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1.半年後邪神になる俺

 夢を見ていた。

 昔の、幸せな夢だ。

 まだ小さい俺は原っぱに座っていて、隣には同じくらいの歳の女の子もいる。

 彼女のほっそりとした指は集めた花を優しい手つきで編んでいて、うつむくようにした頭に、日の光がきれいな光の輪を作っていた。


 一心不乱の彼女に俺は、手伝おうか? と聞く。

 彼女は首を振る。

 俺は小さく笑って伸びをする。

 幸せな待ち時間。

 風が俺たち二人の頬を撫でて通り過ぎていく。


 もうすぐ彼女の花かんむりは完成する。

 そしたら気持ちを伝えようと俺は決める。

 彼女の指は少しずつ花の茎を編み込んでいく。

 俺はずっと待っている……


「ほう。それはさぞかしいい夢なんだろうな」


 いきなり声がして、ごん、と頭に衝撃が抜けた。

 いってえ!


 慌てて顔を上げると神経質そうに目をつりあげて、男がこちらをのぞきこんでいる。

 見回すと原っぱなんかどこにもなくて、長机が並んでて、教室で、驚いた顔、呆れた顔、面白がるような顔が同じようにこちらを見ていた。


「あっれ……ベティアは?」


 隣にいたはずの女の子の名前をつぶやくと、男がフン、と鼻を鳴らした。


「スネイズのことなら隣にいるだろうが」


 言われて見ると確かに女の子はそこにいた。

 だけどもう幼くはない。

 可愛らしかった顔立ちはさらに端正に整って、短かった金髪は長く伸び、背も高くなっている。

 成長した姿のベティアは心底呆れたように言った。


「なに? 夢でも見てたの?」


 夢?

 俺はしばらく虚空を眺めて考えて。

 それからポン、と手を打った。


「あ、夢か」


 どうやら授業中に居眠りをしてしまっていたらしい。

 納得したところでぎりぎりぎり、と妙な音がした。

 見上げると例の神経質男、最上級魔法教師のエティサルが歯ぎしりしていた。


「お前……そんなにわたしの授業が嫌いか?」

「まあ正直……」


 素直に答えてしまってから、俺は慌てて付け加えた。


「でも授業と名がつくならどんな先生のでも嫌いっす! 多分!」

「そぉか……」


 何か苦くてでかくて硬いものを無理やり飲み下すような顔をしてからエティサルはこちらに背を向けた。


「もういい……もう好きなだけ寝てろ。だが他の奴の邪魔はするな」

「邪魔?」

「授業中くらいいびきは小さくしておけということだ!」


 がつがつと足音を響かせながらエティサルは教壇へと戻っていった。

 俺は首をすくめた。あからさまに不機嫌だ。

 人が寝てると機嫌が悪くなる体質なんだろうか。だとしたら不便すぎる。結婚相手を探しているらしいけど当分は無理そうだ。可哀想に。

 俺はもう一つ思いついて一応忠告しておいた。


「先生も歯ぎしりは小さくしといた方がいっすよ。歯に悪いっす。絶対」


 すぐに藪蛇だったと気づいた。

 その瞬間視界に光が膨らんだからだ。

 こちらに向けられたエティサルの手に敵意むき出しの光の球が強く輝いている。

 無詠唱の超高速発動魔法だ。


 ただしそれを目で追えたのはほんの一瞬だけだった。

 次の瞬きの後には俺の目の前までその光球が迫っていた。


「やっべ……」


 つぶやく余裕があったかどうかも分からない。

 もう当たる。

 いや、本当はもう当たっているけれど、感覚が追いついてないだけかも。まずい。

 だけどいきなりガチリと時間が凍ったように目に映る光景が止まり、どこかからか声がする。


「やあね人間って。怒りっぽくって品がない。おまけに振るう暴力もこんなに中途半端ときているんだもの」


 そう言う割には面白がっているような口調だった。


「それなら思い知らせてやりましょう。わたしたちの力を!」


 声に返事をする時間もなかった。

 反撃へのタイムラグも多分ほぼほぼゼロだった。

 だから俺は悪くない。きっと。


 防壁が展開する。ぶつかった光球の進行方向がひっくり返る。

 威力と速度を倍加された魔法は、逆流そのままエティサルの足元に直撃した。

 教室が激しく震える。

 壁にぶつかってぽとりと床に落ちるエティサルと、まだ着弾点で渦を巻いている炎を見て俺はうめく。

 容赦なさすぎねえか……?


「当たり前でしょ、わたしたちは半年後には邪神になる存在なのよ? 人間なんかに舐められてたらダメでしょう」

「別にそんなことなくね?」


 いつのまにか横にいた黒いドレス姿の美女に顔をしかめる。

 急に現れた彼女だけれど、教室のみんなは誰も気づいてもいない。

 倒れたエティサルの方が心配というのもあるだろうけれど、そもそもこの女は俺にしか見えない存在なのだ。


「じゃああのままぶっ飛ばされていたかったの?」


 そう言われて腕を組む。


「いや。それはないな。絶対」

「でしょ? じゃあ文句はなし。いいわね? ゼン」


 同意の印に、俺は大きくうなずいた。


 これが最近の俺の日常。

 でもほんの一ヶ月くらい前までは俺はただの馬鹿で魔力もなくて、とてもこの名門のレトゥナ魔法学園にいていいような生徒じゃなかった。

 それがなんでこんなことになっているのか。

 時間を巻き戻して手短に説明しようと思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何か、面白そうな“お話し”が、始まりましたねぇ…これは要チェックだわ‽ [一言] 期待してます。頑張って。
2021/02/11 21:50 退会済み
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