鈍感男子の猛攻
家に帰ると疲れがどっと来た。なにせあんなことがあったのだ。
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「だから今、加藤さんに会えてこうやってお喋りしてるの凄く幸せです。」
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いくら人に無頓着な颯馬もあのようなことを言われてしまったら、頭の中から離せるわけが無い。
自分は覚えてないけど、あんな熱心に語ってくれていた古賀の姿はとても生き生きとしていた。
その姿を思い出すとまた顔が赤くなった。
翌日、颯馬が教室に入ると何もなかったかのように姿勢を正し、参考書に目を通している古賀がいた。
「肝が据わってんなぁ...」と感じ、自分も今日の授業の準備をしボーッとしていると、
「おはようございます」と何処か聞き覚えのある声が聞こえた。
声の方向を見ると、古賀がいた。
「随分すんなり挨拶するんだな...」と漏らすと、「幼馴染ですから」と颯馬にだけ聞こえるような声量で
その言葉を放った。颯馬は昨日の事を思い出し、顔に熱が昇るのをなんとか阻止した。
「信じてくれました?」と言うので「あんな熱く語られたらな」と返す。
古賀は満足したかのように、自分の席に戻ろうとして振り返った。
「今日一緒に帰ります?」と耳の近くで囁かれたので、驚きをなんとか隠したが、
そのことはバレており古賀はくすくすと笑って席に戻った。
「なんなんだよアイツ...」と呆れと羞恥が混じった声で漏らした。
放課後、荷物をまとめていると古賀がクラスの男女に帰ろうと誘われている姿が見えた。
(人気者は大変だなぁ...)と他人事のように心の中で言うと、
「今日は予定があるんだよねぇ」と断りととるのが妥当な返答が皆に響いた。
萎れるクラスメイトに手を振り送ったところで古賀がこちらに振り向く。
「待っててくれたんですね」と言われたので言葉を詰まらせた。
別に人と帰るのが嫌なのではなく、相手が『古賀結菜』だからである。
ついさっき断られたクラスメイトに目撃でもされたら……と考えると非常に恐ろしい。
女子の情報網は恐ろしいと聞いたことがある。
もし女子にでもバレたら即クラスに広まり……後は考えたくない。
と様々なことを考えていると、
「私と帰るのは嫌ですか…」と儚さを纏った悲しい声が聞こえてきた。
(これを断ったら俺の中の男が死ぬ)と咄嗟に思い、
「そんなことないよ。俺は嫌でもなんでもないよ。むしろ嬉しいよ」
と言って微笑んでみせた。
多分今の顔は酷いことになってると思う。
普段人に向かって微笑むなんてないしそもそも笑顔をつくるのも下手なんだ。
(俺の顔で不快にさせたか…)
と微笑むと同時に閉じた瞼を開くと、
古賀は満面の笑みでこちらを見ていた。
俺はその笑みを見て疑問が浮かんだがあえてそれは飲み込んだ。
分かってはいたが、やはり人の視線が気になる。
古賀は学年1、いや学校1の美貌と性格を兼ね備えている。
別に手を繋いだりなどしてないのに、物凄く恥ずかしい。
そこである疑問が浮かんだ。
「古賀ん家ってこっち方面?」
あまりにも当たり前のことを聞くのを忘れていた。もしこっちじゃなかったら
自分の家の方向に女子を連れてきている最低男だ。
方向が一緒なのを祈りつつ、古賀の言葉を待つ。
古賀は間も置かずに、「一緒ですよ」と微笑んでみせた。
その笑みに安堵したが、近寄ってくる古賀に驚く。
一体何事だと思うと耳元で
「これで明日から一緒に登校できますね」
と囁いた。その瞬間抑えていて熱が音を出しそうな勢いで顔に侵食してきた。
「ふふっ」とその様子を笑われたのを見て、
「毎朝一緒に行くぞ」と命令口調ではあったがやり返した。
呆気にとられた古賀は2秒の間を空け、
「いいですよ」と了承の意を示した。
今度は俺が呆気にとられた。まさかいいと言われるとは考えもしなかった。
「さぁ。早く帰りますよ」と古賀は言っていた。
家に帰り、ベッドで呻き
「負けっぱなしだ...」と落胆してしまった。