4話 勇者を訪問
キールはギルド長室で一人酒を煽っていた。
さすがの彼でもエルミーの言葉は少しこたえた。
「俺は親としては失格なんだろうな・・だが」
(俺は『強欲』だ。人から嫌われようと自分が欲しいものを手に入れる。そういう男だ。今更生き方なんて変えられるはずもない)
キールは無意識に胸元のタリスマンをまさぐっていた。
彼は立ち上がり、彼だけが知る秘密の隠し部屋へ向かう。周りを確認して素早く入り、扉を閉める。
そこにはかつて従者だったころの装備品、愛用のスリングやナイフ、勇者ケンジの作ったアーティファクトなどがきちんと整理されて置いてある。どれか一つでもオークションに出れば天井知らずの値段がつくだろう。
「エルミー、お前はまだ未熟だ・・」
タリスマンを入手したエルミーは勇者ケンジの居場所を探し、2日後に突き止めた。
そして今、勇者の住まう家の扉を叩いた。
「はーい、どなた?」
一般家庭と変わらないような、間延びした女性の声があがる。
「エルミーと申します。勇者ケンジ様の従者になるべく、参上いたしました」
「あらあら、よく場所が分かったわね」
扉が開けられ現れたのは、のんびりした声からは想像もつかない、溌剌とした若い女性だった。
使い込まれた三角帽子にローブ。一見して凄腕の魔術師だと分かる。
「あなたはキールの息子さんね。私はフェリス。あなたのお父さんと同じ、ケンジ様の従者だったの」
「初めまして。キールの息子のエルミーです」
エルミーは挨拶しながら、父と同じくらいの年齢のはずなのになぜこんなに若々しいのかと疑問に思う。だが女性にいきなり年齢の話をするわけにもいかない。
「ケンジ様のところに案内するわ」
「よろしくお願いします」
エルミーはフェリスに応接間に案内される。そこにはソファに座る勇者ケンジの姿があった。
「ケンジ様、初めまして。キールの息子、エルミーと申します。父に代わり勇者様の従者となるべく参上いたしました」
「どうも丁寧にありがとう。君が小さいときに会ったことがあるが覚えているかな?」
「いえ・・申し訳ありません」
「いやいいんだ。本当に小さい頃だったしな。しかしキールの息子がこんなに礼儀正しいなんてなあ」
ケンジは苦笑する。どうやら気さくな性格のようだ。
「スカウトはある意味パーティの要とも言える。僕は最高のスカウトを仲間に入れたい」
「おっしゃる通りだと思います」
「君は自分が最高のスカウトだと僕に証明できるかい?」
「父からの試験で、タリスマンを手にいれております」
エルミーはタリスマンを見せる。
「実力は充分のようだね。だが・・ライバルが来たようだよ」
「ライバル・・?」
その時外から殺気が膨れ上がった。いつの間にか外にもう一人いるようだ。
エルミーは周囲を警戒していたつもりだが全く気付かなかった。
手近な窓から外に飛び出し、殺気の方角へ向かう。
そこには使いこまれた装備の、一見して油断できぬ相手と分かる精悍なスカウトが立っている。
「勝ったものが従者だ。それでいいね?」
エルミーの後ろからケンジの声がした。
「死んでも恨むなよ」
相手の男はニヤリと笑いエルミーに告げた。