第一章⑶予期せぬ出会い、そして初恋。
彼女との再会は、それから二か月後の十月だった。裕と僕は、彼女の学校の学園祭にお邪魔した。なんでも、彼女の所属する文芸部が朗読会をするらしく、チケットを二枚もらった裕が、
「本といえばお前だろ。」
と僕も誘ってくれたのだ。詳細は聞かなかったが、朗読会の会場でもらったパンフレットには、確かに彼女の名前があった。しかし、その朗読会は、僕が想像していたのとは随分と違うものだった。会場となる体育館には椅子ではなくカラフルなクッションが並べられ、柵のようになっていた。そこから二メートルほど離れたところには「保護者用」と書かれたパイプ椅子が並んでいる。この異様な雰囲気に、僕は裕の顔を見た。すると、彼はバツが悪そうに目を逸らした。僕は裏向きでもらったパンフレットを慌てて表に向けた。すると、黄色の裏表紙に隠されていた、可愛らしい動物のイラストで装飾された表紙が出てきた。そこには大きく、カラフルな文字で「おはなしの会」と書いてある。
「本は本でも、絵本ってな。」
僕は、茶目っ気満載な顔でそう言う裕の足を引っかけた。「わっ」という声と共に躓いた裕は、
「何すんだよー。本、好きだろ。」
と眉毛を下げた。
「僕が好きなのは文芸だ。本なら何でも好きって人もいるけど、僕は違う。それに、絵本は苦手なんだ。」
絵本は好きじゃない。
「え、そうなの。俺、本とか読まねーから、お前は本なら何でも好きだと思ってたよ。」
「僕が絵本読んでる姿想像できたわけ?」
「いや、できない。」
「だろうな。」
「頼むよ、付き合ってくれよ。柚さん最後の朗読会なんだって、来年は受験生だから。」
「知らないよ。っていうか、なんで文芸部が絵本の朗読なんだよ。」
「なんかこの学校、幼稚舎もあるらしくってさ、大学には保育科もあるから高校からそういうのに触れる機会を作ってんだってさ。」
「そういうの」とは何なのか。それなら「絵本サークル」とかもっと名前を考えればいいのに。紛らわしい。というか、ネーミング的には完全に間違っている。
「頼むよ。帰るなんて言わないよな?」
「言わないよ。わざわざ来たんだし。ただし、条件がある。」
「な、なに。」
今回は少し短めのお話です。また次回、作者的にすごく気に入っている章なので、お時間の許す時に是非ご覧ください。