5話 激突
「先手を取らせてやろう。来い」
男はエルミーを挑発する。
エルミーはステータス看破を使うが、看破は妨害され男のステータスは分からない。
(こいつは誰だ? こんな凄腕のスカウトが国内にいるなんて聞いたこともない。国外から来たのか?)
エルミーは相手を図りかねるが、倒す以外に道はない。
(誰だろうとやるしかない。奴よりも俺の方が上だとケンジ様に証明しなくてはならない)
無言で小型の連射クロスボウを取り出し、構えると同時に装填し、動きを予測して3発連続で放つ。
男は胸に飛んできた矢だけをナイフで弾く。他2発は当たらない。
エルミーは次に5発連続で全て男に集中して放つ。今度は男は大きく避け、やはり当たらない。
(対人慣れしている・・俺より経験がありそうだ。奇襲で一気に勝負をつける)
「インビジブル」
エルミーは奥の手を使う。エルミーの姿が掻き消える。
「ほう・・」
ケンジが感心した声を出す。
男はエルミーの姿が消えると即座にポーチから袋を取り出し、中身を周囲へバラまく。
男の周りに白い粉が舞う。
「!」
近づいてナイフで攻撃しようとしていたエルミーは驚愕した。これではインジビブルで近づいても場所がすぐわかってしまう。
あわてて距離を取り、クロスボウでの攻撃に切り替える。
だがあせっていたエルミーの動作は、集中していた男に察知されてしまう。
「そこか!」
男はエルミーにスリングで何か放った、と見えた瞬間に白い閃光が当たりを包む。
閃光弾の目くらましだ。
「うっ」
まともに喰らってしまったエルミーは反射的に顔を伏せ、手を覆ってしまう。
インビジブルが解除され、エルミーの姿が現れる。
そこに男のスリングが再度投擲される。
エルミーは為す術もなく男のスリング弾を頭部に受けた。どうやら中身はしびれ薬の粉末のようだ。
エルミーは懸命に抗うが体は言うことを聞かず、膝をつき、やがて倒れて動けなくなった。
「勝負ありだな」
男が告げる。
「これはもらっておこう」
男はしびれて動けないエルミーからタリスマンを取り上げる。
うつぶせに倒れ周囲を見ることのできないエルミーに、会話だけが聞こえてくる。
「久しぶりだなケンジ。また世話になる。なんだフェリス、お前も使ったのか」
「当たり前でしょ。若いって最高だわ!」
「久しぶりだねキール。先に息子さんが来たから君はこないのかと思ったよ」
(キール!? 相手は親父だったのか。どうしてあんなに若くなっている?)
混乱するエルミーだが声も出せず、誰も疑問には答えない。
「実は息子に任せるか悩んだんだが・・俺にはそんな謙虚なことは無理だった」
「『強欲』にそういう考えがあっただけでも驚きだよ」
「若返る手段があると知っちゃったら、誰だってそっちを選ぶわよ」
「君とフェリスはタリスマンを使ったんだろ? 息子さん、エルミーが持っていたのは誰のかな?」
「リゼロットのやつだ」
「ああ、彼は亡くなったんだね・・。ヒーラー兼タンクなんて見つかるかなあ」
「お前が声をかければすぐ見つかるさ。それにヒーラーとタンク別々の二人でもいい」
「そういえばそうだね。あとはアタッカーだけど、イゼットリーは?」
「奴は行方が知れない。大陸に行った可能性が高い」
「そうか。じゃそっちも新規募集だね」
「アタッカーは私の知り合いにオススメがいるわよ」
「それは助かる。紹介してもらおうかな」
「さて・・エルミー」
キールがエルミーのそばにしゃがみ、声を掛ける。