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11.ミーシャとアルハ

 突然のことに俺はめちゃくちゃ混乱した。

 なんか目の前に一瞬星が瞬いた。

 で、気づくとほっぺたが壁に押し付けられている。

 あと腕が痛い。

 極まってる。かなり深刻に痛い。


「動くな。少しでも反抗しようとしたら折るぞ」


 いやもう折れてるだろってくらい痛えよ!

 これ以上どう折れるんだよクソが!


「まだ折れる関節はいくらでもある。これはまだほんの小手調べだ。必要があればどんどん行くからな」


 はいごめんなさいちょっと調子に乗りました許して。

 諦めて横目で見ると、黒髪とつり目が少しだけ視界に入った。

 なんとなく覚えがある。

 確か……ええと……ミーシャマール・レトゥナ?


「詮索するな。質問はこちらからしてお前は答えるだけ」

「質、問……?」

「必要以上の発言は慎めと言っている」


 ぐおッ!?

 いってえええええええ!

 少しぐらいいいじゃねえか馬鹿ああああああああ!

 だけど俺の苦悶をよそにミーシャマールは話を進めてきた。


「では質問だ。お前は一体何者だ? お爺様とはどういった関係だ?」


 な、何者って……そんな大雑把な質問があるか!

 お爺様ってお前の爺さん誰だよ知らねえよ!

 動かせる範囲で必死に首を振る俺にミーシャマール、というかクソ女は舌打ちする。


「……質問の意味さえ理解できないクズめ」


 どっちかっていうといきなり人を尋問してるあんたの方がクズですけどもおおおおおおお!?

 ぎゃああああああああまた痛えええええええええ! あんまりだああああああああああああ!


「いっそ一本くらい折っておくか」

「もっとわかりやすく質問してくれよ!」

「わかりやすくも何もあるか。学長とはどういう関係だと聞いてるだけだ」

「早くそう言え! っていうか爺さんの孫かお前! 前街で知り合ったんだよ! それ以上はなにもない!」


 本当は本やらの受け渡しがあったけれど馬鹿としての勘がそれは伏せとけと囁いた。

 結構ギリギリの選択だったと思う。

 腕の感触からクソ女が迷ってる感が伝わってきた。


「……次の質問だ。お前はわたしの敵か?」


 また大雑把か!

 ああやめて痛い痛い痛い!


「だから、封印石板を奪った犯人かと聞いている」

「わざとやってんのか! 知らねえってば!」


 っていうかいい加減怒ったぞ!

 くらえや至近距離からのなんか強い魔法!


 適当にたぐりよせた力がそのまま手元で破裂した。

 腕をしっかりと極め固めていたなら避けられないはずの攻撃だったけど、クソ女は当たり前のようにかわしたようだった。

 でもそれで腕の拘束は解けた。


「……っつぅ」


 痛めた肩を押さえながら俺は振り向く。

 クソ女はそこに立っている。

 長身だ。俺よりも少し背が高い。

 敵意の凛としたまなざしをこちらにひたりと据えている。

 構えず自然体で、でも距離を測るような気配をにじませて口を開いた。


「なんだそれは」

「大雑把もいい加減にしろ」

「その力は何なんだと聞いている」


 言われて俺はつんと顎を上げた。


「力は力だ。俺の魔力だ」

「入学前はそんな力はなかったと調べはついている。一体どこで手に入れた」

「隠してたんだよバーカ!」

「力ずくでも吐かせるぞ」


 それこそ全関節を折るくらいの口調でクソ女は言った。

 できるもんならやってみろ。

 俺も応じて構えを取る。

 ついでにちょいちょい、と指先で挑発する。


 それを見てクソ女はわずかに目を細める。

 ――と思った次の瞬間には俺の視界から姿を消した。

 速!?

 ジャッ、と靴が床を擦る音が右からする。

 俺はその方向へと無我夢中で魔法を放とうと――


「そこまで」


 声がした。

 見ると校長室の扉から顔だけのぞかせて校長がこちらを見ていた。


「ミーシャ。クラスメイトをいじめないように。以後暴力を禁止する」

「はい……ごめんなさい」


 クソ女がうなだれて返事する。

 俺が魔法を放とうとした方向の反対側から。

 さっきのはフェイントだったらしい。

 尋常じゃねえ動きだな……


「ゼン君も孫娘が悪いね。仲良くしてやってくれ」

「……努力くらいはするっす」


 ぱたん。

 校長室の扉が閉まって、あたりは再び静かになった。

 振り返ると、クソ女はもう廊下の向こう辺りを歩いている。

 なんなんだよ。

 と思って見ていると、角を曲がるところでこちらに一度にらみをよこして消えた。

 いやホントなんなんだよ。


「ミーシャマール・レトゥナ。潔癖気味のわりにちょっと抜けたところもある。繰り返しだけど校長の孫娘。で、生粋のおじいちゃんっ子。戦闘に特化した技能を持ち、将来は封印石板警備隊に入ることを目指している」

「……」


 唐突に横から生えたサリアンを半眼で見やる。

 いつからそこにいた。

 っていうかずっと見てたのか。

 俺の助けに入らずに。


「だって僕は荒事全般苦手だもの。魔法実技も全然駄目だよ。代わりに筆記で満点取ったから特例で入学できたようなもんだし」

「マジかよ最低だな」


 思い切り貶したつもりなんだけどサリアンは爽やかに微笑んで受け流した。

 ああ無理だなコレ。

 こいつ後悔反省には縁がないタイプだ。

 まあいいけど。期待してたわけじゃねえし。


「くっそ……それにしてもいってえ……」


 肩を押さえてうめく。

 折られはしなかったけれど筋がやられたっぽい。

 動くのには支障はないけどしばらくは痛みは取れなさそうだ。


 その時すっ……と。

 背後に気配を感じた。


「癒せ天を翔ける灯に」


 声と共に痛めた肩に温かみを感じる。

 一時的に血行が良くなったような不思議な感覚。

 驚いて振り向くと、そこには淡白な光をともす瞳がある。

 近い。


「うお!?」


 のけ反る俺をしばらくぼーっとした目で見つめて。

 その女子は現れた時と同じ唐突さでこちらに背を向けた。

 ショートにした銀髪の頭がゆっくりと遠ざかっていく。


 ええと、やっぱり同じクラスの女子だ。

 なんつったっけ……確か……


「アルハ・マグラット。得意分野は治療・修復魔法。無感動症気味の――」

「いやそこまででいい」


 サリアンを黙らせてもう一度アルハの方を見る。

 低い背丈で歩幅も狭い。

 おまけに歩みはのんびりだ。


 俺は肩を回した。

 痛みはさっきより断然軽くなっている。


「治療修復専門か……助けてくれたのかな」

「気に入られたのかもね」

「なんで?」

「さあ。そこまでは」


 サリアンと二人並んで。

 どうにもすっきりしない腑に落ちなさを感じながらアルハの背中を見送った。

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