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16.屋上の戦い

 俺たちは上へあがる階段へと急いだ。

 忍び寄る禍神が窓を出た後上へと姿を消したからだ。


「相手は忍び寄るというだけあって擬態が得意な災禍魔獣だ。いったん隠れたらどこに潜んでいるか見つけるのは難しい。細心の注意を払って探す必要がある。みんな気を付けて」

「ああ」


 サリアンの言葉にうなずきながら、俺が考えていたのは少し別のことだった。

 そしてその考えを勘も鋭く嗅ぎつけたのはやっぱりサリアンだった。


「ゼンもやっぱりおかしいと思う?」

「そりゃあまあな」


 なんでいきなり災禍魔獣なんて伝説級の存在が姿を現した?

 平和な魔法学校の教室に。

 馬鹿の俺だってさすがに変だと思っちまうぞ。


「さっきの状況。封印で閉鎖された教室に割れた窓、現れた災禍魔獣、消えた教師。指し示しているのは一つだ」

「そうだな」


 あまり考えたくもない考えが頭の中を占めていた。


「どういうこと?」

「マコスタがあれを呼んだってことだよ」


 ベティアに答えながら俺は思い出していた。

 災禍魔獣の封印石板が一つ、入試の日に保管場所からなくなっていたという校長の言葉を。

 きっとあの日石板を盗み出したマコスタが、今その封印を解いたんだ。


「そ、そんなはずあるわけないでしょ。なんでマコスタ先生がそんなことするの。それに、マコスタ先生は魔獣を呼んだ犯人に捕まっているのかも」

「その可能性はあるだろうけど犯人がマコスタ教師と考えた方が辻褄は合うと思うよ。さっきも言った通り彼はあれで武闘派だ。そう簡単に捕まるとは思えない」

「でも……」


 サリアンに言われ、その先は言葉にならなかったようだった。

 だけどベティアはきゅっと口を引き結んで自分の頬をはたいた。


「ごめん。とりあえず今は集中しないとよね」


 階段をかけ上がり、屋上への扉が近づく。

 ドアノブに手をかける俺に、サリアンが言う。


「気を付けて。相手はどこからかかってくるか分からない」


 うなずいて、ゆっくりと扉を開けた。


「…………」


 慎重に歩を進めて見回す。

 広い……けど何もない。

 あるのは転落防止の柵と突き出た尖塔と、あとは広がる空くらいだ。


 どこにいる?

 緊張で頬に汗が伝う。

 だが数秒が過ぎても変化はない。


 もしかしてここにはいないのか?

 そう思った時だった。


「避けて!」


 サリアンの声で全員回避行動をとった。

 そのすれすれを、蛇のぬめぬめした体がこすっていく。

 ぶつかられていれば屋上からはじき出されて落ちていたかもしれない。

 一体どこに潜んでたんだ……!?


「隅の方の床面が記憶してる設計図面よりわずかに高かった!」


 サリアンの叫び声にぞっとする。

 擬態するとは聞いてたけどさすがにそこまでとは思ってなかった。

 サリアンの変態頭脳が役立ったことにもこっそりとビビった。

 ……いやビビってる場合じゃない。


 俺は必死で敵に指を向けた。

 禍神の頭上、そこに光が生じる。


「潰せ!」


 声に応じて巨大な拳が蛇を屋上へと叩き落とした。


「サンキュ、金剛ちゃん」


 現れた巨人は分厚い手足で禍神の翼を押さえつけ、何度も何度も頭突きを相手に叩き込んだ。

 やられた方はたまったもんじゃないだろう。

 やたらすさまじい連打に、禍神はぐたっとおとなしくなった。


「よっし捕まえたぜ!」


 歓声を上げる俺たちだったが。


「ダメね」


 冷たい声が俺の耳に刺さった。

 振り向くとミゼリアがいる。

 空中で足を組んで、禍神をついと指さした。


「今のあなたにそれを滅ぼすだけの力はないわ」

「どういうことだよ」

「相手は魔獣よ。邪神様ならともかくまだ全然置き換わってないあなたじゃまだ殺せない」


 つまり……まだ終わってないということらしい。


「じゃあどうすれば……」

「そこはアイディアの見せどころね。早くしなさい。時間がもうあまりないわよ」

「くそっ……」


 今聞いた内容をみんなに伝える。


「そんな……」

「なんか他の方法を探さないと」


 だけどそんな簡単に解決方法が見つかるわけもない。

 と、思いきや。


「簡単だよ。封印石板を探せばいい」


 そう言ったのはサリアンだった。


「多分マコスタ教師は封印石板から正規の方法で禍神を解放したはずだ。何かあった時に再度封印できるようにね。彼からそれを奪って封印するんだ」

「なるほどな」


 俺はうなずく。


「じゃあ探してもらうか」


 指を鳴らすと。

 突風が吹き、黒い影が視界を横切って消えた。

 疾風足の一角鬼だ。

 しかし、落ち着かずに待った数秒後に、目に見えない鬼は手ぶらで帰ってきた。


「手応えなし?」


 あり得ない。学園の中にはいないのか?

 ならまさかもう学園を出たのか?

 そうなれば時間内にこのクソヘビを封じるのは難しい……


「結界」


 そこで口を開いたのは、今まで存在感を消しつくしていたアルハだった。

 こんな状況でもどこかぼーっとしたままの目で、どことも知れない遠くを見回している。


「結界がある」

「え?」


 俺は聞き返してしまったが、ベティアはすぐに分かったようだった。


「本当だ……大きい」

「どういうこと?」


 アルハはそのまま黙り込んでしまったのでベティアに訊ねる。

 彼女は不安そうな目を周りに向けて言う。


「ここらへん一帯に結界が張られてるみたいなの。こんな大きいのは見たことない……」

「そうか……そりゃそうだ」


 サリアンがつぶやいた。


「禍神は空を飛べるしどこへでも行けたはず。でも学園内にとどまっていたのは結界が張られて外に出られなかったからだ。でも一体どうして……」


 どうして禍神の行動を制限したのか、ということのようだ。

 確かにただ禍神に暴れさせたいだけならその必要はないんだろう。

 わざわざそうしたのは……


「きっと俺狙いだな……」


 どういうわけかは知らないが、手紙やビラで脅してきたのもターゲットの俺に働きかけるためだ。


「ともかく、これで分かった。マコスタはまだ近くにいる。そして学園の建物の中にはいない」

「地上にも見える範囲では見つからないよ」


 柵の外を覗き込みながらサリアンが言う。


「じゃあ残りは……」


 俺は見上げた。


「消去法で、空だな」


 点ほどの大きさでしかなかったが。

 確かに上空に、その姿はあった。

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