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すれ違いの先に

 教室の扉を開けて中を確認する。


 (ここにもいない…)


 私はヴィンセントを探している。先程から彼が行きそうな思い当たる場所へ行ってみたけれど、何処にも居なかった。


 (どこに行っちゃったのかな…)


 早く仲直りをしたくて、気持ちばかり焦ってしまう。


 (あっ!)


 長い廊下の先に彼の黒髪を発見する。


 「待って!……ヴィンセント!」


 大勢の生徒達が廊下にひしめいていて身動きが取れない。


 「お願い、通らせて!」


 私の声にみんなの動きが止まると、私の方へまた別の黒髪の人が近づいてきた。


 「……レイラ…………」

 「あら、ニーナさん。貴方はヴィンセント様に相応しくありませんわよ。」

 「お願い!ここを通らせて!―――――




 叫んで荒くなった呼吸のまま飛び起きる。きょろきょろと辺りを見回すと、まだ夜も明けておらず薄暗い部屋のベッドの中に私はいた。


 「…………夢?」


 どうやら私は夢を見ていたらしい。


 昨日は中々寝付く事が出来なかった。やっと眠れた、と思ったところに今の夢だ。


 ()()()と入れ替わってから気付いたが、本来の夢というのは現実では無いのに現実に起こっているように感じる不思議な現象だ。初めて本来の夢というものを見た時は、現実かどうか分からなくなって混乱した。そして今もまた夢に翻弄されている。


 それもこれもレイラの所為だと八つ当たりしたい。そもそも婚約者本人に『私の方がお似合いだ』なんて言うなんて失礼すぎる。


 でも……レイラの言う「皆」もそう言っているのなら私は相応しくないのかな、とまたぐるぐる思考が回る。


 「はぁ……」


 私は深い溜息を吐くと、再びベッドの中へ潜り込んだ。




―――――




 「おはようニーナ。来るの遅かったね、間に合ってよかった」

 「おはようリリー。ちょっと二度寝しちゃって」


 (うん。まずはリリーの顔を見て癒されよう)


 「ニーナおはよ。さっきヴィンセントが探してたよ。会わなかった?」

 「えっ!そうなの?会ってないよ」

 「そっか。…あいつもタイミング悪いな」


 早速レオからヴィンセントの名前が出てきて心が乱れる。


 (会いに来てくれてたんだ)


 会いに来てくれて嬉しい反面、ちゃんと話を出来るのかという不安もある。誰か私の代わりにヴィンセントと話し合いをして仲直りして欲しい、なんて現実逃避までしてしまう。


 そういえば…と昨日の事を思い出す。


 「レオ、昨日剣術の授業の時大丈夫だった?」


 リリーもいるのでぼかして聞いてみる。


 「剣術?ああ、ヴィンセントとの稽古の事?あいつ強くて中々焦ったよ。また対戦してみたいな」

 「……?そうなんだ?」


 思っていたのと違う答えが返ってきた。レオは何やら楽しそうだ。2人が喧嘩しているように見えたのは気の所為だったのかな、と胸を撫で下ろす。心配が一つ減ってほっとした。




 お昼時間、私は意を決してヴィンセントに会いに行こうと急いで教室を出た。


 なのに。


 「あいつならどこか行ったよ。今日朝からバタバタしてるんだよな」

 「……そうなんだ」


 ヴィンセントの友達のアロンに不在通告をされて、出端をくじかれてしまった。


 「ニーナちゃん来てたって言っておくね」

 「ありがとう」


 どこへ行ったか分からないので、諦めてリリーとレオが行くと言っていた食堂へと向かう。


 「あれっニーナ?さっきヴィンセント様が探しに来てたよ」

 「えっ!」

 「ニーナはヴィンセントのクラスに行ったって伝えたから、入れ違いになったかもな」

 「っ!私もう一回行ってくる」

 「また入れ違いにならない?ヴィンセントも違う食堂に食べに行ったかもしれないし、ニーナもお昼食べ損ねるぞ」

 「そうだね…」


 会おうと思った勢いのまま、仲直りまでしたかった。


 ヴィンセントも私を探しているという事は、私と同じで仲直りしたいと思ってくれているのだろうか。


 「ニーナ、ヴィンセント様もニーナに会いたそうだったし、放課後また行ってみたら?」

 「うん、そうしてみる」


 入れ違いになって少し気持ちの落ちた私をリリーが励ましてくれた。今度ヴィンセント様を紹介してね、と言うリリー。私も是非紹介したい。その為にも早く仲直りしなくては、と思う。




 結局、ヴィンセントに会えないまま放課後になってしまった。

 私は選択授業がない日だが、ヴィンセントは体術の授業がある日だ。ヴィンセントの授業終わりに馬車に向かう所を掴まえようと画策する。


 もうすぐ試験があるし、と私は図書館で勉強して待つ事にした。図書館は教室練とは別棟で建てられており、自主学習も出来るよう広くスペースが設けられていた。


 1階にある勉強スペースに座り教科書やノート、筆記具を取り出す。ふとペンケースとペンに目が留まる。ヴィンセントがプレゼントしてくれた彼の瞳の色と同じものだ。


 (あの時のデート、楽しかったな……)


 喧嘩をしてからというものの、何かにつけてヴィンセントの事と結びつけて思い出してしまう。私は相当重症だ。




 何とか勉強を始め、授業時間もあと少しというところで息抜きをしようと立ち上がる。図書館の最上階である4階へと上がり、ふと声のする窓の外へ目をやった。


 (あっ)


 窓からはグラウンドが見え、そこでは体術の授業が行われていた。剣術と同じく男の人ばかり大勢いる。ヴィンセントの黒髪は目立つ為、一目で彼の居場所が分かった。


 (ヴィンセント…)


 昨日も剣術の授業の際に会っているのに、喧嘩をしているからかもう何日も会っていない気分だ。姿を見ただけで何故か胸がきゅっと切なくなる。


 無意識に目で追いかけていると、不意にヴィンセントが顔を上げて……私は思わずしゃがみ込んでしまった。


 (今……)


 (目が合わなかった!?)


 図書館からグラウンドまでは通路を挟んでいる為近いわけでは無い。なのでヴィンセントが私だと認識出来たのかどうかは分からない。それなのに…胸がドキドキする。


 (心臓が…壊れそう……)


 しばらくしゃがみ込んでいたが、授業終了のチャイム音が響いた。


 (大変!急がなきゃ!)


 急いで帰り支度を済ませて、馬車への通り道である教室練を進むと見知った人が目の前にいた。


 (……レイラ!)


 こんな時になんで、と自分の運の無さを恨む。今朝見た夢が頭をよぎる。正夢になんかにしたくない。


 向こうはこちらに気付いていないので、今の内に何とか回避したい。でも、そうすると今度はヴィンセントを待ち伏せ出来なくなりそうだ。


 (どうしよう……)


 この状況に混乱していると、突然後ろから誰かに口を塞がれそのまま近くの教室へ引き込まれた。


 (誰!?)


 「ニーナ」


 耳元に囁かれる。この声は、


 (ヴィンセント!)


 「ごめん、ちょっとだけじっとしてて」


 私はコクコクと頷いた。後ろから私を抱きしめる形で口を塞がれている為、顔は見えない。けれど確かにヴィンセントの声だっだ。


 「もう…どこに行かれたのかしら」


 廊下でレイラの声が聞こえ、パタパタと走る音が遠くなっていく。


 音が聞こえなくなると、ヴィンセントは抱きしめている手にぎゅっと力を込めた。


 「……ニーナ、やっと会えた」



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