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6.また会えた

「ここが今日からお前たちが学ぶ、我がエティサル教室だ」


 入学初日、俺ともう一人の新入生が通されたのは校舎の最上階にある教室の一つだった。

 中は広い。

 すでに三人が机に着いていて、入ってきた俺ともう一人に視線をよこした。

 一人はポニーテールの黒髪女子。もう一人は銀髪をショートにした女子。そして最後の一人が……


「ここはこの学園でも最高レベルのクラスだ。しっかり励めよ。お前たちは特例で入学を許されたが――」

「ベティア!」


 俺はたまらず大きく手を振った。


「ベティア! 受かったよ!」


 手を振られた三人のうちの一人、当のベティアは真顔のまま固まっている。

 あれ?

 うれしすぎてフリーズしたか?


「ベティア、俺だってば。ベティアを追いかけて受験したんだ。合格したよ。また会えてうれしいぜ!」


 踏み出して言うが、それでもベティアは応えない。

 その手から筆記具が落ちてぽとりと音を立てた。

 後ろからぶふっと音がして振り向くと、俺と一緒に教室に入った男子が口を押さえて震えている。

 そして隣の教師、エティサル・ゼフォスは額に青筋を立てて拳を震わせていた。


 エティサルは四十がらみの、似合わない長髪頭の男だった。

 ごつごつした頬骨がなんか気難しそうだし神経質そうでもある。

 正直言ってあんまり好きになれそうもない。


「……ゼン・タロン。今わたしが話していたんだが、それを邪魔をするほどの用事だったのか?」


 言われて俺は考えた。

 なんでそんなこと聞くんだろう。

 聞かないと分からないのかこの人は。


「即答できないのなら最初から横入りするんじゃない!」


 叫ぶなよ怖いなあ。

 変なこと聞く奴が悪いんじゃん。


「いいかゼン・タロン。聞くところによるとお前は筆記試験が零点だったそうだな。完璧な無得点だったと」

「受けてないっすからね」

「…………。とにかく、お前はそれにもかかわらず特例で拾ってもらったということになる。そこのところしっかり覚えておくように」


 もう試験は終わったことなのに何でわざわざ釘刺すのか。

 ホントよく分からん。

 顔をしかめているとエティサルは目を怒らせた。


「立場をわきまえろと言ってるんだ! お前は合格した。一応わたしの教室の名簿にも載った。そうなった以上はわたしの生徒でわたしが責任もってわたしが面倒を見る。だが少しでも舐めた態度を取るようならすぐにでも教室を追い出すからな! 分かったか!」

「うっす! 努力しまっす!」


 背筋を伸ばして敬礼して見せてもエティサルはまだ納得しなかったようで、なにか言いそうになったけれど。

 でもそれより先に教室の入り口から顔を見せた人がいた。


「やってるね」

「学長!」


 現れたのは、背筋のしゃんとした長身の爺さんだった。

 穏やかな目つき。豊かなあご髭。

 教師用のローブを身に着け、その上にさらにえらそげな厚手のマントを羽織っている。


「ど、どうなさいました? なにかわたしの教室に問題でも?」

「いや別にそういうわけじゃない。入学した生徒たちの顔を見て回っているところでね」

「は! そうですか! 御足労いただきありがとうございます!」

「君はいちいち堅いねえ」


 面白そうに髭を撫でて、学長とやらは俺ともう一人の新入生に目を向けた。


「うむ、有望そうな少年たちだ。頑張ってくれたまえ」


 そう言って教室を出ていく。

 と、思ったら、一瞬立ち止まって俺を見て小さく笑みを浮かべた。


「おめでとう」

「?」


 どこかで会ったっけ?

 分からないが、そんな感じのニュアンスだった。

 でも確かに姿には見覚えもあるし声にも聞き覚えがある。

 ええと、あれはたしか……


「ガブズ・レトゥナ学長だ。とても有名でかつ偉い。特別の事情がない限り這いつくばって敬意を表せ」


 エティサルが言うけど、いやそうじゃなくて、もっと最近会ったような……


「あ」


 ようやく思い出した。

 いい服を着ていたんで気づかなかったけど、路地裏で俺に本と石板の鞄をくれた爺さんだった。


「もういいからさっさと席に着け」


 俺は背中を乱暴にどつかれて席に座った。

 隣にはもう一人の入学生が同じく席に着く。


「サリアン・ナート。よろしく」


 名乗った彼を見やると、かなり愉快、といった顔で俺の顔を見ていた。


「さっきのめちゃくちゃ面白かった。後で話でも」

「授業を始める!」


 エティサルが教壇に立つのを合図に、俺たちはようやく口をつぐんだ。

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