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それぞれの想い

 グラウンド10周を俺もレオも無言で走りきる。


 「つかれたー!」


 先に口を開いたのはレオだ。もういつもの調子に戻っている。授業終わりに長距離での走り込みなんて疲労困憊だ。お陰で余計な事を考えないで済む。


 「レオ…ごめん」

 「…いいよ、俺も煽ったからな」


 レオは何というか大人だ。ニーナが頼るのも分かる。


 「で、何で練習止めろなんて言ったんだ?」

 「お前と練習している事も聞いてなかったし、俺を頼ってくれないのも悔しかった」

 「それだけ?」

 「……このままお前と練習してて、お前の事を好きになられたら困る」


 レオの顔が驚愕する。


 「……それは…同じ舞台に立たせて貰えて光栄だけど、俺とニーナはお互いにそういう感情持ってないな」

 「これからそうなるかもしれないだろ」

 「向こうは俺の事全く意識してないけどな」


 そうなのか。割と人の気持ちを読み取って上手く立ち回ってきた筈なのに、ニーナの事になるとよく分からない。


 「ニーナを信用してあげたら?今日落ち込んでて可哀想だったよ」

 「ああ」

 「ニーナには婚約してから最近までお前と話した事も無かったって聞いてたけど、ヴィンセントはニーナの事好きなんだな」


 レオは揶揄い顔で聞いてくる。


 ニーナの事が好き…か。正直、12歳で婚約者として紹介された時はどうでもよかったし、結婚なんて義務だと思っていた。けど…


 「学園で再会した時、ニーナは何でかずぶ濡れになってて乾かしてあげたんだ。その時に笑顔でお礼を言われて、その笑顔を見た時から…好きなんだと思う」

 「………」

 「レオ?」

 「聞いたのは俺なんだけど、そんな素直に返されると恥ずかしい」

 「おい!」


 ははっとレオが笑う。


 「本人にもそう言ってあげたらいいのに」

 「…全然話してなかったのに、いきなり好きになりましたって言われても怖いだろ」

 「うーん、どうだろうな」

 「今はまだ時期じゃないかな」

 「そっか」


 んー、と2人で伸びをして立ち上がる。


 「そろそろ帰るか」

 「そうだな。一緒に帰る?うちの馬車で送るよ」

 「前の約束、果たしてくれるんだ?」


 レオとは門の前で待ち合わせた。着替えを終えた俺たちは落ち合う。


 「ヴェルディ伯爵邸でよかった?」

 「…俺、貴族だって言ってた?」

 「言ってない。この学園に通ってる貴族の名前は把握してたつもりなんだけど、違ってた?」

 「何その特技。…そこでいいよ、よろしく」


 つくづくすごい奴だな、と言われたが、俺からしたらレオの方がすごい奴だ。


 「ちょうど話しておきたい事があったんだ」


 学園では話しにくい事で、と真剣な顔つきでレオが話を切り出した。


 「さっき、ニーナがずぶ濡れだったって言ってたよな。多分嫌がらせされてるぞ」

 「えっ?」

 「俺も1回ずぶ濡れになった時に遭遇してるんだ。練習を始めた経緯は、水を掛けられても自分で乾かせるようになる為だしな」


 嫌がらせをされてるなんて全然気付かなかった。ずぶ濡れになってたのはその所為だったのか。怒りが湧き上がる。


 「誰が、何のために」

 「…推測だからまだ表沙汰にするなよ。前に、レイラ嬢に絡まれて『ヴィンセントとの婚約を辞退しろ』って言われたらしい」

 「じゃあそいつが」

 「いや、水を掛けた犯人を見てないから確証は無い」


 何でニーナがそんな目に。


 ニーナに絡んできたというレイラ嬢は親子で苦手な相手だ。父親に付き添っていったパーティーなんかで会うと、必ず寄ってきてレイラ嬢とお似合いだなんだと言って勧めてくる。レイラ嬢も自分の父親の言う事が当然だと言うかのように振る舞ってきて迷惑だ。


