人生初めてのデートは 2
雑貨屋さんを後にし、ランチしようという事になった。ヴィンセントの知り合いがやっているというレストランに連れて行ってもらう。少し小高いところに位置したレストランもやはりお洒落で絵になるお店だった。
「こちらへどうぞ。お待ちしておりました」
案内されたのは、1つ1つ独立したテラス席で街が一望出来る場所だった。
「わぁっすごい。あんな遠くまで街が見渡せる!」
身を乗り出して景色を一望する。やってしまった、と思った時には遅かった。ヴィンセントはくくっと笑って私を見ていた。
「ごめんなさい、はしゃぎ過ぎだよね。ちょっと大人しくしてます」
「なんで?そのままでいいよ」
ヴィンセントはそう言ってくれるけど、そのままでいいなんて甘やかしすぎじゃないだろうか。小さい子でも静かにしてなさいと叱られそうなのに。もう少し貴族令嬢らしくお淑やかにしなくては、と思う。
運ばれて来たお料理も美味しいものばかりだった。前の世界では、お昼は大抵コンビニのおにぎりと唐揚げが定番だったのだ。こんな贅沢できて幸せ過ぎる、ありがとうございます。誰に言うでもなく感謝する。
ふとニーナの事が頭によぎる。あっちの世界で不自由していないだろうか。
「本当に大人しくなったな。大丈夫?疲れた?」
(いけない、考え事をして黙っているとヴィンセントにも心配かけちゃう)
「ううん。お料理がどれも美味しくて、幸せだなぁと思って」
「そう、気に入ってもらえてよかった。街の方で食べ歩きしても楽しいんだ。今度そっちも行ってみよう」
「うんっ食べ歩きも楽しそうだね」
ヴィンセントといるのが楽しくて、私もつい『今度』の話をしてしまう。婚約解消の話をしたかったはずなのに……
食べ終わって、先程買ったペンをプレゼントし合う事になった。ヴィンセントから受け取った袋を開けるとペン以外にも何かが出てきた。
「わっペンケースも入ってる。ありがとう!どちらも大切にするね」
「どういたしまして。俺も大切にする。ありがとう」
「本当ヴィンセントの言った通り、プレゼントされると嬉しいね」
そう言って笑い合う。
お店を後にする時、お会計をと言うともう払ってあるからと言われてしまった。いつの間に払ったのか、彼の実年齢プラス10歳なんじゃないかと思う行動には甘えさせてもらった。
ランチの後は魔法博物館へと向かった。歴史を感じる建物にわくわくする。博物館には子連れの親子やデートらしき人達も沢山いた。
「はぐれないように」
「ひゃっ」
ヴィンセントが私の手を取り繋ぐ。私はびっくりして変な声が出てしまった。はぐれないように、はぐれないように、それは分かるけど、これは……
「これは……ちょっと………恥ずかしいかも」
「……慣れて」
(うう、慣れる気がしない)
繋がれている手が温かくなる。ドキドキしてヴィンセントの顔が見れない。彼は今どんな顔をしているのか。意識している私を変に思っていませんように。
意識を博物館へ、と思い中に入ると大きいモニュメントが出迎えていた。その隣には大きなジオラマが……
「――始まりの神、全ての創造の神」
プレートに目をやる。
「創造の神が最初に作った『人々』は思いつく限りの全ての魔法を操る事ができた、と言われているんだ」
「思いつく限りの全ての魔法?」
「そう、今俺たちが使ってる魔法は暮らしていく上で少し便利になるようなものくらいで、魔力も当時に比べると少ないから使える範囲も狭い」
うんうん、と頷く。
「対して、最初に作られた『人々』は天候を操ったり、過去未来と時間を行き来したり、人の心をも簡単に操れた。人類が栄えていくに連れ、人々の魔力は弱くなっていったけど、時折り当初のような力を持つ者が現れたんだ。同時に世界を自分の思うようにしたいという身勝手な思考を持つ者も現れた。その者がその力を手に入れた時、どうなったと思う?」
私は首を傾げる。
「過去へ遡って未来を変え、人の心を操り、世の中を混沌に落ち入らせて人類は滅亡寸前までいったと言われている」
その部分のジオラマを指差しながら説明してくれる。
「その後はどうなったの?」
「混沌の原因となった者を倒して世の中は元に戻ったんだ。で、今の世界がある」
「それが実際にあったと思うと怖いね…」
「だな。歴史上では度々こういう事が起こっていると記されていて、近々で強大な力を持つ者が現れたのは今から200年程前かな。その時の文献も残っているんだ」
「えっ」
そんな事が度々起こっていて、しかも200年前にもその強大な力を持った人がいた事にもびっくりだ。
「その時は力を持つ者自身が覇者になる気が無かった為、その力を手に入れようと周りで争いが起こったくらいで済んだんだ」
「望んでないのに、力を持っているからって周りで争いが起きるのは辛いね」
「うん。その時の力を持つ者は、生涯王家での保護下にあったんだって。大きな声では言えないけど監視の下、幽閉されていたって事だな」
「そうなんだ……」
それは、ニーナがこのままこの世界にいていたらそうなった可能性があるという事で…かなり重たい事実だ。
(本当に入れ替わってよかった)
そう思わずにはいられなかった。