8話 エルミー、従者(仮)になる
「失礼しました。危険だと思ったもので」
エルミーは3人の前に姿を現し、敵意のないことを示すためクロスボウを置く。
「初めまして、エルミーと申します。勇者様の従者にさせて頂きたく、参上しました」
勇者と思しき女の子は目をパチクリさせている。
男は腕を組み記憶を探る。
「エルミー・・聞いたことがある。もしかして『強欲』の息子か?」
「よくご存じで」
隣国のことなのに、そんなことまで知っている男に驚くエルミー。
「とりあえず自己紹介しておこう。俺はミゲル、戦士だ」
「わたしはリリア。見ての通り神官です」
「わたしはユーリ! みんなは勇者って呼ぶよ」
「『強欲』の息子のエルミーです。スカウトを生業としています」
「優秀なスカウトは喉から手が出るほど欲しい。・・ユーリはどうだ?」
ミゲルがユーリに問う。
「正直何がなんだかわからないけど、ミゲルの判断に従うよ」
「じゃあしばらく同行して様子を見て、よければ従者になってもらおうか」
「うん、そうだね」
「はい、よろしくお願いします!」
エルミーはとうとう勇者のパーティに加入した。
「それと、先々代の勇者ケンジ様からこれを預かっております」
エルミーは剣を包んだ布をユーリに差し出す。
「ケンジさん? ニホンジンなの?」
リリアが答える。
「歴代の勇者様は全て異世界人・・ニホンジンですよ」
ユーリが巻いてある布を外し、中身を確認する。
「なんだろうこの剣・・なんだかしっくりくる」
「まさかこれは・・聖剣?」
「!」
ミゲルが仰天し、リリアは息を飲む。
「そうです。ケンジ様が魔王を倒した聖剣です。自分には不要だから新しい勇者に渡して欲しいと」
ユーリはポロポロと涙を流す。
「ど、どうされました・・?」
慌てるエルミー。
「ううん、心配してくれて、力になってくれる同じ故郷の人がいて嬉しくって・・」
鼻をすすり上げるユーリ。
「ケンジ様は新しい勇者様のことを気にかけておられました。今は遠くにおりますが今後お会いできることもあるでしょう」
「うん! とっても心強いよ!」
ユーリが剣を鞘から抜くと光が迸る。やはりユーリは勇者なのだ。
「で、伝説の通りだ・・」
ミゲルが呆然とする。
「その光が出せるのは異世界人だけだそうです。私も抜いてみましたが何も起きませんでした」
「この剣があれば100人力だよ。あとは兄さんさえいてくれれば・・」
「また兄の話か?」
「本当にユーリさんはお兄さんが大好きですね」
笑いあうミゲルとリリア。
一息ついたところでミゲルがユーリに告げる。
「じゃあ今度はその剣で続きだな」
「えっ、まだやるの?」
「終わらなきゃ帰らないと言っただろ。エルミー、何か獲物を探してくれないか? バインドはリリアがやる」
「承知しました」
エルミーはユーリの試し斬りに手ごろな獲物を探すため、森へ駆け出した。
従者物語②はこれで終わりです。
なんだか盛り上がりに欠ける終わり方になってしまいました・・。
従者物語③は別の勇者の話となります。