人生初めてのデートは 1
リリーには休み明けにデートどうだったか聞かせてね、と言われ学校を後にした。家に帰ってお母様にも報告する。
「お母様、明日ヴィンセントと出掛ける事になりました」
お母様は両手を口に当ててびっくりする。驚き方もとても上品だ。
「ニーナ。貴方がいいのであればそれは嬉しい事だわ。でも、もし嫌であれば…無理して行かなくていいのよ。私からもお父様に婚約解消について進言するから言ってね」
お母様はいつも私の気持ちを優先してくれる。それが嬉しい。
「はい。私どうしたらいいのかよく分からなくて、ヴィンセントと話をしてみたいと思ったんです。明日行ってきますね」
「ええそうね、それがいいわ。では明日の準備をしましょうか」
そう言ってお母様は明日着ていく服選びを一緒にしてくれた。口ではああ言っていたけど『娘の初めてのデート』というシチュエーションにウキウキしている様子だ。私もせっかくだからお出掛け自体は楽しもうと思う。
「こんにちは。ニーナを迎えに来ました」
「こんにちは。今日はニーナをよろしくお願いしますね」
11時ぴったりに玄関からヴィンセントとお母様の声が聞こえる。
「お待たせしました。今日はよろしくお願いします」
「ニーナ、制服じゃない格好もかわいいね、似合ってるよ」
赤面しそうなセリフを言ってくる。相変わらずヴィンセントのキャラが分からない。無関心な人だと思っていただけにびっくりだ。
「っありがとう…ございます。ヴィンセントも格好いいですね」
「あはは!ありがとう。また敬語になってるよ。行こうか」
お世辞でなく本当格好いい。私はお母様に行ってきますと告げると足早に外へと出た。
「今日はどこに行くか決めてるの?」
「ニーナは行きたいところある?」
「ううん、特には」
「じゃあ俺が行きたいところに付き合ってもらおうかな」
そう言いながらエスコートしてくれる。ヴィンセントは馬車へ乗り込むと私の隣へと座った。
「距離、近くない?」
「そう?」
ヴィンセントと隣り合っている側が熱い。少しでも動くと体に触れてしまいそうなこの距離はどうしたらいいのか。一人で絶対に動いてはいけないゲームを開催する。
「そういえば、昨日は火傷を治してくれてありがとう。痕もなく綺麗に治ってたよ」
「そう、よかった」
「治癒の魔法もそうだけど、ヴィンセントは習ってない魔法も使えるの?」
気を紛らわす為にヴィンセントへ聞きたい事を聞いてみる。
「魔法にもよるけど、習ってなくてもイメージしたら使えたりするかな」
ニーナと一緒だ。
「ニーナも以前はそうだったんじゃない?」
「そう…だね。使えてたね」
「また使えるようになりたい?」
「うん、なりたいな。昨日のヴィンセントの魔法も、授業でしていた魔法も感動しちゃった。私も魔法で誰かを感動させられるようになれたらいいな」
「そっか。ニーナは魔法が好きなんだな」
『好き』かどうか……魔法を習うのも、失敗する事もあるけど使うのも、誰かが使ってるのを見ることも楽しい。ニーナは魔法を敬遠してたけど、私は……
「うんっ好き!」
「っ!」
私の返事にヴィンセントは口に手を当てて固まってしまった。
「ヴィンセント?」
「……いや、そうだな。ニーナは博物館に行ったことある?」
「博物館?」
「そう、魔法博物館。魔法の歴史のジオラマが展示されていて、小さい頃に行った時割と面白かった記憶がある」
「魔法の歴史、ジオラマ、楽しそう!」
「じゃあ午後からそこに行ってみようか」
この世界の歴史に興味があるが、学園ではまだ歴史の授業はしていない。
(そんな楽しそうな場所、是非行ってみたい!けど)
「いいの?行きたいところがあったんじゃ……」
「俺のはまた今度でもいい。時期尚早かもしれないし。今日はそっちへ行こう」
(また今度、があるんだ)
そして時期尚早とは一体なんだろうか。
「ありがとう。楽しみ!」
そんな事を話していると、あっという間に街へと着いた。
「どうぞ」
ヴィンセントが手を引いてくれて馬車から降りる。こんなところもスマートで格好良すぎて困る。
降りた場所は商店街になるのだろうか。花屋やパン屋等色んなお店が建ち並んでいて、お洒落なその外観は私には外国に来ているようで見ているだけでもわくわくする。
「わぁ!」
「街へはあまり来ない?そんなに喜んでくれたら来た甲斐があるな」
ついテンションが上がってしまった。
(ここに住んでいる人としてこの反応は不自然だったかも)
いつもと違う場所って楽しいよね、と下手な言い訳をしてその場はやり過ごした。
「あっここだ」
「ここ?」
連れてきてくれたお店の外観もかなり可愛い。なんのお店だろうか。ヴィンセントが扉を開けてくれて中に入る。
「わぁ!」
またもやテンションが上がってしまった。感動というのは隠すのが難しい。店内も可愛く内装されていて、文具やハンカチ、アクセサリー等の日用品が並んでいる。女の子が喜びそうな雑貨屋さんといった感じだ。
「か、可愛い」
「気に入った?ここ今流行ってるらしいよ」
まさか私のためにここに来てくれたのだろうか。嬉しすぎる。ヴィンセントは文具を見てくると言ったので、私も一緒に文具売り場の方へと行く。
ニーナは落ち着いた色を好んでいたようで、ペンとペンケースはモノトーンの物を使っていた。いやいいんだけど、もうちょっと他の色も欲しい。
(うーん…)
パステルカラーのピンクかブルーのペンで迷う。
「迷ってるの?」
「うん、どっちがいいかなって」
「…俺はこっちかな」
そう言ってブルーの方を指差す。
「じゃあこっちにしようかな」
「いいの?」
「うん、綺麗な色で…あっ!ヴィンセントの瞳の色も一緒の色だね!」
「うん…だね。一緒でいいの?」
「うん?ヴィンセントの瞳の色も綺麗だよね」
「…そう、ありがとう」
ヴィンセントは照れてるのか口に手を当ててお礼を言う。照れてる姿も格好良い……
「ヴィンセントも何か買うの?」
「俺もペンを買おうかな。ニーナのも一緒に買うよ」
「えっ?自分で買うよ?」
まさかの奢りになりそうでどうしていいか分からない。断ったら失礼だっただろうか。
「うーん。じゃあニーナのを俺が買うから、俺のをニーナが買ってプレゼントしてくれる?」
「えっ?うん、いいよ。けどそれ意味あるのかな?」
「プレゼントされたら嬉しくない?」
確かに、とその案を飲む事にする。ヴィンセントはニーナの色を、とブラウン系のペンを選んでいた。深く考えると何だか恥ずかしいので無になって購入する事にした。