星を見て君に願う
晩餐も終わり、シャワーを浴びて自室へ戻る。胸がいっぱいになり過ぎて今日はしばらく眠れないだろう。
バルコニーへと出て空を見上げると、満天の星が輝いていた。
(キレイ……手が届きそう)
そういえば領地へ来てから空を見上げるのは初めてだ。早朝からサリーのお世話をしていたのもあって、夜は暗くなると同時にベッドへ入っていたのだ。
(あっ流れ星……)
願い事をしたら叶うかなと願い事を考えて見たけれど、願っていいのか悩んでしまった。願い事がいっぱいあるからでは無く、こんな事を願っていいのかなという躊躇いから。
結局、願い事をしないまま、あっという間に流れ星は消えていく。
(ヴィンスも部屋で見ているかな)
ふと思い立って部屋を出る。あの星空を見せてあげたい、そんな一心で彼のいる部屋へと向かう。
部屋の前に着くとふぅっと息を整えた。
「ヴィンス」
小さくノックをし、同じく小さい声で彼の名前を読んでみる。もう眠っていたらそれでいい。
中からガタンっと音がした後、ドアが開く。
「ニーナ?!どうしたの?」
「ヴィンスに見せたいものがあって…中に入ってもいい?」
「中に?」
ヴィンスは少し考えてから「入って」と入れてくれた。突っ走りすぎて迷惑だったかなと少し後悔する。
「ごめん、もう寝るところだった?」
「いや……まだだよ」
「よかった」
ほっとして笑顔になるとヴィンスも笑顔になる。
晩餐の時は2人でゆっくり話をするという訳にはいかなかった。ヴィンスにお礼を言っておきたい。
「あっ夕食の時はありがとう。お父様嬉しそうだった」
「お礼を言われる事なんてしてないよ」
「ううん、『娘をよろしく』なんて言われても困るよね」
「全然。本当は『幸せにします』って言おうかと思ったけど、それはまだ早いかなって」
(えっ)
びっくりし過ぎて声が出ない。私を笑わせようと冗談を言っているのかとも思ったけどそうも見えない。驚いている私を余所にヴィンスは平然としている。
「で、俺に見せたいものって?」
「…えっと、空を見てほしくて」
「空?」
「こっち」と私からヴィンスの手を取りバルコニーへと誘う。そういえば、寝ている時を除いて私からヴィンスの手を取るのは初めてだ。それに気付いたら急に手を離したくなる。
(どうしよう。今手を離したら不自然だし…)
耐えられず、ゆっくり手を離していこうとしていると逆にヴィンスからぎゅっと握り返されてしまった。
(!)
「わあっ…すごいな、こんな星空初めて見た」
ヴィンスの言葉に私も空を見上げる。先程1人で見た時よりも星の煌めきが強く、空全体が輝いて見えるのは何故だろう。
繋いでいる手が気にならないくらい星空に魅入ってしまう。吸い込まれてしまいそうなほどの星空を見上げていると、この世界にヴィンスと2人しかいないような感覚に陥る。
「……キレイだね」
そう言ってヴィンスの方を振り向くとヴィンスも私の方を見ていた。
「うん、キレイだね」
私を見て真っ直ぐに瞳をそらさずに言うものだから、まるで私を見て言っているみたいで勘違いしてしまいそうになる。
恥ずかしくなるのを誤魔化すようにまた空を見上げた。
「流れ星に願い事をしたら叶うっていうよね」
「そうなんだ?じゃあ願ってみようかな」
ヴィンスはどんな願い事を叶えてほしいのだろう。私は…
「あっ、流れ星!ニーナあそこ」
指差す方に確かに流れ星が…でもすぐに消えていく。
「消える前に願う事できた?」
「消える前に願うの?あんな一瞬じゃ難しいな」
「……ヴィンスは何を願ったの?」
気になって聞いてみる。私とは違って壮大な事を願っていそうだ。
「言ったらニーナが叶えてくれる?」
「私に出来る事だったら」
「優しいね。寧ろ俺の願いはニーナしか叶えられないな」
「私しか……」
ヴィンスは真面目な顔でそんな事を言ってくる。何だか聞くのが怖くなってきた。私しか叶えられないではなく私には叶えられないの間違いでは。
「ニーナ」
「っ!」
恐らく今からその願い事を伝えられる。待って、という言葉が出てこない。ヴィンスの瞳から眼を逸らせない…
「ずっと……」
心臓がトクントクンと音を立てるのが分かる。
「俺の側にいて」
――トクン、と大きく鼓動する。
これは夢なのかと錯覚してしまいそうになる。悲しくもないのに涙が…溢れてくる。
「私……」
私が願うのを躊躇った願い事をヴィンスは願ってくれたのだ。
ニーナと違って何も取り柄が無い私がこれからもヴィンスの側にいてもいいのだろうか。
小さい頃から誰かに期待をして裏切られるのが怖くて、自分の気持ちに気付かないフリをするのが得意だった。今はもう自分の気持ちに素直になってもいいのだろうか。
「私も……」
堪えきれずぽろっと1粒の涙が零れ落ちる。
「ずっとヴィンスの側にいたい…………」
泣き笑いのような顔になる。消え入るような声で自分の想いを伝えると、ヴィンスは一瞬驚いた顔をして「ありがとう」と私の耳に顔を寄せた。
「ニーナの願いは俺が叶えるね」
そう言って笑顔になるヴィンスの顔はやっぱりキレイだった。




