プロローグ
重い瞼を開けると、眩しい光が差し込む。いつもの新菜の部屋のそれとは違う天井をボーッと見つめながら、働かない頭でここは何処だろうと考えてみた。
(…………私、いつものように夢を見て…それで……………)
今度は重い身体をゆっくりと起こし、自分がいる部屋の様子をぐるっと見渡してみる事にした。
「っ!」
頭は相変わらず働かないが、それでも、この視覚からの情報で、夢の中で望んだ事が起こったのだという考えが巡った。
(鏡!鏡がたしか部屋のあっちの方に…)
とにかく、自分の姿を確認してみたい。ベッドから降りて、力が入らずフラフラの足取りで鏡のあるだろう方へと向かう。思った通りの位置にあった鏡に自分の姿が写り込むと、ハッと息を飲んだ。
鏡に写った自分を見て、驚愕してしまう。そうなると分かっていた事であるにも関わらず。
鏡に写ったにいなは、ストロベリーブロンドの髪に同じ色の瞳をした自分を見て呟いた。
「本当に………入れ替わったんだ………」
ーーーーー
その夢をみるようになったのは、始まりはいつだったのか。物心ついた時には、その夢しか見るとこが無かった新菜は不思議に思う事がなかった。
(今日のニーナは元気かな?今日は何をするのかな?)
そんな事を思いながら、まるで映画を観ているかのようにワクワクと心を躍らせていた。
(わぁステキなドレス!ニーナお姫様みたい。きっと今日はパーティがあるのね!)
夢の中のニーナはこっちの世界とは違う、絵本でみるお城に住むお姫様のような暮らしをしていた。
(ステキね…)
ニーナが映る鏡を見ながらうっとりしてしまう。髪の色、瞳の色が違うけれど、ニーナと新菜は似ているのだ。自分がドレスを着たらこんな風になるのかなぁ、と嬉しくなる。けれど、そんな新菜の気持ちとは裏腹にニーナは沈んだ顔をしていた。
ニーナはこの前の誕生日で12歳になったと言っていた。新菜と同い年だ。この日は、父親に連れられてガーデンパーティに参加していた。父親の仕事関係で付き合いある貴族たちとのパーティで、ニーナの他にも貴族の令息や令嬢達も参加していた。
ニーナは内気な性格で、こういった人の多く集まる場所は苦手な様だった。ニーナに父親から声が掛かる。
「ニーナ、こちらへおいで」
ニーナは軽く溜息を吐くと父親の元へ向かった。父親は談笑していた相手にニーナを紹介するのだろう。
「こちらが娘のニーナです」
「…ニーナ・フローレスと申します」
目の前には、黒髪に碧眼の親子であろう男性と男の子が2人。吸い込まれる様な透き通ったような碧い瞳をした男の子に新菜は目を奪われた。男性はニーナに笑顔を向けた。
「アルベルト・ランフォードだ。よろしくニーナ」
ランフォードと言えば、この国の有力な貴族である侯爵家の名前だ。ニーナが応える。
「お目にかかれて光栄です」
侯爵はニーナの返事に頷くと、隣の男の子へ促す様に一瞥した。男の子がニーナを真っ直ぐに見つめ口を開いた。
「ヴィンセント・ランフォードです。よろしく」
ニーナはヴィンセントにも礼を返そうとした時、父親が口を開いた。
「ニーナ、お前の婚約者になる方だよ」