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13.貼られたビラ

 うーむ、と。

 鉛筆を鼻と口の間に挟みながら、俺は考え込んでいた。

 もちろん昨日の夜のことだ。


 差し込まれた紙切れ。

 そこに書かれた学園を去れという言葉。

 あれは一体誰の仕業だったんだろう。

 俺は一睡もせず悶々と考え続けている。


 ……いや一睡もせずは嘘。

 かなーりガンガンに寝てたけど。

 でもすごく気になっているのは事実。

 今授業中だけどそれをそっちのけにするくらいには気がかりではある。


「ならお前は何のために入学したんだ」

「ベティアに会うためっす」


 反射的に答えてしまってエティサルに拳骨を打ちおろされた。

 くっそ、いってえ……


「ずいぶん余裕をこいてるようだな。お前なぞ魔力が強いだけの馬鹿のくせに」

「ひでっすよ。その馬鹿にやられたのは誰っすか」

「うるさい!」


 頭に巻いた包帯を手で押さえながらエティサルが怒鳴る。

 真っ赤になるほど怒っているようだけど、絆創膏だらけの顔じゃあんまり迫力はない。


 でもどう考えても俺が悪いと思ったので、謝る分はしっかり謝っておいた。

 先生はなんか謝り方が気に入らなかった感じの表情ではあったけど。


「考え事?」


 隣からひそひそとささやきかけてきたのはもちろんサリアンだ。

 なぜか妙に目をキラキラさせて聞いてくる。


「それ面白いこと? それとも厄介ごと? っていうかどっちもだね? どれくらい厄介?」

「お前に言う義理はねえ」

「僕たち友達じゃないか」

「記憶にないぞそんなの」

「ひどいや!」


 ヒートアップしすぎてつい声が大きくなった。

 エティサルににらまれていったん二人とも黙り込む。


「――で、どんな厄介ごと?」

「……これ」


 持ってきていた例の紙をサリアンに差し出す。

 サリアンは机の下でそれをためつすがめつ眺めまわして、それからきっぱりと言った。


「陰湿だね。キモい」

「犯人もお前にだけは言われたくなかったと思うぞ」

「誰がやったか目星は?」

「いや全然」


 ふうむ、とサリアンが鼻を鳴らす。


「僕もちょっと役に立てなさそうだ。この学校にいる全員分の筆跡は頭に入ってるけど、意図的に書き方変えられてたら突き止めようがないし」

「お前ホント期待以上にキモいよな」

「褒めてもなにも出ないよ」

「まあ褒めてねーし」

「で、どうする?」


 サリアンに聞かれ、鼻の頭をかきながら俺は答える。


「とりあえず放置で」

「いいのかい?」

「ただのいたずらならそれでもいいだろ」

「ただのいたずらじゃなかったら?」

「そのときはそのときで」

「えー」


 サリアンはなんだか不満そうだったけど。

 俺は無視して授業に意識を移した。

 それからいつの間にか眠っていたらしい。




◆◇◆




「ちょっと。ゼン」


 揺さぶられて、俺は顔を上げた。

 寝ぼけまなこで見上げると形のいい眉をきゅっと寄せて、ベティアがそこに立っていた。

 俺はさっと体を起こして目をこすった。


「おはようベティア!」

「おはようじゃないわよ」


 ため息をついてベティア。

 うんざりしたような顔もすんごい可愛らしい。

 俺はうっとりと顔を緩めながら訊ねた。


「何? 俺に用?」

「用っていうか……用だけど。一体あんた何やったのよ?」

「何って?」

「誰かの恨みを買うようなことした?」


 何のことだかさっぱり分からず俺は首を傾げた。

 そんな俺にイラついたのだろうか、ベティアはどことなく焦ったような顔で机の上に紙をぱん、と置いた。


「これ読んで」

「?」


 何の変哲もない紙だ。

 ビラみたいだけど。

 書いてある文章は少し長いが、最初に目についたのは『学園を去るべし』の一文だった。

 学園を去るべし? 見覚えがあるぞ?


「ええと、今年の入学者ゼン・タロンは試験において不正を働いた疑惑あり。名門の名を汚す愚か者、学園を去るべし……なにこれ?」

「わたしが聞きたいわよ」

「これどこで?」

「学園中に貼ってあるよ」


 そう口をはさんだのはサリアンだった。

 見ると教室の入り口から、何枚ものビラを手にこちらに歩いてくる。


「廊下の隅々、校舎の裏手から屋上まで。びっしりだねびぃっしり」

「……マジで?」


 そんな俺を見てサリアンは微笑む。


「これでも放置するのかい?」

「……」


 一体誰の仕業だ?

 こんな大がかりに責めたててくるなんて来るなんて。

 俺に恨み?

 誰の恨みを買ったっけ……


 真っ先に思いついたのは昨日ぶっ飛ばしたエティサルだけど……

 頭の中身を読んだかのようにサリアンが首を振る。


「それはないね。いくらなんでも……という話はおいといても彼にはアリバイがある」

「先生を疑ってるの?」


 とがめる口調でベティアが口をはさんだ。


「あなたたち、だいぶ先生に嫌われてるようだけどだからと言って彼が犯人と思うのは八つ当たりよ」

「でも共犯者がいる可能性もあるしなあ」

「ゼン!」

「ごめん」


 叱られて首をすくめる。


「だいたいゼンだって軽はずみなことしすぎなのよ。ズルしてるって疑われても仕方がないわ」

「……それ本気で言ってる?」


 俺の視線を受けてベティアははっと口をつぐんだ。


「……ごめん。言い過ぎた」


 ベティアの言葉でちょっとへこんだ。

 でもベティアが俺を心配してくれているってことは分かったから、半分くらいのへこみですんだ。


「まあ俺の力がズルっぽく見えるのはマジだ」


 っていうかズルっていえばズルかな。


「でもやっていいことと悪いことがあるだろ」


 ビラを貼って相手を脅すのはどっちか、と聞かれればばっちりに後者だ。


「じゃあどうする?」


 またキラキラした目でサリアンが言う。

 その期待に応えるのは正直嫌さもあったけど、それでも俺はうなずいた。


「とりあえずビラの犯人はとっちめとこう」

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