魔女が残した呪い
これは幼い頃、僕と先輩の関わり深い人物との忘れられない会話。
「なあ継春。君にとっての名探偵ってのはどんな存在かな?」
「そりゃぁどんな事件も即座に解決する天才、とか」
歳は30後半にも関わらずシワひとつなく、服が弾けんばかりの豊満な胸を持つ女性。
所謂『美魔女』という種族の化物だった。
僕の叔母であり、先輩にとっては探偵のいろはを教えてくれた師匠。
僕は叔母を『魔女ババア』と呼んだ。
ある一点に関しては絶対に分かり合えなかったから。
「名探偵ってのはさ、事件を引き付ける力を持っているもんだ」
小説、漫画では探偵が行く先々で事件が起きる。
叔母は『歩く死神』と呼ばれるそれを『名探偵の条件』と言う。
探偵は山ほど居るから事件をものにする早さが重要。
どこの世界でも早い者勝ちだと。
「残念なことながら私は持ち合わせていなかったよ。だけどあの子の『歩く死神』は本物さ。弟子にしてから事件がひっきりなし。おかげで私なんかを世間様は『名探偵』と呼んでいる」
「アンタは私欲の為に無垢な女の子を利用しているわけだ」
「ああそうさ。アレは私の仕事道具だ。私が見つけて、私が育てた」
だから叔母が嫌いだった。
この頃、僕の中に先輩への恋心があったか憶えてはいないけれど先輩を『歩く死神』と呼び探偵業の道具扱いしているこの女がどうしようもなく嫌いだった。
「もし仮に私になにかがあって、君たちの前から去る時が来たとしたら君があの子を名探偵にしてあげなさい。じゃなきゃ宝の持ち腐れだ」
「嫌だね。僕は普通の女の子として生きていって欲しい」
「はは、それは無理な願いだよ。あの子は名探偵になるべくして生まれたんだから」
「でも好きな人が出来たりして、本人が探偵になることを諦めたら別でしょう」
「それこそあの子にとっての不幸じゃないか。もしいずれ誰かを好きになったとしよう。でもその相手は危険だらけの人生だ。並の覚悟じゃ命はないね」
「どうして言い切れるです?」
「そりゃそうだろ。死神がこよなく愛してる娘を奪い取ろうとしてるんだからさ」
叔母の戯言、子供に読み聞かせる怪談みたく思っていた。
だから『そんなわけのわからないものから必ず自由にしてみせる』と心に強く刻んだ。
叔母への反骨精神か、少年の正義感か。
あの頃の僕はそれがどれほど難しいことか分かっていなかったのだ。




