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新菜とニーナ

 ニーナが魔法学園へ入学して1週間、友達もできそれなりに充実した日々を過ごしていた時に起こった。次の授業の教室へ向かう際に令嬢達に声を掛けられたのだ。


 「貴女がニーナ・フローレスさん?」

 「そうですが…何か?」

 「…ふーん。大した事ないのね」


 取り巻きの令嬢達のクスクスと笑う。


 「あまりいい気にならないでよね」


 そういうと、ニーナの肩をドンっと押して行ってしまった。


 (何あれ、訳わからないんだけど?ニーナ、ニーナ大丈夫?)


 残念ながらニーナの視線でこの夢を見ている為、鏡を通さないとどんな表情をしているのか分からない。


 しかしながらニーナは「ふう」と小さくため息を吐くと、何事も無かったかのように次の教室へと向かって行った。


 その日をきっかけにニーナは度々嫌がらせを受けるようになった。脚を引っ掛けられて転んだり、教科書を破られていたり、この日はどこからともなく水が降ってきてびしょ濡れになっていた。

 ニーナは魔法で髪の毛や服を乾かす。


 そう、今回だけでなく今までも嫌がらせを受けては魔法で難なく元通りにしていた。


 動じて無いようにも思えるが、こんな事が続いて気を落とさない訳がないだろうと思う。


 (ニーナ何故何も言わないの?やられっぱなしじゃ悔しいよ)


 (私がこの世界にいってニーナを守ってあげたい)


 そう思った瞬間、新菜の身体が溢れんばかりの光に包まれる。


 眼を開けていられないほどの眩しい光に思わず眼を瞑った。




 暫くしてそうしていた眼を静かに開けると、真っ白な世界の中にいた。


 目の前には………


 「っ!ニーナ!」


 新菜が名前を呼んだと同時に、新菜はニーナに抱きしめられていた。


 「新菜!……やっと、やっと会えた」


 (ニーナも私の事を知ってる?ニーナは夢の中に出てくる女の子で、話しかける事はできなくてそれで……今ここでの出来事も夢なの?というか、ここはどこなの?)


 混乱している頭で、でもニーナに会う事がうれしいと思う新菜にニーナが微笑んで話を続けた。


 「私と貴女はね。魂が近しい存在で、小さい頃から夢の中で意識を共有してきたのよ。それはとても珍しい事で、他にもそういう人はいるのだけれど……大きくなるに連れて自然とそれは無くなっていくの。でも私は、ずっと貴女と共有していたくて魔法で繋ぎ止めていたの」

 「意識を共有…?」


 すでによく分からない。けど、ニーナの魔法のおかげで今まで夢の中でニーナを見る事ができたのだな、と思う。


 「そう…寝ている間だけだから全ての時間を共有する事はできなかったけれどね。それでね、今私たちが会えたのは、貴女が私のいる世界に行きたい、と思った時にこの次元へ来られるよう魔法をかけたからなの。本当は『私のいる世界が楽しそうだから行きたい』と思って来て貰えたらよかったのだけれど。貴女ったら私を虐げた人達から守るために行きたい、と思ってくれたのね」

 「そうだ!そういえば何でニーナはあの子達に何も言わなかったの?私すごく悔しかったんだから!」

 「ふふ、ありがとう。貴女は本当に優しいのね,私はそれで充分よ。それに、あの子達の愚かな行動はいつか自分の身を滅ぼすわ。私が何かするまでもないのよ」


 ニーナは人間ができている。それにとても可愛いなぁ。と、働かなくなった頭で現実逃避してみる。


 「新菜、ごめんね。貴女とゆっくり話をしたいのだけれど、この次元は本来在るべき場所ではないから身体にとても負担がかかってしまうの。早速本題に入らせて貰うわ」


 本題?と首を傾げるとニーナが応えた。


 「私と入れ替わって欲しいの」

 「………えっ?」


 私は驚きで口をポカンと開けたまま固まってしまった。今とっても間抜けな顔をしていると思う。


 「もちろん貴女の同意無しにしないから安心して」


 新菜はブンブンと首を上下に動かして頷いた。理由があるからこんな事を言う訳で、それは一体何故なんだろう。


 「私はね、とても魔力が高いの。それはもう…自分でも手に負えないくらいに。そして困った事に、(いにしえ)の魔法と言われ現在では存在しないはずの魔法まで使えてしまうの。例えばこの次元を越える魔法や時を操る魔法、人の心を操る魔法とか、ね」


 辛そうな顔をしたニーナは続ける。


 「小さい頃私の力にいち早く気付いたお母様は、この力を隠すようにと言ったわ。この力の存在を気付かれたら、この力を欲する者が現れて混乱や争いが起きてしまうかもしれないと。もしくは私自身が危険な存在として扱われる場合もあるわね」

 「そんな……」

 「貴女の世界は魔法が存在しないでしょう。私が貴女の世界へ行けば私の魔法の力は失われるわ。だから貴女と入れ替わりたいの。新菜の魔力は…私が見る限り人並み程度だから、私の世界に来ても問題なく過ごせると思うわ。…ごめんなさい。こんな自分勝手な願い、貴女の人生を狂わせてしまうお願いよね。こんな力欲しくなかったのに…」


 魔法が使えていいなぁと思ってた自分が情けなくなる。


 ニーナは今までどんな思いで過ごしてきたのだろう。自分を否定し続けてきたのだろうか。そんな辛い事はない。

 

 夢の中で見てきたニーナは、内気で読書好きの普通の女の子だった。時折お姫様のようにドレスを着て、新菜にはキラキラ輝いて見えていた。辛い顔なんてして欲しくない。新菜に躊躇いないなんて無かった。


 「ニーナ!入れ替わろう!」

 「!」


 ニーナは驚きの表情で私を見つめた。内容が内容なだけにまさか即答されるとは思っていなかったのだろう。綺麗な瞳いっぱいに涙を溜めたニーナの手を、ギュッと握って話を続けた。


 「私はニーナをずっと見てきて、ニーナが大好きだった。なのに辛い思いを抱えていた事に全然気付かなかった。私はニーナに幸せになって欲しい」

 「新菜……」

 「あっでも私の世界に来てもちょっと…辛い事があるかもしれない。ほら、私の家族は放任というか私に無関心で……あっ勉強とかもこっちと全然違うよね?!」

 「新菜、ありがとう………」


 再びニーナに抱きしめられる。


 「私も新菜の事が大好きよ。新菜はとてもがんばっていたわね。家族の事も…勉強の事も大丈夫。ふふ、私ね、貴女が学校で習った事は夢を通して覚えたの。もちろん全てとはいかないから初めは大変かもしれないけれど…頑張るわ。新菜もこちらの文字を勉強していたわね。学校は始まって1ヶ月くらいだから、貴女なら追い付けると思うわ。困った事があったらお母様に全て伝えてあるから相談してね」

 「ニーナのお母様?」

 「ええ。お母様だけには、いつか入れ替わるかもしれないという事を伝えてあるの」


 「………もう、私の魔法がもたないみたい。新菜、もっと話をしたかった。ありがとう。大好きよ…」

 「ニーナ、私も……!」


 それだけ言うとまた眩しい光に包まれて

 

 私は意識を手放した。

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