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9.呼び出し

 エティサルを医務室に運んでから教室に戻った。

 教師がいなくなったんで授業は自習に変更になった。

 俺たち五人の生徒はそれぞれ思い思いに席に着いて本を広げるなりノートを取るなりしている。

 各自はそれなりに集中しているのだろうけれど、それでも時折こちらをちらりと見る。

 そのたび俺は微妙な居心地の悪さと妙な快感を感じる。


「注目されてるねー」


 隣のサリアンが勉強するフリをしながらこっちにささやく。


「まああんなことしたら当たり前だろうけど。どう気分は?」

「いたたまれなさと優越感」

「へえ? その心は?」

「悪くねえな」


 正直な感想だ。

 いままで馬鹿にされ見下されるだけだった俺はまず人に見てもらえるだけでもうれしかった。

 それが驚嘆まじりの視線ならなおさらだ。

 力を持つってこういうことなんだろうと思う。


「ふうん。それならよかったけど」


 そう言ってサリアンは女子の三人をちらりと見やった。


「よし、それならベティア・スネイズ以外の二人も視野に入れとく? 今なら入れ食い状態だよ多分」

「いやそれはいらない」

「まず一番奥の一人はミーシャマール・レトゥナ。校長の孫娘。トレードマークはあのポニーテール。顔立ちは整っているけど氷像美人と呼ばれるくらい愛想がなくて潔癖傾向。落とすには苦労するだろうね」

「だから落とさんしいらんて」

「その手前はアルハ・マグラット。かわいい系無口なぼんやり娘。情報はそれだけ」

「よかった手短に終わった……」

「次は彼女らのここ数年の生活記録を披露しようと思う」

「終わってなかった……」


 がっくりとうつむきながら、俺は視線をその女子二人に送る。

 サリアンの情報通り二人とも美人さんだ。

 ベティアにはかなわないけどこのクラス結構レベルたっけえな。

 人数はいねえとはいえ。


「――と、大体攻略情報は以上だ。なにか質問は?」

「ねえしそれ以前に聞いてもねえし」

「そう言わずに」

「じゃあ、なんでうちの学校ってこういう方式なんだ?」

「こういう方式?」

「こう、一年、二年って形じゃんくて教室単位っていうか。ミーシャマール? あの人割と年上だろ?」


 逆にアルハとやらは少し年下に見える。


「ああそういうこと」


 眼鏡をきらりと光らせサリアンがうなずいた。

 多分説明はこいつの生きがいなんだろう。キモい。


「それはこの学園の創設目的に関わることだね」

「なんだそれ」

「古代、聖王ゴルジオ・アールゲストールは、大魔法使いマルケシス・レトゥナに命じ各地の災禍魔獣や邪神を封印させた。これは知ってる?」

「知らん」

「まあいいや。いろいろはしょるけどとにかく強い魔物を封印していってできた安全地帯につくられたのがこの国であり街の起源なんだよ。この学園はその安全な状態を持続するための人材育成機関なんだ」


 知らなかった。

 普通にただの名門学園と思っていた。


「生徒の進路は魔物の封印技術と封印の維持管理技術、封印具の盗難に備えての警備戦闘技術なんかを伸ばした方向の先にある。とにかく封印というのがキーワードなんだ」

「それと教室の仕組みに何の関係が」

「そういう育て方をするには横並びの教育方法じゃ追いつかないという考えなんだよ。念入りな調査で適性をあらかじめ突き止めて、封印儀式なら封印儀式専門の教室、維持管理ならその専門の教室、という風に分けて教えたほうが普通にやるより数段早い」

「ふうん……?」


 正直言って半分以上頭から抜けていってるが。

 それでも疑問のしっぽを捕まえて聞く。


「うちの教室は何の専門なんだ?」

「エティサル教室に専門はない」

「え?」

「とにかく各分野の飛びぬけた才能を集めてエリートとしてさらに尖らせていく、そういう教室なんだ」


 つまり、この教室は精鋭中の精鋭集団ってことらしい。

 ってことは、じゃあ……


「エティサルもエリートなのか? あれで?」

「本人には言わない方がいいと思うよ」


 そっか。

 まあ言われなくても言わねえけども。

 そこで会話が途切れて俺は頭の後ろで手を組んだ。

 手元のノートに延々書きつけていた落書きを見下ろしながらつぶやく。


「それにしてもエティサルはどれくらいで復帰するんかね」

「とりあえず半日は動けないんじゃない?」

「ふうむ。やりすぎたな。いやそういうつもりはなかったんだけど」


 ようやくうしろめたさを感じながら口を尖らせた。

 でもしょうがないじゃん。

 やれと言われてやったら勝手に出てきたんだから。

 いやごめんと思ってるのはマジだけど。どうしようもない。


 と。


「……ゼン・タロンはいるかな」


 教室の戸口から俺を呼ぶ声がした。

 見ると、鬱蒼とした髪の……いやなんかそうとしか表現のしようがないんだけど、とにかくそんなもさもさした頭に陰気な顔の男がそこに立っていた。

 服装は教師用のローブ。

 どうやらどこかの先生らしい。


「なにか用っすか?」


 席を立ちながら言うと、その先生は教室の外を示した。


「学長がお呼びだ……悪いがついてきてくれ……」


 ずいぶんと暗い、独り言のようなつぶやきを聞きながら。

 俺はサリアンと顔を見合わせた。

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