンセントに手紙を書きたいのですが」

 「あら、じゃあヘンドリーに頼んでおくわね。私からもこの前のお礼を書くから一緒に届けてもらいましょう」

 「この前何かあったのですか?」


 気になったのかサラも話に入ってくる。


 「ふふっヴィンセント様がね、領地までニーナに会いに来たのよ」

 「えー!あんな遠いところまで!お嬢様愛されてますね」

 「………」


 そうでしょう、と言って恋バナを楽しめたらいいのだけれど。お母様とサラが盛り上がっている間、私は貝のように過ごしたのだった。




―――――




 「お嬢様、手紙を預かっています」


 ヴィンスのところへお使いに行ってくれたヘンドリーから手紙をもらう。


 「もう返事をくれたの?」

 「左様でございます」


 自室へと戻り封を開けると、手紙には領地でのお礼と明後日出掛けようという内容が書かれていた。


 (明後日会えるんだ…)


 「あれ?」


 嬉しくてもう一度読み返していたら便箋が2枚重なっていた事に気付く。


 (もう1枚は…白紙?)


 手に取ってみると下の方に小さく『ニーナへ』と書かれている。と次の瞬間、シュルシュルと色形を変え一輪の赤い薔薇が出来上がった。


 (すごい!こんな魔法初めて見た)


 ヴィンスの魔法には毎回感動させられる。こんな事をされて落ちない女の子はいないんじゃないかと思う。私はもう落ちているのだけれども。


 薔薇を机の上に飾り、それを見ながら明後日を心待ちに私は眠りについたのだった。



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