3話 侵入
公開されているため、神殿のタリスマンの場所は分かっている。
エルミーは深夜に忍び込み、タリスマンが見える場所まで行くが
(やっぱりいるよな・・)
ゴトリーがタリスマンの棚の前に陣取り、定期的に左右を見て、天井や床を見て、背後のタリスマンが無事か確認している。ゴトリーなら朝まで休みなく、この動作をずっと繰り返すだろう。
(さてどうするか・・インビジブルで姿を隠しても棚を開けるときに気づかれるだろうし、離れたところで物音を立てたり騒いでも、ゴトリーは動かないだろう。殺す訳にもいかない。眠り薬などは対策しているはずだ)
しばらく悩むエルミー。
(ゴトリーが動く方法・・そうだ)
エルミーは棚の側に欠片ほどの小石を投げる。カラカラとゴトリーが反応するくらいの音が立つが、タリスマンが無事なのを確認するとやはり動かない。
しばらく待ちゴトリーがタリスマンを確認するタイミングで、タリスマンにインビジブルをかける。
ゴトリーは驚愕した。手段は分からないが、いつの間にか棚の中のタリスマンが無くなっていたのだ。先ほどの物音のときに何か細工されてしまったのだろうか。
盗まれてしまったのならもうここにいる意味はない。盗難を報告するため駆けだしていく。
エルミーはゴトリーの姿が見えなくなるとすぐに棚を開けタリスマンを手にした。
父親に報告しにギルドに戻り、タリスマンを見せる。
「親父、試験は合格だな」
「ああ、後はお前がケンジに認められればお前は従者だ」
珍しく素直に引き下がるキール。父親を認めさせたエルミーは態度を必死に隠していたが、内心は喜びでいっぱいだった。
そこへ顔面蒼白なゴトリーが戻ってきて、部屋に入るなり土下座する。
「申し訳ありませんキール様。タリスマンを盗まれてしまいました。この罰はいかようにでも」
エルミーは盗んだのは自分だと説明しようとするが、キールは激怒する。
「ゴトリー、わざわざ教えてやったのにまんまと盗まれるとはな。本当に使えないやつだ。貴様なんぞに副ギルドマスターは任せておけん」
ゴトリーはまた頭を地面にこすりつける。
「私の力不足で、本当に申し訳ありません」
「やめろ! ゴトリー、盗んだのは俺だ。親父の命令でやったんだ。それにゴトリーが副ギルドマスターを辞めたら、ギルドがメチャクチャになるだろ」
キールはほとんどギルドマスターの仕事をせず、ゴトリーに任せきりなのだ。
「エルミーでしゃばるな。コイツがいなくても俺が全部できる」
「できるわけないだろ!」
「できるさ」
誰が考えても普段ゴトリーに任せきりなキールがギルドマスターの仕事をこなせる訳がないのだが、キールは平然と言い放つ。
「今までずっと親父に仕えてくれたのに一度の失敗で見捨てるなんて、それが上司のやることか? 親父だって失敗してきただろうに」
「坊ちゃん・・」
ゴトリーは自分をかばってくれるエルミーに感激する。
「エルミー、お前には関係ない話だ。コイツは俺が頼んだ仕事を失敗した。俺ならこんなミスは絶対にしない。無能を副ギルドマスターにしておくわけにはいかん」
「俺とゴトリーのどちらかが失敗するのは最初から分かってたことだろ!」
(もし失敗したのが俺でも、こんな風にこき下ろされたんだろう。もう着いていけない)
「ゴトリー、こんな奴に奴隷のように使われることはない。お前に合ったもっといい仕事がいくらでもある。離れられて幸運だ」
「なんだと・・」
キールは立ち上がりかけるが、
「親父、あんたみたいな暴君は見たことがない。だから妻も、部下も、息子もあんたの元を去っていく。一人で達者で暮らせよ」
エルミーはキールの元を去った。