7話 新たな希望
手紙にはこう書かれている。
エルミーへ。これを読んでいるということは勝負は俺の勝ちだな。
何が国一番のスカウトだ? お前はまだまだ未熟だ。
あの試験はお前がギルドマスターになるためのもので、従者になるためのものじゃない。
従者なんて大それた夢は捨てろ。分相応ってものがある。
じゃあな。
「クソ親父!」
エルミーは手紙を床へ叩きつけた。
「キール様は坊ちゃんを次のギルドマスターに指名しました。もう認可されています」
「俺はギルドマスターなんかにならない。新しく召喚される勇者様にこの剣を届けて、従者になるんだ」
「そういえばその剣は・・?」
「ケンジ様の使っていた聖剣だ。新しい勇者様に渡して欲しいと」
「なんと・・み、見せて頂けますか?」
ゴトリーは勇者マニアだ。かつて従者だったキールに憧れてずっと仕えてきたのだ。
「ああ、だが異世界人以外には普通の剣らしい」
エルミーはゴトリーに剣を渡す。ゴトリーは震える手で受け取り、食い入るように剣を調べる。
「確かに見た目は普通の剣ですね・・」
鞘から剣を抜いても何も起こらない。
「ケンジ様が鞘から剣を抜いたときには光が溢れたが、俺たちには無理のようだな」
「大変貴重なものをありがとうございます。もう手は洗いません」
ゴトリーは剣を両手で掲げてエルミーに返す。
「よし、ギルドマスターとして命じる。俺は引退、次のギルドマスターはゴトリーだ」
「私に務まるでしょうか・・」
「今までも実質はゴトリーが仕切っていたようなものだろ。何も問題はない」
「ありがとうございます。キール様の名を汚さぬよう、精いっぱい頑張ります」
ゴトリーは頭を下げる。
「俺もすぐ出発する。母に会ったらよろしく伝えておいてくれ」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
エルミーはゴトリーに見送られ、ギルドを後にする。
数日後、エルミーはバーガラ王国の王都に到着した。すぐに冒険者ギルドで情報を集める。
既に勇者召喚が行われており、冒険者ギルド内も勇者の話題で持ち切りだ。
「今回の勇者は若い女性で、非力だが強力なユニークスキルを持っているらしい」
「俺この前見たぜ。かわいい娘だった」
「早速神殿から一人派遣されて、従者になったぞ」
「この前来たときに世話焼きミゲルが面倒を見ていたが、あいつも従者になるのか?」
「俺も従者になるぜ。ずっとこの時を待っていた」
「お前じゃ無理だろ。諦めろ」
座って聞いているだけで情報は集まった。今は戦闘訓練で近くの森にいるようだ。
早速勇者の元へ向かうエルミー。
「無理無理無理! そんなのできないよ!」
「ユーリさん・・頑張りましょう」
「終わらないと帰らないぞ」
茂みの向こうから賑やかな声が聞こえる。
女の子が魔法で動けなくなったゴブリンに剣を向けてはいるが、切りかかることができないようだ。
(あれが勇者か?)
「ううう、えーい!」
女の子は覚悟を決めてゴブリンに切りかかるが力が足りず、肩口を浅く切って鎖骨で刃が滑り、それがゴブリンの首に刺さる。ゴブリンからギャア! と悲鳴と怒号が上がる。
「あああ、ごめんね!」
「謝ってどうする」
「ユーリさん、ちゃんとトドメを」
そこで魔法がとけたのか、ゴブリンがユーリに襲い掛かる。
他の二人も構えるが、エルミーはそれより早くクロスボウでゴブリンの額を撃ちぬいた。
「誰だ!」
男から誰何の声が上がる。