 レイラ嬢の父親は王家との関わりを持ちたいのだろう。王家に仕えている侯爵家(うち)と懇意にしたいという魂胆が見える。


 「即刻犯人を捕まえたいな」

 「いつもニーナが1人の時を狙ってるみたいなんだよな」

 「ニーナに護衛をつけたいくらいだ」

 「…それはニーナが嫌がるだろうな」

 「まあ、そうだろうね」


 俺に嫌がらせをされている事を言わない事自体、俺に心配をかけたくないとでも思っているからだろうし、自分で何とかするつもりなんだろう。何とか目立たない様に守ってやりたい。


 「いい案が浮かばないな」

 「現行犯で捕まえるしかないか」

 「それ、近くにいてなきゃ難しいよな」

 「……そうだな」


 「何か思いついたら教えてほしい」そう言ってレオと別れた。この短時間でレオはニーナの事をよく理解していて信頼できる友人だと認識が変わった。嫉妬でニーナには一方的な事を言ってしまったと、今更ながらに後悔しかない。


 (早くニーナに会いたいな)




―――――




――少し時間を遡り剣術の授業が終わった頃


 (ヴィンセントとレオ、喧嘩しているようにみえた)


 遠巻きに見ていただけなので詳細は全く分からなかった。練習用の刀剣は木製とはいえ作りはしっかりとしている。2人共怪我をしていないか心配だ。


 (私がレオと魔法の練習をしている所為で、ヴィンセントとレオまで喧嘩しているのなら嫌だな)


 はぁ、と溜息を吐く。


 「あら、今日はお一人なのね」

 「………」


 今1番会いたくない相手、レイラに会ってしまった。気持ちが落ちている為やり合う気力も無い。


 「この前、ガーデンパーティーでヴィンセント様とご一緒しましたのよ。貴女は誘われていらっしゃらないのね」


 社交デビューは16〜18歳頃に行う為、ニーナ達が行く事ができるのは昼間に行うパーティーに誰かの同伴でいくものだ。


 元々()()()は社交が得意では無かった事と、そういう場にはニーナは極力行かなくてもいいとお母様が言ってくれている事とで、最近はパーティーというものがある事も頭になかった。


 「ヴィンセント様ととても楽しい時間を過ごしましたわ。周りの皆様も私たちをお似合いだと仰ってくださって……」


 レイラが熟々(つらつら)と語ってくる。ヴィンセントとレイラは仲が良いのだろうか。


 前にヴィンセントから『レイラにはあまり関わって欲しくない』と言われたのは何でなのか知りたい。


 「魔力の高い者同士、話も弾みますのよ。ヴィンセント様はパーティーでいつも……」


 ヴィンセントがパーティーに行っている事など知らなかった。勿論私に言う必要は無いんだけど…。レイラも先程からヴィンセントヴィンセントと言ってきて、モヤモヤする。

 

 「そういう訳ですから、ヴィンセント様の隣に相応しいのは私ですわ。早くお立場を理解して下さいません?」

 「……ご忠告どうも」


 もうこれ以上、レイラの口からヴィンセントの事を聞きたく無い。レイラの元を足早に去る。


 (ヴィンセントは私の知らない所でレイラと会ってたりするんだ)


 パーティーには大勢の人が参加している筈だ。レイラに会う事もあるだろう。ニーナだって魔法の練習をしている事をヴィンセントに伝えていなかった。他に秘密にしている事もある。なのに…


 (ヴィンセントの事は知っておきたいと思うなんて、我儘よね)


 レイラとお似合いだと言われて、レイラからもアプローチされたらヴィンセントはどうするのだろうか。ヴィンセントの隣にレイラがいる事を想像するとよく分からない悲しみに襲われる。


 (胸が…苦しい……)


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