散々のち、デートの約束
「おはようニーナ。顔赤いよ。走ってきたの?」
「おはようリリー……顔、赤くなってる?」
「うん、赤いね」
「そっかぁ…」
ヴィンセントにこの顔を見られてないだろうか。意識してると思われてたら恥ずかしい。いや、意識してるんだけど。
「大丈夫?熱でもある?」
「ありがとう。大丈夫。元気元気!」
このままヴィンセントとあんな距離感で関わっていたら、絶対好きになる自信がある。なら、そうならないようにあまり関わらないようにしなくては。婚約解消になった時に受けるショックは少ない方がいい。
「2人共おはよ」
「おはよう、レオ」
「ニーナは何深刻そうな顔してるんだよ」
「おはよ、レオ。世の中を自分の思うよう動かすにはどうしたらいいのかなって思って」
「深刻でなく物騒な話だったな」
「ニーナ、体調が良くないんだったら早めに言ってね。この前みたいに倒れたら心配だよ」
優しいリリーに、物騒な思考をしているイコール体調が良くない、と心配されてしまった。
「ありがとうリリー」
リリーのためにも一旦その事を考えるのはやめよう。そう思った。
今日の魔法の実習は火の起こし方だ。火を起こしたい部分の空気中の水分を減らし熱を1点に集め…要するに虫眼鏡で太陽光を集めて紙を燃やす感じと似ていると思う。
先生はいとも簡単に指先から出した火でロウソクを灯す。
(火のイメージ、火のイメージ……)
私も人差し指を立ててイメージしてみる。すると、握った手の平がじわじわと熱くなった。
(えっ何!?)
そう思った時には手の平からボワっと炎が上がって燃えていた。
「熱っ!」
「ニーナ!」
「きゃあっ」
周りにいた皆が悲鳴を上げる。
「ニーナさん!」
先生が慌てて駆けつけ魔法で水をかけた。炎は消えたが私の手の平はしっかりと火傷をしてしまった。
「大丈夫?魔力がコントロール出来ていなかったようですね。ちゃんと集中して行わないと大怪我をする事になるわよ。保健室に行って手当てしてもらいなさい」
「はい……」
軽く叱られてへこむ。集中力が足りて無かったんだろうか。
「ニーナ大丈夫?保健室着いて行こうか?」
「ありがとうリリー、1人で大丈夫。行ってくるね」
(ニーナだったら軽々出来たんだろうな)
習い始めとはいえ失敗するのは悔しいし落ち込んでしまう。とぼとぼ保健室へ向かっていると、中庭で授業を受けている生徒達が目に入った。
――ヴィンセントもいる。
生徒達は両手でキラキラと水の粒を発生させ、それを空高く放ち虹を発生させていた。
(わあ!キレイ…)
落ち込んでいたけれど、その光景に癒される。
(すごい!いつかこんな魔法を使ってみたい)
「何堂々とさぼってんの?」
「えっ」
ヴィンセントの声にはっとする。いつの間にかヴィンセントは私の側まで来ていた。
「違うよ。手を火傷しちゃって、保健室へ行こうと……」
「火傷したの?!見せて」
「きゃっ」
ヴィンセントに腕を掴まれた事にびっくりして軽く悲鳴を上げてしまった。が、ヴィンセントはそんな事にもお構い無しに私の手を見ている。
「……俺が治すからじっとしてて」
「えっ」
ヴィンセントはそう言うと、私の手の平に重なるよう自分の手をかざした。
温かい光が手を包むと同時に痛みが引いていく。
「すごい…」
治癒が終わった手の平をひらひらと高く上げて見る。
「ありがとう!全然痛くなくなったよ。こんな魔法使えるなんてすごいね!」
今のといい先程のといい、魔法は本当にすごい。元いた世界は魔法が無かったから、目の前で繰り広げられる魔法には毎回感動しかない。
「いや、どういたしまして」
そんな私にヴィンセントは笑って返事をした。そして何か考えるよう顎に手を当てて口を開く。
「ニーナ」
「うん?」
「明日の休みって予定ある?」
「予定?ない、けど……」
「じゃあデートしよう」
「デート!?」
声がひっくり返ってしまう。
「一度ゆっくり話もしたいし」
「………」
今朝、あまり関わらないようにしようと思ったばかりなのに。でも確かにゆっくり話をする時間を設けて、円満に婚約解消をお願いするいい機会かもしれない。
「分かった。明日お願いします」
「了解。明日11時に迎えに行くね」
「うん」
「ニーナ!遅かったね。手は大丈夫?」
実習場所に戻るとリリーが駆け寄って来てくれた。
「リリー、私明日ヴィンセントとデートする事になっちゃった」
「えっなんでそんな事に?保健室に行ってたんじゃないの?」
「なんでだろう」
その後の昼休みはリリーから質問攻めにあったのだった。