6話 タリスマンの秘密
「悪いが従者は俺だ。一番強い奴、腕のいい奴が勇者のパーティに入れる。そうだな?」
「う・・」
エルミーはしびれ薬の影響でまだ声も出せない。しかしキールの言うことを認めるしかなった。
勇者ケンジも勝った方を従者に、と言ったのだ。
「息子さんかわいそう・・」
「まあしょうがない。スカウト枠は1つだけだ。負けた方を仲間にはできないよ」
ケンジは口調こそ気さくだが冷徹だ。
「ああ、キール、フェリス。実は北の魔王は新しい勇者に任せようと思うんだ」
「なに、じゃあ俺たちはどうするんだ?」
「実はもっと面白い相手がいてね・・古き魔王というんだが」
「知っています。魔界の底に封じられているとか」
「そうそう。僕らはそっちを目指そうと思うんだ。どうかな?」
「そりゃ面白い、ぜひ行こう!」
「私達なら魔界の底にも行けるでしょうね」
キールもフェリスもやる気だ。
「そう言ってくれると思ったよ」
エルミーはようやく薬が切れはじめ、起き上がれるようになった。
そこへケンジが近づき、話始める。
「エルミー、君に頼みたい仕事がある。ボクが作った聖剣、かつて魔王を倒した武器だ。それを新しい勇者に届けて欲しい」
「おいおい、お前の武器はどうするんだ?」
「僕はもう剣を振るう力がない。力が無くても使える武器を用意してある」
「なるほど、準備がいいな」
「こんなこともあろうかと、って奴が好きでね。色々作ったんだ」
「かしこまりました、ケンジ様。聖剣はどこに?」
エルミーはまだ口が動きにくいが、失礼のないよう声を絞り出す。
「まだ動けないだろう。ちょっと待っていてくれ」
ケンジは家に戻り、やがて鞘に入った一振りの剣を持ってくる。
ケンジが鞘から剣を少し抜くと、鞘と剣の隙間から光が迸る。
「よし、大丈夫だ。これは異世界人専用の武器で、この世界の住人が使っても普通の剣と変わらない。新しい勇者は異世界に一人で心細いはずだ。これが力になれば僕も嬉しい。頼んだよ」
「必ずお渡しします」
エルミーは立ち上がり、剣を両手で受け取り頭を下げた。負けた自分に大仕事を頼んでくれたのだ。絶対に期待に応えてみせると固く誓った。
「じゃあな、エルミー。達者で暮らせよ」
キールは意趣返しか偶然か、エルミーがキールに掛けた決別と同じ言葉をかけた。
帰り道、エルミーは敗北感と屈辱でいっぱいだった。
自分は思いあがっていた。父親に手も足も出ず、勇者の前で無様な姿を晒してしまったのだ。
暗鬱な気持ちでギルドに戻ってきた。おそらくもう知っているだろうが、念のためゴトリーにギルドマスターたる父が旅に出ることを伝えなくてはならない。
エルミーに気づいたギルド職員が、すぐにゴトリーを呼ぶ。
「坊ちゃん、お帰りなさい。その様子では・・」
「ああ、父がケンジ様の従者になった。なぜか若返っていてな」
「キール様が若く・・? ひとまずこちらへどうぞ」
二人でギルド長室に入り、扉に鍵をかける。
「実はこんなものが」
ゴトリーが持ってきたのはガラクタと化した装飾品の欠片だ。
「これは・・親父のタリスマンか?」
「そうです。おそらく・・タリスマンの特別な力を使ったのでしょう」
「スペシャルパワー?」
「キール様が酔ったときに聞いたことがあります。タリスマンが壊れるのと引き換えに、一度だけ使える強力な力があると」
「それで若返ったのか? そういえば」
エルミーは思い当たった。もう一人のフェリスという女性やケンジと父の会話でも、使った、若返ったという単語があった。
「もう一人の従者も若返ったようだった。そうか、このタリスマンにそんな力が・・」
ケンジの言葉が脳裏によみがえる。こんなこともあろうかと・・。
「ユニークスキルが使えるときにこんな先のことまで考えていたのか。恐ろしいお人だ」
ゴトリーは手紙を差し出す。
「キール様よりお預かりしております」
エルミーは手紙を広げる。